エンドゲームの面白さとコツ (2)

クイーン・エンディングのアイデア(1)

74. Kf8 Qf5+ 75. Ke7

「エンドゲームの面白さとコツ (1)」からの続きです。

Q対7段目のPのような単純なクイーン・エンディングにおいて、Q側には基本的な攻撃手段が少なくとも3つあります。 1つは「チェック」です。これは当然です。他の2つはこれから出てきます。

前節でドローにせずにプロモーションにいく決断をする際に上図で恐れていた手があります。白Kh8です。 これで有効なチェックがかからない上に次にg8=Qのプロモーションを狙っています。実際にはKh8でなくKf8ときたのですが、 もしKh8ならどうすれば良いでしょうか。これが読めていないと前節で勝負に出られなかったはずです。

正解はチェックではないがg8=Qも許さないQb2です。そうです、2番目の手段は「ピン」です。 簡単なようでいて慣れないとうっかりすることもある手段です。前節の図の局面で「上図でKh8ならQb2」というのを 発見してプロモーションの勝負に出た訳です。これで少なくともパーペチュアル・チェックが可能な形になります。 対して白h4という手はありますが、その場合はピンの状態を保ったままクイーンを引き寄せるQf6です。

本譜は相手を(私を)安心させてしまうKf8だったので簡単にQf5+とチェックをしながらQを引き付けることができました。

クイーン・エンディングのアイデア(2)

75. ... Qg5+ 76. Kf7 Qd5+ 77. Kf8 Qd8+ 78. Kf7 Qd7+ 79. Kf8 Qd6+ 80. Kf7 Qf4+ 81. Ke8 Qg5 82. Kf7 Qf5+ 83.Ke7 (上図と同一局面)

83. ... Qg6 84. Kf8 Qf6+ 85. Kg8 Kxa7 86. Kh7

上図において75手目から83手目まで無意味な連続チェックをしています。勝ちが読めていなかったのです。 もし基本的な3つの攻撃手段を心の中で唱えながら指していれば簡単に正解を発見できたはずですが、 この時はまだ「単純なクイーン・エンディングには3つの攻撃手段がある」という整理ができていませんでした。

図での正解はQg6で、3つ目の攻撃手段は「クイーニング・スクエアのコントロール」です。 Qg6はチェックでもピンでもありませんが、プロモーションを許さず、かつP取りになっています。 3つの攻撃手段を整理しておきましょう。

そして、肝心なクイーン・エンディングにおけるフィニッシュの方法ですが、これも少なくとも3つあります。 最も頻出する形がここででてきます。黒84手目のQf6+、それに対する白85手目のKg8の形を覚えておきましょう。 Kg8となって相手のKがPのプロモーションを自ら妨げる形になりました。これまで3つの攻撃手段を駆使して プロモーションを必死に防いできたのですが、この瞬間だけは何を指してもプロモーションされません。 クイーン側はこの1手を好きなように使えるのです。ここではKxa7として白Pを取りました。

ポイントは、この技を何回でも好きなだけ使えるということです。相手のKをクイーニング・スクエアに追い込んでは 有効な手を1手指す、ということを繰り返せばよいのです。つまり、フィニッシュの方法その1は 「相手Kをクイーニング・スクエアに追い込むたびに自分のKを近付けるということを繰り返してQ+Kで相手をメイトする」です。

ほかの2つの方法はあまりお目にかからず、この対局でも出てきませんのでそれらを含めて3つの方法を書いておきます。

「2つ目はともかく3つ目の形なんてあるの?」と思いますよね。両方とも例を出しておきます。

相手Pがプロモーションした瞬間にメイトする例です。黒先で1. ... Qe7 2. Kg8 Kg6 の後、3. f8=Qの瞬間に Qh7でメイト。

相手Pがプロモーションした瞬間に受けなしにする例です。黒先で1. ... Kf5 2. h8=Qの瞬間にKg6でなんと受けなし。 K+Q対K+Qでチェックもかかっていないし、Qが取れる訳でもないのに決着が付く例があるのです。これまた初めて見た時には 感動しました。

クイーン・エンディングのアイデア(3)

86. ... Qf7 87. Kh6 Kb7 88. h4 Kc7 89. h5

これまでに述べた3種類の攻撃手段をもってフィニッシュの方法1を目指すという方針が解っていれば、上図では 既に簡単な勝ちです。

Qf7のピンでプロモーションを防ぎ、もし白がKh8なら黒Qh5+としてKg8を強要できます。そこでKを近付ける。 実際はKh6でしたが、この場合には白は既にクイーニング・スクエアをコントロールしていますので、 Kを寄せてくることができます。その後の白のh4からh5も無意味なように思えますが...。ここで次図です。

クイーン・エンディングのアイデア(4)

89. ... Qg8 90. Kg6 Kd7 91. h6 Ke7 92. Kg5 Kf7 93. Kf4 Qh7

図に至る白の最終手h5も一見何の意味もないように見えます。プロモーションの助けにもなりません。 しかし、恐ろしい狙いが秘められています。もしここで黒がルーチン的にKd7とKを寄せてくれば、すかさずg8=Q!とされます。 Qで取る1手ですが、ステイルメイトとなりドロー。私は図の局面になってはじめてこの狙いに気が付いたのですが、 あやうくKd7とするところでした。

ですから「自ら逃げ場をなくしてステイルメイトに追い込む」という防御側のアイデアを常に頭に入れておかなければ なりませんし、h5という逃げ場をなくす不自然な手を見て不自然であることを認識しなければなりません。 それとともに1手ごとに時間を使って読みを再確認しながら進めることも重要です。

さて、ここでQ対7段目のPの結論をまとめて書いておきましょう。これは覚える必要がありますが丸暗記は不要です。 理屈が解れば自然に覚えます。

初めてこの結論を見ると、どうしてPのあるファイルで結論が変わるのかと驚きますよね。これには防御側の 自らステイルメイトに追い込むというアイデアと密接に関係しているのです。要はBPまたはRPの場合にはフィニッシュ1の 方法を使おうとしても、防御側がステイルメイトで逃れることができるのです。

まずはCPの場合。図で白Kg8ならPが取れますし、Ke8ならKb2とKを近付けることができます。以下、同じことを繰り返して Kをd6まで持ってきてメイトします。

次にBPの場合。一見同じように見えますが、ここで白にはKh8!という手があります。Pを取ればステイルメイトでドロー。 Kb2ならもちろんf8=Qのプロモーションでドロー。Qf5やQf6+ならKg8と戻って同型三復または50手ルールでドロー。

最後にRPの場合。ここで白Kh8と逃げて自らステイルメイトの形になります。放置してKb2ならステイルメイトですし、 Qf5、Qf6、Qh6などはいずれもKg8と戻ってやはり同型三復または50手ルールでドローです。

おわりに

94. g8=R Qxg8 95. Ke4 Qg6+ 96. Kd4 Qxh6 97. Kc3 Qh4 98. Kc2 Qg3 99. Kd2 Qf3 100. Kc1 Qe2 101. Kb1 Ke6 102. Kc1 Kd5 103. Kb1 Kc4 104. Kc1 Kb3 105. Kb1 Qb2# 0-1

上図からは容易な勝ちで説明は不要でしょう。

この記事は実は自分のために書きました。これからエンドゲームの学習をどのように進めていこうかという 考えを整理するためにです。

エンドゲームは数学の問題を解くことに似ています。大事なのは何でしょうか。知識でしょうか、思考力 (まさにCalculation能力)でしょうか。公式の暗記でしょうか。問題(ポジション)の暗記でしょうか。 それとも純粋に先を読む力があれば良いのでしょうか。

私なりの答えは「思考力が大事だが、そのベースには知識が必要不可欠である」。加減乗除とユークリッドの公理 だけ知っていても難しい問題が解けるようにならないのです。その場でピタゴラスの定理や三角関数の加法定理を 発見できるはずがないのです。 その意味で定理(方陣定理、N対Pの結論、Q対7段目のPの結論)も必要ですし、 アイデア(キングのセンターへの進出、重要な守備駒の消去、チェック、ピン、 クイーニング・スクエアのコントロール、ステイルメイト狙い)も必要です。

しかし、何でもかんでも暗記する、本に載っているポジションを暗記する、というのは効率が悪いですし、 やろうと思ってもできません。そこで簡単な公式からより難しい公式を導き出すといった工夫も必要になってきます。 三角関数の加法定理を知っていれば倍角の公式やまして3倍角の公式など覚える必要性はないのです。 いつでも自分で公式を導くことができるからです。 同様に、ボードの端の特殊性と防御側のステイルメイトのアイデアを理解していれば、さまざまなエンディングにおいて発生する Pの存在するファイルによって変わる結論にも対応することができるでしょう。 いつでも自分で結論を導くことができるからです。

以上のように、この記事は私自身がこれからエンドゲームの学習を進めるにあたって現時点でのさまざまな考えを まとめておこうと思って執筆したものですが、もし何か1つでも読者の参考になることがあったとすれば幸いです。