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  気管カニューレに付属のカフ・エアを抜くだけで会話ができた私は、病状の進行と共に口周りや舌の筋力の衰えに加えて、徐々に口中内に唾液が溜まるようになり、2006年4月を以ってカフ・エアを抜くことはカフの周辺に溜まった液体の吸引をしている間のみとなりました。
  気管切開をして人工呼吸器を着けてから5年間でしたが、カフ・エアを抜くだけで発声ができたことは私にとって意義深い思い出です。

 
  以下は私の発声方法の記録です(2002/10/26 掲載)。 お読みください。
 
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  気管切開と人工呼吸器の装着により一旦失った肉声は、気管カニューレに付属する、カフのエアを抜くだけで 、不明瞭な発音となる部分もありますが、人工呼吸器のタイミングに合わせながらの発声が可能となり、日常会話も行なえるようになりました。

  気管を切開して人工呼吸器を装着する直前まで会話ができていたならば、気管を切開しても、人工呼吸器を装着しても、喉や口、舌などの発声に必要な部位に障害が及ばない限り、必ず声を出すことができるはずです。

  私は当初、気管を切開して人工呼吸器を装着した場合は、肉声によるコミュニケーションを必ず失うものと信じていたこともあり、息苦しさが限界に達するまでは、なかなか人工呼吸器の装着へ踏み切る決心が付きませんでした。

  朗報も無かった訳ではありません。気管を切開して人工呼吸器を装着しても、気管カニューレに発声が可能になるというスピーチカニューレを用いたり、呼吸器回路と気管カニューレの間に、スピーキングバルブという吸気だけを通す一方弁を挿入することで、会話が行なえるという情報です。

  これらにより私も発声が可能となるかは未知のことですが、息苦しさは限界です。わずかな期待を胸に、緊急入院をして気管切開と共に人工呼吸器が着けられました。

  人工呼吸器により息苦しさは解消されましたが、肉声は確かに失いました。コミュニケーションはもっぱら、簡単な内容なら私の口の動きを読んでもらい、それ以外は病院で用意してくれた文字盤によるものとなりました。また、この時期にALS協会より貸し出してもらった意思伝達装置(伝の心)を試させてもらうことができました。

  入院を開始してから1ヶ月半ほどが過ぎ、人工呼吸器にも慣れた頃でした。病室を訪れた看護師(看護婦)さんから、「声が出せるかもしれないから、カフのエアを抜いてカニューレに蓋をしてみよう」 と言われ、充分に痰の吸引をした後に人工呼吸器のタイミングを見計らって、呼吸器回路の気管カニューレ部分のコネクタを外し、手にしたキャップでカニューレを塞ぎました。すると、しっかりした発音で、久し振りに私の口から声が出ました。

  ( この当時は、まだある程度の自発呼吸があり、肺に吸い込んだ空気を気管カニューレから漏れないようにすることで、発声ができたのです )

  忘れかけていた自分の肉声を久し振りに耳にすることができた喜びには、ひとしおのものがあり、またこの経験は後々発声のコツをつかむ上で役立ちました。

  気管を切開して人工呼吸器を装着した場合、呼吸は気管カニューレを介して行なうことになり、通常は喉元への空気漏れや気管内への異物進入を防ぐ目的で、気管カニューレに付属するカフは、エアを入れて膨らまし、喉側の気道を塞いでいます。これにより喉を空気が通らず、声帯を振動させることができないために声が出ないのです。


  したがって、人工呼吸器を装着した状態で声を出すためには、空気が声門(声帯部分)を通過して口へ抜ける必要があります。

それには
 
1.肺に送り込まれた空気を口から排出する。
 
2.エア・コンプレッサーを用いて、気管カニューレ部分から喉側へ空気を送り、口から排出する。
 
3.人工呼吸器から送り込まれる空気の一部を口から排出する。
 
と言った方法が挙げられます。

1 は、先に述べた、吸気だけを通す一方弁構造のスピーキングバルブを使用する方法に代表されますが、スピーチカニューレと呼ばれる気管カニューレにも、この方法を用いたものがあるようです。
 

 

 
スピーキングバルブ
 
Passy-Muir, Inc.
  米国 Passy-Muir社のホームページです。

2 の方法は、スピーチライン付きカニューレとエア・コンプレッサーを用いますが、そのカニューレにはカフの上部に開口部があり、チューブが取り付けられています。それを発声のための送気管として用い、声門に圧縮空気を送って発声させるというものです。
 
3 は、私が用いている方法で、以下に、この方法について述べます。
 
  この方法は、気管カニューレに付属のカフのエアを抜いて行ないますが、人工呼吸器から送り込まれる空気を利用するため、人工呼吸器には空気の漏れを補充する機能が必要になります。この機能が無ければ、各自に合わせた人工呼吸器の通常設定では、肺へも口側へも十分に空気が行かず、結果として声が出せないことになります。

  更に、この方法は、喉の機能には発声が行なえることに併せて、カフのエアを抜きますので、発声を必要としない時には、人工呼吸器から送り込まれる空気を、自力で口側へ漏らさないようにする働きも必要です。
 空気漏れの弊害は言うまでもありませんが、普通に近い発声ができれば、人工呼吸器からの空気も止めていられるでしょう。私は今のところ寝込まない限りは特に意識しなくても、これが可能な状態です。


  次に、私が発声の前に、必ず実行してもらう内容について述べます。

1.先ず、カフ部の喉側に溜まった液体を、気管カニューレに付属している吸引ラインのルーメン(カニューレのカフ上部に開口部があり、吸引用チューブが取り付けられている)から吸引します。
 
2.次に、カフのエアを抜きます。
 
3.再度ルーメンから吸引をします。
 
4.そして、カニューレから気管内を吸引します。
 
   カフのエアを抜きますと、カフ付近に付着、貯留した痰や液体が移動しますので、それらが無くなるまで十分に吸引する必要があります。 
 
5.必要により、口腔内の唾液などを吸引します。

☆ 準備ができました。注意事項として ☆
 
  人工呼吸器から送られてくる空気が口や鼻から漏れてしまう場合や、口腔内の唾液などが気管に入り込み、むせたり頻繁な吸引を必要とするような場合は(肺炎の原因にもなり兼ねません)、カフのエアを抜くことは直ちにやめましょう。