朗報も無かった訳ではありません。気管を切開して人工呼吸器を装着しても、気管カニューレに発声が可能になるというスピーチカニューレを用いたり、呼吸器回路と気管カニューレの間に、スピーキングバルブという吸気だけを通す一方弁を挿入することで、会話が行なえるという情報です。
これらにより私も発声が可能となるかは未知のことですが、息苦しさは限界です。わずかな期待を胸に、緊急入院をして気管切開と共に人工呼吸器が着けられました。
人工呼吸器により息苦しさは解消されましたが、肉声は確かに失いました。コミュニケーションはもっぱら、簡単な内容なら私の口の動きを読んでもらい、それ以外は病院で用意してくれた文字盤によるものとなりました。また、この時期にALS協会より貸し出してもらった意思伝達装置(伝の心)を試させてもらうことができました。
入院を開始してから1ヶ月半ほどが過ぎ、人工呼吸器にも慣れた頃でした。病室を訪れた看護師(看護婦)さんから、「声が出せるかもしれないから、カフのエアを抜いてカニューレに蓋をしてみよう」 と言われ、充分に痰の吸引をした後に人工呼吸器のタイミングを見計らって、呼吸器回路の気管カニューレ部分のコネクタを外し、手にしたキャップでカニューレを塞ぎました。すると、しっかりした発音で、久し振りに私の口から声が出ました。 ( この当時は、まだある程度の自発呼吸があり、肺に吸い込んだ空気を気管カニューレから漏れないようにすることで、発声ができたのです )
忘れかけていた自分の肉声を久し振りに耳にすることができた喜びには、ひとしおのものがあり、またこの経験は後々発声のコツをつかむ上で役立ちました。
気管を切開して人工呼吸器を装着した場合、呼吸は気管カニューレを介して行なうことになり、通常は喉元への空気漏れや気管内への異物進入を防ぐ目的で、気管カニューレに付属するカフは、エアを入れて膨らまし、喉側の気道を塞いでいます。これにより喉を空気が通らず、声帯を振動させることができないために声が出ないのです。
したがって、人工呼吸器を装着した状態で声を出すためには、空気が声門(声帯部分)を通過して口へ抜ける必要があります。
それには
1.肺に送り込まれた空気を口から排出する。
2.エア・コンプレッサーを用いて、気管カニューレ部分から喉側へ空気を送り、口から排出する。
3.人工呼吸器から送り込まれる空気の一部を口から排出する。
と言った方法が挙げられます。
1 は、先に述べた、吸気だけを通す一方弁構造のスピーキングバルブを使用する方法に代表されますが、スピーチカニューレと呼ばれる気管カニューレにも、この方法を用いたものがあるようです。
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・スピーキングバルブ
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