CalculationにおけるVisualizationについて考えたこと

2000/05/25

The Inner Game Of Chessは私が最初に読み終えたチェスの洋書である。このような読みという 非常に個人的な行為の内面について書かれた本を将棋の世界でも見たことがなかったので 読み終えて大いに感動したのだが、この本の内容を実戦に生かすためにはメモをとりながら本を読むべきだったと 今になって若干後悔しているのである。この本は読んで面白かった(確かに面白かった)、 で終わらせるにはもったいない本なのである。そこでこの本を読んで意識し始めたことについて ちょっと考えてみたいのである。

私はこの本の著者Andrew Soltisと同様にチェスのゲームで勝つために最も重要な要素はCalculationであるという 立場を採るものである。従って、上達を目指すからにはCalculation能力を鍛えるということをする必要があると思っている。 この本に書かれているようにCalculationには色々な側面があるけれども、その中でまず手をつけるべきはVisualizationの 能力であると思っている。つまり、将来の想定局面を頭の中に描き出す能力である。

最近、ほかのチェスの本を読んでいる時にこの能力をもっと伸ばす必要があるとしばしば感じるのである。 というのは図面から図面までの指し手を最後まで頭の中で追いかけることができないことが多いからである。解説を読んでいても 対局者が読んでいた変化の読みの終点まで追いかけることができず、対局者との差を感じることはしばしばなのである。 もちろん書籍に登場する対局者は皆一流プレーヤーなので差があることは自然であるとも言えるが、実戦では50手も100手も先を 読む必要はなく、最大15手くらい先の局面を完全にVisualizeできればそれでこと足りるのであり、それができれば この面に関してのみ言えばGMクラスに追いついたと言えるだろう(15手先をVisualizeできるプレーヤーと100手先をVisualize できるプレーヤーには実際上差がないと言えるから)。そしてこれは練習次第で可能と思えるのであり、 それを今後やっていこうと思う。

さて、GM達が実際に頭の中で描いている局面のイメージというのはどのようなものかというのは個人的には 非常に興味があるのであるが、そのようなことに詳細に触れた書籍は知らない。 The Inner Game Of Chessの第1章にわずかに参考になる記述があるがあまり具体的なことには触れられていない。 本来はカスパロフや羽生4冠に話を聞いて真似をするのが一番良いのだが、そうもいかない。 従って、残念ながら現状ではこれは試行錯誤しながら練習して自分の方法を見つけていくしかないのである。 将棋の世界では「プロ棋士が頭の中でVisualizeする駒は盛り上げ駒できちんと色がついている」であるとか 「プロ棋士がVisualizeする盤の大きさは小さい」とかいうことを聞いたことがあるが、本当にそうなのか定かではない。

このような観点から私のVisualizationの現状を見てみると次のようなものである。

  1. ボードの大きさは比較的小さい。
  2. 駒に色はついていない。また、桝目にも色はついていない。
  3. 駒は形によって識別をするわけではない。駒の識別は例えば「白のキングだと思う」ということによってのみ行う。
  4. ボードは8x8桝全体を一度に認識する。
  5. 縦横斜めのラインはあまり綺麗に整っていない。少しゆがんだ感じがすることがある。
  6. 2次元的にも3次元的にも見ることができる。通常は2次元的に見ているが 3次元的にも見ることも視点を変えて見ることも可能である(そのことに利点があるかは不明だが)。 しかしボードを180度回転して相手側から見ることはできない。

これはもちろん今後変わっていく可能性が高いし、変えていかなければいけない項目もある。 5番目は要改善の項目で2も恐らく同様、4も変える可能性がある。6の2次元/3次元はどちらでも良いと思うが、 180度回転はできれば他人にはない強力な武器になる。将棋の加藤九段が相手側から盤を見るということをするくらいだから GMクラスでもうまくできる人は少ないと想像しているのだが、しかしそれは単にそのための練習をする人が ほとんどいないことが理由だろうと思う。 ともかく今後Visualizationの練習を行うにあたってのスタートである現時点での状態を記録に残す意味でも 敢えてこのような個人的なことをここに記しておいた。

ついでながら、参考のために将棋における私のVisualization能力についても書いておこう。将棋の場合のVisualizationでも 大枠は上記のチェスについての記述と変わらない。しかし、将棋については少なくとも過去においては 完全に自信を持ってではないが、なんとか目隠し将棋を行うことができた。高校生の時に目隠し将棋を行った記憶があるので レーティング2100程度の頃には既になんとか1局通して最後まで頭の中で駒を動かすことができたということだ。 (繰り返すが完全にではない。例えば持ち駒の歩の数が多くなると枚数があやふやになったりする。) 現在同じことができるかは不明だが、現時点でチェスにおいて将棋の場合と同じレベルでVisualizeすることが できていないことは確かである。

この、「ある程度なんとなくはできるが、クリアなイメージを作るのは難しい」Visualizationであるが、 それをうまく行うための工夫というものをいくつか考えている。これは前述のように試行錯誤で今後変わっていくだろうが 現時点で考えていることを挙げてみる。

最後に練習方法について。将棋の世界では読みの訓練には詰め将棋が一番だということがよく言われるのであるが、 駒数が少ないほどVisualizationは容易であるので、それだけではVisualization能力を鍛えるには不充分であると、 今にして思うのである。現在考えている練習方法は以下の通りである。

今後、前述の工夫をしながらこれらの練習をしていこうと思っている。

Visualizationはあまりにも個人的なプロセスであり、それゆえ参考にすべき書籍もほとんどないと思われるのだが、 世界でも極めてめずらしい試みとして現時点でこのテーマについて考えていることおよび私のVisualizationの 現状についてここに記述し、読者に公開した。 将来この文章を読みなおした時に、Visualizationの方法や能力がどのように変わっているのか、 この文章についてどのように感じるのか、自分自身非常に楽しみである。