嘆きの海にて



by詠月(SELENADE)
















海を見ている…



赤い光にきらめく波の表に



現れる事の無い魚達を夢見て……














さざなみを聴いている…



鈍く赤く光る雲間から



決して聞こえぬ海鳥の声を待ち望んで……















あれはなんだろう…?



寄せては返る波の泡にまぎれて



何かが見えた…



浪打際に打ち寄せられたそれをオレは手にとってみた



それは…ハードカバーの日記帳だった



水浸しにもかかわらず、そいつは破れることなくめくることができた



どうやら耐水紙らしい



字も滲んでいないところをみるとインクも耐水なのだろう














文字は女の子の字



どこかで見たような字……思い出せなかった



内容はある男の子への想いを綴ったものだった



男の子の名は何故か伏せられていた



そんな事も気にせず、オレは日記を読み進めていった



しかし、あるページにオレは釘づけになった















男の子の残酷な仕打ちが、女の子を心底苦しめていた



許されざる裏切りを男の子はしたのだ…



でも…女の子は男の子を許した…



それでも女の子は男の子が好きだった…















書かれている事からこれが誰ものだか分かった



オレは日記を勢いよくめくっていった



それが彼女の事だとオレは確信していた



でも、どうしても



名前が見たかった














あった



ながもりみずか



裏表紙の折り返しに、ひらがなでそう書いてあった














へへ……



あんなばかなことをしたオレを許してくれた



それでも好きでいてくれた……



それがうれしかった……























だけど……























喜びはほんの一瞬だった……



この日記帳がここに届いた意味をオレはようやく理解したのだ



なんてバカなんだろうオレは……























だってここは……























こ…こ…は……























忘れ去られたものが…最後に……辿り着く場所なんだから……























オレは長森の記憶の残骸を……



自ら殺してしまった恋人のように抱きしめて……



泣き崩れるしかなかった……
















泣いても涙が尽きることのない



叫んでも声が枯れることのない























そして…























この愚かな男を笑ってくれる人すらいない























この世界で……

































END


【BGM:AEGIAN SEA By APHRODITE'S CHILD】

99/12/13UP



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