『真夜中の午前二時』補完文章


 千鶴お姉ちゃんから産まれてくる子供に『楓』と名付けてもらえれば………。
 男の人がこの世で最も愛する女性。それは自分の娘だと何かで聞いたような気がする。
 耕一さんが楓を愛し、楓を育てる。
 時には叱り、時には甘やかす。
 そんな姿を死んだ楓お姉ちゃんが見たらどう思うだろうか。
 自分と同じ名前を持つ子供が、耕一お兄ちゃんによって愛されている。
 きっと、楓お姉ちゃんの霊魂も癒されるのではないだろうか。
 もしかしたら、転生してくるかもしれない。
 あ、でも………。
 わたしはその考えに、重大な欠点が有ることに気がついた。
 この事を実行するには、楓お姉ちゃんの死が自殺だった事を、わたしの口から皆に知らせなければいけない。
 言えるだろうか……。
 言えない。
 言えないよう。
 そんな事を話したら、みんなまた泣いてしまう。
 第一、産まれて来る子供に『楓』と名付けることを、千鶴お姉ちゃんと耕一お兄ちゃんが承諾するだろうか。
 普通に考えれば、自分の子供に自殺した人の名前をつけはしない。
 それともうひとつ。
 楓お姉ちゃんは、二人が結婚したことに絶望して生きる気力を無くした。
 無意識とはいえ、楓お姉ちゃんを追いつめた千鶴お姉ちゃんが、産まれて来る子供に楓と名付ける。
 楓お姉ちゃんは納得するだろうか……。
 見方によって、偽善のようにも見える。
 わたしは溜息をついた。
 良い考えだと思ったんだけどなぁ。
 でも他に方法は……。