ふと思い立って「草枕」を読み返してみた。

souseki
 ふと思い立って「草枕」を読み返してみた。もちろん、夏目漱石の「草枕」。

 少し読み進んで、思い出した。そう、たしか、ぼくが遥かなむかし、初めて書いた物語のことを「これは、ぼくの草枕だよ」と言っていたんだ。なるほど、ちょっと似ているね、さすがに、あんまり古い話だから、もう、他人事みたいだけど。

 そのうちに、またふと思って、ネットで調べてみた。漱石が小説家だった時間は、わずかに12年ほどしかない。「吾輩は猫である」から、未完の「明暗」まで。あれだけ影響力のある作品群を、その短いあいだに書いている。そして、50歳で亡くなっている。およそ100年前の人とは言え、まだまだ、ずいぶんと若かったんだなあ。

 同時期の、20世紀初頭。グスタフ・マーラーも、たしか51歳になる数週間前に亡くなっている。おふたりとも、病気やら、家庭の事情やら、その他、苦労の絶えない人生だったようだけど、でもまさか、そんなに早くお迎えが来るとは思ってなかったんじゃないかな。漱石は「明暗」の執筆中だったし、マーラーは、その直前に、あの壮大な「第9シンフォニー」を、ものすごいスピードで完成させて「10番」の草稿まで書いている。まあ、あの曲には死の影がある、とも言われているけど。

 まあ、もう、いつお迎えが来ても、不思議ではない、そういう年齢なのかもしれない。

 19世紀の世紀末は、「ヨーロッパの没落」だった。そして、それからおよそ100年が過ぎて、いま「アメリカの没落」が始まった。ほんとうの意味での「世紀末」が、ようやく始まるのかも知れない。

 じたばたするなよ。