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【2008/11/17】

  脳波や脳の動きをユーザー・インタフェースに利用するという実用開発が最近になって様々なところで進んでいて、そのことが記事になり報道されています。
 
  今回は、『WIRED SCIENCE』に掲載された 記事を紹介します。

● 思考するだけでコンピューターを操作

  身体に麻痺を持っている研究者達が、思考するだけでコンピューターを操作するハードウェアをテストしています。
 
  ALS患者であるペンシルバニア大学神経科学の教授 Scott Mackler氏は、コンピューター(パソコン)を操作するために、電極に覆われた帽子をかぶります。この電極は彼の脳から出ているわずかな電気信号を感知して、コンピューター(パソコン)に伝えます。
 
  コンピューター(パソコン)の画面上で点滅する文字列を見ながら、入力したい文字が表示された瞬間に「それだ!」と思うだけで、Mackler氏は文章を構成していきます。このブレイン-コンピューター・インターフェースで、彼は仕事を続けて科学論文を執筆し、彼の子ども達にメッセージを送ることさえできるようになりました。
 
  また、脳卒中の後遺症がある Cathy Hutchinsonさんは、運動野と呼ばれる脳の部分に直接電極を埋め込んでいます。彼女は装置から『60 Minutes』の番組スタッフや、取材中の Scott Pelley記者に電子メールを送ったり、楽器を演奏したり、電動車椅子を操作する様子を見せました。
 
  ブレイン-コンピューター・インターフェース実験装置は彼らの人生を劇的に改善しました。
  神経科学者が、思考を形成する電気信号を観察して解き明かし、ユーザーがフィードバックを提供していけば、装置はより速く、より滞りなく動くようになるでしょう。
 
ブレイン-コンピューター・インターフェース(brain-computer interface)
 
  人間の脳とコンピューターを接続して手足を動かすことなく、脳から直接情報を取得し、思考するだけで機械類を動かすことができる装置。
 


【2008/08/02】

  米科学誌『Science』電子版(現地時間 7月 31日付)や、各報道機関の記事によると、ALS患者の皮膚細胞から万能細胞「人工多能性幹細胞(iPS細胞 : induced pluripotent stem cell)」を作ることに、米のハーバード大学とコロンビア大学の研究チームが成功したとのことです。
 
  ALSの原因解明や治療法開発が期待されます。

● ALS患者の皮膚細胞から、iPS細胞を作製

  ハーバード大学とコロンビア大学の研究チームは京都大学の山中伸弥教授が開発した手法を用いて、遺伝性ALS患者(女性 82歳)の皮膚細胞に、4つの遺伝子を組み込んでiPS細胞を作り、更に胚性幹細胞(ES細胞)で開発された手法により、iPS細胞から運動神経細胞と、グリア細胞に成長させることに成功させました。
 
  ALSの9割以上は遺伝性ではない非遺伝性ALS(弧発性ALS)ですが、研究チームは今回の手法は、非遺伝性ALSの研究にも共有可能としています。
 
  しかし、ALSで起きる異常を再現させることは、まだ出来ていませんし、iPS細胞作成の際に組み込んだ遺伝子には、がん遺伝子が含まれているなど、今後への課題があります。
 
  グリア細胞については、【2008/02/06】の記事をご覧ください。
 


【2008/07/27】

  国内の報道機関の記事によると、産業技術総合研究所の研究者達は、神経や筋肉、臓器などのあらゆる細胞に成長する万能細胞(iPS細胞)によく似た、がん化しにくい細胞を作ることに成功したとのことです。
  今後の開発が期待されます(【2007/12/01】の記事もご覧ください)。

● 新しい手法によるiPS細胞の作製

  産業技術総合研究所 バイオセラピューティック研究ラボ(Biotherapeutic Research Laboratory)の、中西真人ラボ長達は、京都大学の山中伸弥教授が人間の皮膚細胞から作った万能細胞(iPS細胞)によく似た細胞を、山中教授とは異なるウイルスを使って作ることに成功したと、7月25日に東京国際交流館 プラザ平成 国際交流会議場で開かれたシンポジウムで発表しました。
 
  中西ラボ長達は、細胞内に長期間留まりDNAを傷つけない新たに開発したセンダイウイルスを使って、3個の遺伝子をマウスの皮膚細胞に組み込んだところ、遺伝子の働き方や細胞内のたんぱく質が、iPS細胞とよく似た状態となるこを確認しました。
 
  中西ラボ長は、センダイウイルスを容易に除去できる方法も開発して、「今後、様々な細胞に変化できる万能性を確認したい」と語っています。
 
センダイウイルス (Sendai virus)
  正式名称を「マウスパラインフルエンザ1型ウイルス」と言い、マウスやラットに感染して肺炎を引き起こします。 1953年、東北大学医学部の石田名香雄氏によって発見され、仙台市にちなんでセンダイウイルスと命名されました。
  その後1957年、大阪大学の岡田善雄教授によって、異種の細胞を融合させる作用を有することが発見されました。
 


【2008/05/02】

  各報道機関の記事によると、新潟大学脳研究所を主体とする研究チームは、TDP43(TAR DNA-結合蛋白質-43)をつかさどる遺伝子の異常がALSの原因であることを突き止めたとのことです。
 
  TDP43 がALSの病状のメカニズムに関与する可能性については米国、ドイツ、カナダの研究チームにより 2006年に Science で公表されています。

● ALSの原因遺伝子を新たに特定

  新潟大学脳研究所を主体とする研究チームは、遺伝性ALS(家族性ALS)患者の中で、神経細胞にTDP43と呼ばれる蛋白質が蓄積するごく少数の患者を調べたところ、このTDP43をつかさどる遺伝子の異常によりTDP43が塊(かたまり)となって神経細胞内に蓄積されることがALS発症の原因であることを突き止めました。

  ALS全体の9割を占める非遺伝性ALS(弧発性ALS)患者の神経細胞には、TDP43が蓄積することがわかっていましたが、ALS発症との因果関係は不明でした。
  非遺伝性ALS(弧発性ALS)患者には同遺伝子の異常が認められませんが、TDP43の蓄積によりALSを発症させる可能性があることがわかりました。

  研究に携わっている小野寺理准教授は「TDP43蓄積のメカニズムが解明されれば、ALS治療の可能性が期待される」と話しています。
 


【2008/03/13】

  共同通信社などの記事によると、ALSのラットに神経細胞を増やす働きがある物質を投与して、病気の進行を抑えることに東北大学の青木正志講師(神経内科)達の研究チームが成功したとのことです。
  サルの実験でも同様の効果が出始めているとのことですので、人への治療に期待が掛かります。

● 神経細胞を増やす物質で、ALSの進行の抑制に成功

  青木講師達の研究チームは、遺伝子操作によりALSを発症したラットの脊髄に、病気の進行に伴って神経のもとになる「前駆細胞」と呼ばれる細胞が増えていることに気付きました。
 
  前駆細胞が神経になることを助けてやれば、ALSの症状が改善されると考え、ALSのラットの脊髄に神経などの多様な細胞を増やす働きがある「肝細胞増殖因子(HGF)」を約1カ月間、投与しました。
 
  このラットの生存日数は、比較のため生理食塩水を投与したラットに比べて、約.1.6倍長く、脊髄内の神経細胞の数も食塩水を投与したラットの2倍以上も多く残っていました。
 
  研究チームは、HGFの働きにより、脊髄の細胞死の抑制や、前駆細胞が神経に成長することを促進した結果であるとみています。
 


【2008/02/06】

  Nature Neuroscience(ネイチャー・ニューロサイエンス)オンライン版(現地時間 2月 3日付)などの記事によると、ALSの進行にグリア細胞のうちの2種類が関与していることを理化学研究所脳科学総合研究センターなどのチームが解明したとのことです。
  今後の治療法開発が期待されます。

● ALSの進行に関与する細胞を発見

  独立行政法人理化学研究所脳科学総合研究センター山中研究ユニットの山中宏二・ユニットリーダーらと、カリフォルニア大学サンディエゴ校やワシントン医科大学、京都大学、共立薬科大学の共同研究により、ALSの進行に関与する細胞が発見されました。
 
  研究グループは人間の遺伝性ALSで起こるSOD1遺伝子の変異を特定の細胞で選択・除去できるモデルマウスを開発し、ALSに関与する全ての細胞の働きを検討してきました。その結果、2006年にはグリア細胞の1種であるミクログリアがALSの進行に関与することを明らかにしました。
 
  今回は、グリア細胞のうちのアストロサイトから、変異したSOD1を取り除きました。するとALSの進行と運動ニューロンの細胞死を大幅に遅らせることができました。
 
  また、アストロサイトは、ミクログリアに起因する異常な炎症反応を制御してALSの進行に重要な役割を果たしていることが解明されました。
 
  山中ユニットリーダーは「ALSの進行を遅らせる薬の開発に向けて標的となる細胞を特定できました。この2種類のグリア細胞の異常は非遺伝性のALSでも見られますので、全てのALSに有効だと思います」と話しています。
 
SOD(Superoxide Dismutase スーパーオキシド・ジスムターゼ)
  生命活動に酸素を必要とする生物は、細胞の代謝の中で有害な活性酸素であるスーパーオキシドが発生します。SODは、これをを最終的に水に変え無毒化する反応系の初めのステップを演じる重要な酵素です。
  SODには主として細胞質内にあるSOD1と、ミトコンドリア内にあるSOD2および血清中にあるSOD3の3種類があり、SOD1(Superoxide Dismutase 1 スーパーオキシド・ジスムターゼ1)の遺伝子変異が一部の遺伝性ALSの原因であることが判明しています。
 
グリア細胞
  神経系を構成する細胞の中で、神経細胞ではない細胞の総称。 神経細胞に栄養を与えたり、神経細胞の環境整備をしたりして神経細胞の活動を補助しています。
 


【2007/12/01】

  サイエンティフィック・アメリカン(現地時間 11月30日付)などの記事によると、人間の皮膚細胞から神経や筋肉、臓器などのあらゆる細胞に成長する「万能細胞(iPS細胞 : induced pluripotent stem cell)」を作ることに成功した京都大学再生医科学研究所の山中伸弥教授らの研究チームは今回、がん遺伝子を使わずに万能細胞を作製したとのことです。(【2007/11/21】の記事もご覧ください)

● 万能細胞(iPS細胞)の作成に、がん遺伝子を使用しないことに成功

  京都大学再生医科学研究所の山中伸弥教授らの研究チームは先日、人間の皮膚細胞から万能細胞(iPS細胞)を作ることに成功したと発表しましたが、組み込んだ4個の遺伝子の一つに、がん遺伝子 c-Myc が含まれていたため、今後の課題とされていました。
 
  今回、c-Myc を除いた残りの3個の遺伝子だけを皮膚細胞に組み込み、培養方法を見直して、新しい万能細胞を作ることに成功しました。この方法で作ったマウスのiPS細胞を普通のマウス26匹に100日間、試したところ、がんを発病するマウスは一匹もなく、c-Myc を含む場合は37匹中6匹が、がんを発病したとのことです。
 
  ただ、今回においても、遺伝子組み込みに利用したウイルスは発がん性の指摘があり、山中教授は「がんを引き起こす可能性は残っている」と話しています。
 
  また、米ウィスコンシン大学のジェームズ・トムソン教授らのチームも、皮膚細胞からのiPS細胞の作製には、がん遺伝子を使用していませんが、人間の大人の皮膚細胞を使う方法ではありません。
 


【2007/11/21】

  各報道機関(米国ではABC Newsなど)のニュース(日本時間 11月21日)によると、人間の皮膚細胞から神経や筋肉、臓器などのあらゆる細胞に成長する「万能細胞」を作ることに京都大学再生医科学研究所の山中伸弥教授らの研究チームが成功したとのことです。
  難病治療への応用が期待された再生医療にはES細胞(胚性幹細胞)を使う方法が有力視されてきましたが、移植に伴う拒絶反応や、人間の受精卵を壊す倫理問題による研究規制がありました。これらの問題を克服した新しい再生医療研究に期待が掛かります。

● 人間の皮膚細胞から様々な組織になる能力を持った「万能細胞」を作ることに成功

  京都大学再生医科学研究所の山中伸弥教授らは今回、成人の顔から採取した皮膚細胞に、ES細胞(胚性幹細胞)の中において重要な働きをしている4個の遺伝子をウイルスにより組み込み、培養したところ、ES細胞に似た性質を持つ細胞が作り出されました。
 
  この細胞は、培養条件を変えることにより神経や筋肉、臓器などのあらゆる細胞に変化が可能な「人工多能性幹細胞(iPS細胞 : induced pluripotent stem cell)」と確認されました。これにより、患者と同じ遺伝子を持つ各組織の再生ができ、拒絶反応のない移植医療の実現が期待されます。
 
  ただ、今回の遺伝子組み込みに利用したウイルスは発がん性の指摘がありますし、組み込んだ遺伝子の一つはがん遺伝子であるため、これらについては今後の課題となります。
 
  また、米ウィスコンシン大学のジェームズ・トムソン教授らのチームも同日、人間の新生児の皮膚細胞からiPS細胞の作製に成功したと発表しました。組み込んだ4個の遺伝子のうち2個が山中伸弥教授らの方法とは違うとのことです。
 


【2007/10/08】

  『YOMIURI ONLINE(読売新聞)』の2007/10/06付けの記事によると、ALSの進行に関与する体内で作り出された物質の仕組みが明らかになったとのことです。以下はその記事の内容です。

● 筋委縮性側索硬化症、進行の仕組みを慶大教授ら解明

  運動神経が破壊され、筋力が低下する難病の筋委縮性側索硬化症(ALS)は、脊髄(せきずい)でアミノ酸の一種「D-セリン」が過剰に作り出されて進行することを、慶応大医学部の相磯貞和教授(形態形成学)らのグループが突き止めた。
 
  新たな治療薬の開発につながる成果で、英科学誌に発表した。
 
  ALSに伴う神経の破壊は、情報伝達物質であるグルタミン酸が過剰に神経を興奮させるために起きるとされている。このグルタミン酸の過剰興奮の一端を、神経細胞に栄養を与える「グリア細胞」が作るD-セリンが担うことも知られていたが、その仕組みは不明だった。
 
  相磯教授らは、ALSを発症させたマウスや、ALSで亡くなった患者の脊髄を分析。病気が進行するにつれてグリア細胞が増え、D-セリンの濃度が脊髄の中で高まった結果、グルタミン酸が神経を破壊する働きも強まっていることがわかった。一方、このアミノ酸の働きを抑えると、グルタミン酸による神経の破壊も抑えられた。
 
(2007年10月6日23時49分 読売新聞)


【2007/07/31】

● 「代理記載制度」による第21回参議院議員選挙の投票

  「代理記載制度」が平成16年3月1日に創設されて以来、私はこの制度を利用して投票を行なっていまして、今回の第21回参議院議員選挙も自宅のベッドの上で投票を行ないました。
  選挙権を有しているにも拘わらず投票できない不満から開放されるこの制度には得心が行きます。
 
注 :  「代理記載制度」とは、障害を持っているため自書できない選挙人に代わって、あらかじめ届出をした「代理記載人」により投票に関する記載をしてもらい、郵便等で不在者投票を行なう制度のことです。
  【2003/12/20】の記事と、【2004/07/12】の記事もご覧ください。


【2006/10/07】

  『Science』の2006/10/06付けの記事などによると、ALSに関与する蛋白質が発見されたそうです。 この発見は、ペンシルバニア大学のマニュウエイラ・ニューマン M.D. ならびにヴァージニア・リー Ph.D. およびジョン・トロジャノウスキー M.D. Ph.D. ほか研究者による成果とのことです。

● ルー・ゲーリック病の原因蛋白質を発見

  ルー・ゲーリック病という名で知られる筋萎縮性側索硬化症(ALS)などの神経変性疾患に関与する蛋白質、TDP-43が発見されました。
  TDP-43蛋白質は、前頭側頭葉変性症が引き起こす認知症や筋萎縮性側索硬化症(ALS)における主要な疾患蛋白質であることが確認されました。異常なTDP-43蛋白質には、過剰のリン酸化、ユビキチン化、および切断によるC末端断片の生成が見られ、海馬、新皮質、脊髄など中枢神経系患部のみで認められました。TDP-43は、これらの神経変性疾患に共通する異常物質です。


【2006/05/07】

  2004/12/26付けの記事でビタミンEの効用について掲載いたしましたが、『Ride for Life』や『Journal of Neurology Neurosurgery and Psychiatry.(神経学・神経外科学・精神医学 ジャーナル)』などによると、オランダの大学研究チームは多価不飽和脂肪酸のオメガ3とビタミンEの組み合わせがALSの発症を減少させるという研究結果を発表しました。

● オメガ3とビタミンEはALSを発症する危険を減少させます

  多価不飽和脂肪酸(注: オメガ3とオメガ6は多価不飽和脂肪酸とも呼ばれています)とビタミンEを多く含んだ食事の摂取は運動ニューロン疾患を発症する危険性が半分以下になるという研究結果が明らかになりました。

  オランダのユトレヒト大学メディカルセンターのジャン・ヴェルディンク博士ら研究者は、ルー・ゲーリッグ病として知られている潜在的または明確な132人のALS患者と220人の健常者に対し、過去の食事摂取などについて詳しい調査を行ないました。
  その結果、ALS患者は健常者に比べて発症前に飽和脂肪酸を多く摂取し、ビタミンEの摂取量が少ないことが分かりました。
  日に32グラム以上の多価不飽和脂肪酸と18ミリグラムから22ミリグラムのビタミンEを摂取している者は、同摂取量がそれぞれ25グラム未満と18ミリグラム未満の者よりALSを発症する率が60%を下回る結果となりました。
  そして、多価不飽和脂肪酸とビタミンEは相乗的に効果を発揮するようです。

  オメガ3は魚に多く含まれ、これまでの研究では心臓の血管の病気やアルツハイマー病の予防に効果があります。また、ビタミンEは植物油やナッツ類、緑葉野菜などに多く含まれています。


【2006/01/11】

  ALSなどの難病治療への応用が期待されたヒトクローン胚から胚性幹細胞(ES細胞)を作成したとされる韓国ソウル大のファン・ウソク教授の論文は、全て捏造(ねつぞう)であったと報じられました。

● ソウル大教授の胚性幹細胞作成は全て捏造(ねつぞう)

  1月10日の中央日報や朝鮮日報などのWebサイトの記事によると、ソウル大調査委員会は同日、ファン・ウソク教授の研究チームが2004年、米サイエンス誌の論文にて、世界で初めてクローン技術により胚性幹細胞(ES細胞)を作りだしたと発表したものは、2005年発表の、患者の体細胞を使ったクローン胚から胚性幹細胞11株を効率よく作ったとした論文 (2005年の年末に同調査委員会により捏造と断定) に同様、「胚性幹細胞は存在せず、データは捏造されたもの」との最終調査結果を発表しました。

  これにより、難病治療への応用が期待されたファン・ウソク教授によるヒトクローン胚から胚性幹細胞(ES細胞)作成の研究成果は全て捏造だったことになります。
  また、米サイエンス誌のドナルド・ケネディ編集長は同日、捏造された2編の論文を撤回するとの発表を行ないました。
  2006年3月20日、ソウル大は懲戒委員会を開き、ファン・ウソク教授を罷免処分にしました。


【2005/12/20】

  ヒトクローン胚から胚性幹細胞(ES細胞)を作ることに成功した(5月29日付の記事参照)とされる韓国ソウル大学のファン・ウソク教授の論文には捏造(ねつぞう)箇所があると報じられました。

● 胚性幹細胞作成の論文に疑惑

  12月14日のニューヨークタイムズ紙のWebサイトの記事によると、世界初のクローン胚から胚性幹細胞作りに成功したとされる韓国ソウル大のファン・ウソク教授の成果について、研究チームが作り出した胚性幹細胞には疑惑があり、エジンバラ大学のイアン・ウィルムト博士を含む欧米のクローン専門家8人による独立調査チームが「細胞の確認試験を行うために我々に協力するように」と、ファン・ウソク教授に申し出ているという。

  胚性幹細胞の作成については、ファン・ウソク教授が患者11人のクローン胚から作りだしたとし、2005年6月(電子版は5月)のサイエンス誌に掲載されていた。
  しかし、韓国のWebサイト上に匿名で公表された科学者などの証言によると、胚性幹細胞が患者のクローンであることを示す2種類のDNA検査の結果に疑問点があり、成果そのものが事実でない疑いがあるという。
  このため、共著者であるピッツバーグ大のジェラルド・シャッテン教授は「自分が把握していない事実が多い」として、共著者名の削除をサイエンス誌に求めているが、サイエンス誌は著者名だけの削除は受け入れないとしている(しかし、事態の進展によっては論文の撤回や削除もあり得るとのこと)。

  また、ソウル大ファン・ウソク教授のチームの研究員は、韓国メディアの取材に応じて「胚性幹細胞を作り、培養したものを管理した」と述べるとともに「サイエンス誌に提出した論文の写真はファン・ウソク教授の指示により、2個しかない胚性幹細胞を11個にしたもの」と証言している。


【2005/08/24】

  ALSに対する幹細胞治療が期待されますが、ワシントンポストや米サイエンス・マガジンのウェブサイトの記事によると、米ハーバード大の研究チームは、胚性幹細胞と皮膚細胞を融合させる方法の発見により、胚性幹細胞と同じ能力を持つ細胞の作成に成功したとのことです。

● 胚性幹細胞と皮膚細胞を融合させる方法を発見

  米ハーバード大の研究チームは、胚性幹細胞と皮膚細胞を融合させて、胚性幹細胞と同じ能力を持つ細胞を作ることに成功したそうです。
  この過程に於いては、人間の受精卵の使用や新しいヒト胚を作る必要がなく、幹細胞の創設に通じるかもしれません。その結果、幹細胞の研究上にある多くの論争を避けます。
  また、研究者の語るところによると、この細胞には新しい胚性幹細胞の全ての特性がありますが、皮膚細胞と初期の胚性幹細胞に有するDNAを含んでいることから、人に移植するためには今後更に、その余分なDNAを抽出する必要があるとのことです。


【2005/05/29】

  ALS患者に対する幹細胞治療が中国で行われているという情報は世界を駆け巡りましたが、『サイエンス』誌が報じるところによると、今度は韓国の科学者チームがヒトクローン胚から胚性幹細胞を作ることに成功したそうです。

● 患者のクローン胚から胚性幹細胞を作成

  韓国、ソウル大学のファン・ウソク教授達による科学者チームは、患者の体細胞からとった核を移植してクローン胚を作成し、そこから胚性幹細胞を取り出すことに成功したそうです。これにより患者と遺伝的に同一なヒト細胞を作り、拒絶反応なしに当人の体に戻すという治療法が現実となることも間近いことでしょう。

 この胚性幹細胞が作り出されるところのビデオを紹介します(再生にはRealPlayer(Free)が必要)。
 
  胚性幹細胞作成のビデオ   ← 論文の捏造(2005年12月23日、ソウル大調査委員会が発表)により削除されました。


♦ ビデオのページの和訳

 「幹細胞治療が進む」からのビデオ
 
  韓国のチームは新しいテクニックを見いだすことによって人間の治療的クローニングの効率を10倍に改善しました。 彼らは卵の核を吸い出すために針を使うのではなく、卵に小さい裂け目を作って緩やかに染色体を絞り出しました。 それから裂け目を通して皮膚細胞を挿入し、2つの細胞を融合するために電気ショックを応用しました。 そして細胞は分裂し始めます。
 
 ピッツバーグ開発センターの提供

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  ここに掲載しました情報のうち海外からのものにつきましては、私の翻訳しました内容を含みます。
  私は医学に関する知識を持ち合わせておりませんので、医学的な記事の翻訳内容には、本意に沿わない部分もあろうかと思います。
  お気付きの点がありましたら、ご指摘をお願い致します。