泣いてくれるの、僕のために

by詠月(SELENADE)











忘れられて……


それでも待ち続けて




    いつか

    いつかこんなくるしみは

    おわるんだよね

    ねえそうでしょ

    おとうさん




その代償として君が手に入れた、たった一つの願い


それを誰かに授けて君は消えてゆくの?


……誰にも知られること無く?




黙ってボクは頷く




どうして?




    どうしてぼくは

    くるしまなきゃいけないの

    ゆうこときいたよ

    わるいことしてないよ

    ともだちにだまされても

    さいごまでしんじたよ




憎くないの?


君の想いが彼等に届くことは永遠に無いのに……




    きもちわるくて

    でんしゃのなかではいちゃった

    おうちにかえりたかったの

    でもおとうさんのおゆるしが

    ひつようだっておもったの

    そうしたらかえれるとおもったの

    でんわきがたかくて

    せのびしてとって

    おうちにでんわしたの

    がんばってるから

    ゆるしてくれるっておもってたの

    でもおとうさんは

    しんじてくれなかったの

    だったらでんわなんかできないだろって

    どなられて

    でんわきられたの

    ぽろぽろなきながら

    なんどもなんどもでんわかけても

    しんじてくれないの

    ぼくうそついてないよ

    まだきもちわるいよ

    おくちのなかがにがい

    なきすぎてめがいたい

    くるしいよお

    かなしいよお

    それなのにそれなのに

    どうしてしんじてくれないの




下を俯くボク、そんなこと言わないでよおねがいだから………


でも君は話し続ける




いずれ、彼等は


君の授けた幸せ


その事さえ忘れちゃうんだよ!!




それでもいいんだよ……


もし、祐一君が願いを必要としなかったら……


ボクのこと二度と思い出さないように、願うよ




    いえのすぐちかくに

    しょうがっこうがあって

    みんなのよろこんでるこえが

    きこえるの

    あそんでるのがみえるの

    あのわのなかに

    ぼくははいれないの

    みたくないからうえをむくと

    そらはあおくて

    とってもすきとおっていたの

    でもしあわせな

    きぶんになれないの

    かなしいの

    こうていであそんでるみんなに

    とってもあってるよあおいそら

    でもぼくにはそらのいろが

    にあわないの

    ぼくはおいてきぼりなの

    これからもずっとすっと




どうして、そんな願い叶えるのさ!




な、なんで急に怒るんだよ!




君がポケットから何かを取り出した


それを指先で挟んで僕の前に突き出す




ジョーカーのカード


万能の切り札さ


キミが手にした人形と同等の力


願いを一つだけ叶える


なんの為に使うかは僕の自由


たとえばキミの願いを粉々に砕くことも………




なんで!?


ねえ………嘘だよね




僕はね……綺麗ごとなんか大っ嫌いなんだよ!!




    とくべつながっこうだったの

    おとうさんは

    ぼくにおかねをかけたから

    ぼくをゆるしてくれなかったの

    でもそんなのぼくしらないよ




やめてぇ!なんでもするからぁ……


ボクは、もうすぐ消えるんだから……


だから、なんでもするよ……




君が目を閉じる……




早まらないでぇぇ!




ふふっ、もう遅いよ………お願いしちゃったからね




何を? どんなお願いなの!?




気になるの?




許さないよ……祐一君を不幸にしたら




ははは………本当に祐一君が好きなんだねえ、君は




涙……?




ねえ、どうして……君泣いてるの………?




僕は誰からも愛されたことなんか無い


虐げられた果てに……狂わされて……


おまけに他の病気で体が動かなくなってきて……


でもだれも狂った僕を信じてくれなくて




    まいにち

    おおきな

    こうしまどから

    おそろしいほど

    おおきくて

    まっかなたいようがみえて

    ぼくのどくぼうが

    あかくそまるの

    おくすりがじかんをのばしてる

    いつまでたってもみえる

    まっかなたいよう

    このよのけしきじゃないの

    すごくきれい

    ずっとながめてた




とうとう手遅れになって………


ここに辿り着いたんだ


そしてこれを手に入れた




まっ黒なカード、さっきと違う、願いを叶えたから?




僕を憶えてる人は何処にもいないんだ……


……僕は一人ぼっち……


誰かを想い描きながら


消えることすら出来ない……


うらやましいよ……


あゆちゃんが……




君………




だから……あげるよ


これ……




えっ?




お願いはね……こうだよ


あゆちゃんが元気に街を翔けまわってほしい……ってね




君はどうなるのさ!!




叶えてもらうんだよ、君に……僕のお願いを




どうやって!? お願い使っちゃったんだよボクは!




簡単だよ


傍に来て……




嘘かも知れないって一瞬思った


罠かも知れないって


でも君の潤んだ瞳は、輝いてて……


ボクは吸い込まれるように、君の前に近づいた


そうしたら突然君がボクに抱きついてきて……




わわっ!




僕の夢を叶えて………


お願いだからだきしめて!!


強く強くっ!!




    なんで

    ぼくはこんなに

    くるしまなくちゃいけないの

    おとうさんのゆめを

    こわしたばつだからなんて

    ひどいよお




    ずっということきいてきたよ

    ちいさいころから

    さんさいでかけざんおぼえたよ

    よんさいであるふぁべっとおぼえたよ

    いいこだっておとうさんが

    よろこんでくれたから

    ぼくがんばったよ




    ぽすたーみたいにおおきい

    さんかくしかくでいっぱいのかみは

    だいきらい

    ぜんぜんわかんなかったし

    おとうさんはぼくに

    おこるようになったから




    ことばがわからないがっこうに

    いれられたの

    にほんごしゃべっちゃいけないの

    でもぼくにほんじんだよ

    おとうさんがおしえてくれた

    じゅもんみたいなことばしか

    つかえないの

    だからなにもはなさない

    ともだちひとりもできない

    さびしくて

    それでもがんばって

    でもせいせきはおちて




    つうしんぼ

    もらったひは

    うまのりにされて

    びんたをもらうひ

    ないてもないても

    ゆるしてくれない

    あばれても

    おとうさんの

    からだがおさえつけて

    うごけない

    りょうひざであたまをおさえつけられるの

    こうするとくびがうごかないから

    すごくいたいの

    なんどもなんども

    たたかれるの

    なんどもなんども

    じらしておびえさせるの

    なんどもなんども

    ごめんなさいって

    いわなきゃいけないの

    どうしてだかわからないの

    でもそうするしかないの

    おとうさんのめがおかしいの

    おかあさんもたすけてくれないの

    くるったぎしき




    おとうとがないている

    いつかじぶんが

    こうなるひがくるのを

    おそれているの




    おとうさんが

    きげんわるいときも

    このぎしきがあるの

    いとこが

    いいがっこうに

    はいったからって

    おとなりのこが

    いいがっこうに

    はいったからって

    なんどもなんども

    どうして




    しんじてたのに

    ずっとしんじてたのに

    ひどいよお

    ぼろぼろにされて

    もうなにもできないのに

    それでももとめられて

    おいつめられて

    とうとうぼくは

    くるったんだ




    あれ

    からだががだんだん

    うごかなくなっていくよ

    うそじゃないよお

    ものがにじゅうにみえるよ

    ごはんがのどにつまるよ

    ろれつがまわらないよ

    めにしゃんぷーがはいっていたいよ

    おくすりのみたくないよ

    からだがおもくなるから

    でもだれもしんじてくれないの

    くるったひとのことばは

    ぜんぶうそだから




    なんだかねててもいきがくるしいよ………


    ひとりぼっちでぼくはしぬの………?


    いやだよ!


    さみしいよぉぉ!!














    だれか


    そばにいて……


    いっしょにぼくと


    ないて……


    だきしめて……


    それだけでいいの……


    それだけで


    しあわせなの


    ちいさいころからの


    ゆめなの……


    ずっとずっと


    かなえてほしかった……の………














もう君は一人ぼっちじゃないよ


ボクがいるんだもん


ずっとずっと君のこと覚えてるから……


だから、だから……うっうっ…えぐっ……




……泣いてくれるの、僕のために……


ありがとう……


あゆちゃん……


ぼく


しあわせだよ……






































ふらつくから、ハイヒールも履けないし


習ったことないからお化粧も分らない


後遺症とかで指先はよく動かないし


それでも先生が、よく筋萎縮が起こりませんでしたねって驚いてたから、


これでも良いほうなのかな?




とりあえず歩かないと始まらないんだけど


すこし問題もあるんだよね




例によってたい焼きを頬張りながら、商店街を歩いていると………


ふぐっ!


うわっ、問題!!じゃなかった祐一君だ! 隠れなきゃ




ふう、あぶないあぶない


とはいえ、気になるんだよねっ……


どれどれっと♪




ひゅー、お二人さん


仲良さそうだね、ふふ




ボクがいると祐一君、ボクの方ばかり相手にするから…大変だよ


街の中走って逃げ回らなきゃいけないんだから


全く、病み上がりには重労働だよ……




君、そんなお願いまでしてくれたんだね……


そんなのいらないのにさ


ボクは君だけでいいんだよ




ありがとう


ボク生きてるよ




ぽんぽん  ってだれかがボクの肩をたたいた


きゃっ!  当然驚いて振り向く


また逃げまわってるのですね、あゆちゃん


あ、なあんだ秋子さんか


これから買い物?


そうです、買い出しだからちょっとばかり多いんですよ


じゃあボク手伝うよっ




祐一さん家で愚痴ってるんですよ


あゆちゃんがつめたいって


恋人いるのに贅沢な悩みですねって返したら、だまっちゃったいましたけどね


でも、あゆちゃん………祐一さんから積極的に逃げるのね


余裕すら感じますよ


何かあったんですね




ねえ、秋子さん


なんですか?


お話、聞いてくれる…?


祐一さんをふった理由ですか?


そう!




夢の中だけど


ほんとうのはなし


一人ぼっちの男の子がいてね……




















END
2000/01/06UP


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