つながる世界

byELD.様





俺は相手に伝わらない苦しさを忘れかけていた。再びそいつに出会うまでは…大きなスケッチブックいっぱいに…こんにちは…の文字、元気いっぱいのその文字がよけいに俺の胸を締め付ける。俺はその苦しさをごまかすようにそいつの頭をはげしくなで回していた。



大きなチェックのリボンが印象的な少女だった。そいつはブランコで一人…こぐわけでもなくじっとしていた。俺は無意味な行動には非常に興味を覚える性質だ、そいつにその行動の真意を尋ねるのは当然だった。だがそいつからの返答はない。俺は業を煮やし、そいつのリボンをわしづかみにする………涙を浮かべ俺の手からそいつは逃げようともがく………俺はつかんだ手を開き不自然な泣き顔のそいつに向き直った。



砂に書かれた文字…いたいの…稚拙なひらがなはそう俺に訴えていた。そいつなりに発展させてきた自己防衛手段なのだろう…俺にはその痛みが必要以上に伝わってしまった。自分が物凄く卑劣な存在に思えた。足でその訴えをすべてもみ消すように砂をまきあげ、一目散に家へと走り出していた。



翌日、昨日と同じ場所、同じ位置、同じ姿でそいつはやはりブランコをこごうともせず虚空を見つめていた…俺は手にした使いかけの落書き帳をそいつに差し出す……?……いいか!これで俺に言いたいことがあったらいってみろ!!開いたページには俺の中では今大ブーム中の骨骨ロックがノリノリで踊っている…手垢で汚れたクレパスをそいつの手に握らせる。…いたかったの…くってめぇ…まだ根にもってやがったのか…だがそいつは言いたいことを俺に伝えたのだ…。



ああ、こんにちわだ…人に何かを伝えることがこんなにも難しいことだとは思わなかった。俺は周囲の連中からは一目置かれるエンターティナーのつもりだった。すくなくとも、そいつのスケッチブックの文字を見るまでは…簡潔な文章…それはタイムラグなしに思いを伝えるために発展させた伝達手段なのだろう…確かにぱっと見は良くない…ただ伝えたいことが多過ぎたそいつには最適の表現方法に思える。にこりと微笑むそいつの頭をさらにぐしゃぐしゃにしようと俺はわしづかみにしてやる。…やめてほしいの…もがきながらの走り書きはさらに読みにくいものへと変化する…だがそこには『今』伝えなくてはならない思いが込められているのだ…。



あの時…砂にかかれた文字を俺は一生忘れないだろう…そこには『今』伝えたい思いがあったのだ。俺が足で踏みにじった「ひらがな」…骨骨ロックの隣に申し訳なさそうに鎮座した「ひらがな」…今俺の手から逃れるために走り書く「ひらがな」…多くの相手には伝える必要はないが伝えたい相手に『今』伝えるために書かれる思いがそこにはあるのだ…。



END




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