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  ここに掲載しましたものは、平成13年10月に静岡県中部健康福祉センター主催で行なわれた『災害時における難病患者支援シンポジウム』に寄稿した私の原稿の一部です。シンポジウム開催当日は、パネリストとしての参加が困難なため、妻が代読を行ないました。

在宅難病療養者の立場から災害時の支援に望むもの

  難病と呼ばれる病気は数多くありますが、中でもALS療養者に対する一般支援は、他の難病療養者にも十分に適用可能だと言われるほど、その必要とする介護量は他を凌ぐものがあります。したがって、ここではALS療養者の立場から述べさせていただきますが、他の難病療養者にも共通するものと信じます。

  さて、難病療養者の多くは医療依存度が高く、疾患特有の医療行為と機器類を必要とします。ひとたび災害の発生ともなりますと、とりわけ寝たきりの状態で、さらに人工呼吸器という生命維持装置を装着した療養者にとっては、極めて深刻な問題となり、状況によっては、支援の手がなければ生命の危機に瀕することは勿論のこと、避難すらもできません。平成7年に発生した阪神淡路大震災におけるALS療養者の被災実態では、その一面にある支援の難しさをも見せてくれました。

  適切な支援が被災を軽減することは当然のことであり、災害時に備えて対応の在り方を理解し、知識としたものが適切な支援に結び付くことも明白です。そのためにも不可欠なものとして、指針や対処の手順を示すマニュアルが挙げられます。しかし、その指針やマニュアルの内容は、通り一遍の形式的なものでは役には立ちません。あらゆる観点から災害時を想定して構成されることが必要です。

  それは療養者に対するものも同様で、たとえば阪神淡路大震災での難病療養者の被災実態は、それを生かすべき内容のものを随所に見受けることができます。また、療養者各自には、それぞれの病状への対応方の違いもさることながら、置かれた環境内には個別的な問題を抱えています。それは療養者自身のものから始まって、地域、社会的なものにまで至ります。したがって、特にマニュアル類にあっては、実践的で一人ひとりの状況に応じた対処方法が内容に網羅されていなければ、真の支援にはなり得ません。

  静岡県は今年度、他県にはあまり例を見ないという『緊急医療手帳』を作成しました。我が家ではこれに紐を付けて、緊急時には私の首に掛けることにしていますが、災害発生時においても、この『緊急医療手帳』が、どの程度に役立つかは、やはり支援の手を差し伸べてくださる方々の支援方法に対する理解と知識に大きく影響されます。

  最近では地域においても、災害時の難病療養者に対する支援についての理解が向上しつつあり、大変ありがたいことと思いますが、支援方法の基本となるマニュアル類の内容については、改めて療養者各自の実態を的確に把握していただき、何が必要なのか、そのためにはどの様にしたら良いのかの十分な検討と、検討結果が適合するか否かの検証が必要かと思います。

  一方、災害が発生した場合、その規模により支援の手は大巾に遅れることが予測されます。したがって、難病療養者やその介護者である家族は、当初から全てを支援に依存はできないものと考え、置かれた状況内での側近介護者による対処対応を日頃から心掛ける必要があります。最も重要なことは生命の維持確保です。生命の危機に至らない状態となれば、落ち着いて介護を継続し、支援を待つことができますし、必要とする支援の内容も軽減します。

  それには電気、水などのライフラインを始め、情報、通信、交通の途絶に対して、代用機器の取り扱いの訓練や、療養者に必要な医療品、予備機器類の確保と、生活用品、消耗品などの備蓄が挙げられ、それらの安全な収納場所の準備も欠かせません。

  災害に備えた療養環境の整備は誰しも望むことです。しかしながら先ほども述べましたように、療養者各自の環境には個別的な問題が存在します。理想の前に、はだかるものを、自らの手では排除できない者も少なくありません。それぞれの状況の把握と対応の検討が必要です。ちょっとしたアドバイスが改善の導きとなり、生きる意欲を生み出します。「災害が来たら、もうだめだ」ではなく、「災害が来ても、もう大丈夫だ!」という療養者からの声を期待します。


 
「難病患者災害支援シンポジウム」に寄せた意見の主旨

  難病療養者の多くは、病状特有の医療行為と機器類を必要とし、置かれた環境には個別的な状況が存在します。したがって、それらに対する理解と知識がなければ、適切な支援はとても難しいと考えます。
  そのために、支援の手を差し伸べてくださる方々にとって支援方法の理解と知識に結び付くところの最も基本となるマニュアル類は、実態に即した具体的な内容であるよう、整備に心掛けていただくことを望みます。