Fritz6の最強モードに対等の条件で初めて勝つことができた。本当に嬉しくて嬉しくて仕方がない。 そこで記念に自戦記を残すことを思いついた。感激が薄れないうちに記録を残しておこう。
この対局の6日前である4/13にFritz6の最強モードで5局ほど対局していた。それまでは最強モードでは あまり対局したことが無かった。ほとんど勝つ見込みがないのに対局しても面白味が無いと思っていたからである。 実際、赤子の手をひねるかのごとく簡単にやられていた。 しかし、この日対局してみると意外なことに善戦に次ぐ善戦だったのである。第1局は61手頑張り、 最終図 では私がキングとポーン4つ、Fritz6がキングとポーン5つという大熱戦だった。これには興奮したし、また 感激もした。自分がGMクラスの実力のプログラムに対してここまで戦えるのかと。この対局で初めて Fritzがメッセージを画面に表示するように設定にしたのであるが、Fritzが随分誉めてくれたので ますますやる気になり、続けて何局か指したのである。そして最終第5局ではやはり負けたものの局後にFritzから 「投了しなければならないかと思った」というメッセージ をもらうに至ったのである。ここまで言われれば 今後も挑戦したいと思ったし、なんとかせめて1回くらいはドローにできないものかと考えるようになったのである。
その後、日を改めてまた何局か指したのだが、今度は善戦すらできなかった。これでは4/13以前とあまり変わっていない。 しかし、あまり気分が乗っていなかったというのはあった。本気で勝ちを狙うには気分が充実していないといけない。 だからそうなるまで待とうと思った。そして4/19、またFritzに挑戦したいと思ったのである。
4/13の時は持ち時間が2/12または2/20であった。この時は秒読みが苦しかった。だから持ち時間を増やそうとは 思っていた。客観的に考えて今の自分の強みは将棋で鍛えた読み(Calculation)の力であろう。ICCで対局していて常々思うのだが、 おそらく同じレベルのレーティングの人達の中でオープニングの知識は下位20%に入るだろう。もしかすると 下位10%にも入るかもしれない。チェスを本格的に始めてから日が浅いので当然といえば当然である。 では、それを何で補っているのかと考えればそれは読みの力としか考えられない。 だから持ち時間が多ければ多いほどこちらに有利になると考えた。こちらは「知識」や「慣れ」や「直感」はまだまだなのである。 しかし、いきなりトーナメントの持ち時間でやるのも大変な話である。 「まあ、対局した感じでもっと持ち時間が欲しいと思ったら徐々に持ち時間を増やして いけば良いだろう」と考えて持ち時間は10/30とした。もちろん、こちらが白番である。
1. e4 c5 2. Nf3 d6 3. d4 cxd4 4. Nxd4 Nf6 5. Nc3 Nc6 6. f3 a6 7. Be3 e5 8. Nb3 Be7 9. Be2 0-0 10. Qd2 Qc7
局面はシシリアンに進む。Fritzとはシシリアンかルイ・ロペスになることが多い。こちらとしては どちらでも良いけれども、シシリアンの対ドラゴン・バリエーションの形は比較的好きである。 ロングキャスリングしてキングサイドから攻めたいのである。しかしFritzは何故かドラゴンは指さない。 Fritzの5手目Nc6とナイトをぶつけてくるのはラウザー・システムと言うらしい(00/04/30追記:この記述は誤りでNc6に対して Bg5と出るのがラウザー)。この手に対して少考したら すかさず画面に「Out of Book?」とのメッセージ。そう、その通りである。5手目にして早くも私の頭の中にあるオープニング・ブックには お別れである。今のところ相手がどのバリエーションで来ても対ドラゴンの形しか指せないのである。 それしか知らないから。定跡とは違うが そんなに悪い手とも思えないから今の段階ではとりあえず問題はないだろう。
白9手目Be2でBc4は黒はa6の形なので当然b5がある(すぐに来るかどうかは分からないが常に狙いとして残る)。 Be2は対ドラゴンの旧型の形だが仕方がない。 白10手目Qd2でどちらにもキャスリングできる形になったが、キングサイドから攻めたいので頭の中には ロングキャスリングしかない。この辺りのFritzの形勢判断は白有利の判定であり、Evaluation Profileの グラフで緑の帯が表示されていた。たとえOut of Bookでも悪くならなければ全く問題は無い。
11. g4 b5 12. h4 Rb8 13. h5 b4
11手目のg4とb5は攻めの常套手段。白の12手目と13手目はもちろんh6という手も狙っているが、それとともに h5の桝目を埋めにいったもの。g5でナイトを攻めた時にh5に逃げられたくないのである。黒12手目のRb8は 有難かった。こちらから見て嫌な筋はa5からa4とb3のナイトを攻める手だった。d2にクイーンがいるので現状では 逃げ場所がc1しかないからである。しかし、今見るとa4ではb5のポーンが浮いてしまうし、b5とするところで 他の手といっても思いつかない。a-fileから攻めるのは難しかったのかもしれない。
この辺りでFritzの形勢判断は黒有利に変わっていた。白がh-fileのポーンを進めた手を有効と見ていないのか。 しかし、、こちらはこちらで若干指しやすいと思っていた。嫌だったa-fileからb3のナイトを攻める手を指してこなかったし、 早かれ遅かれやってくるであろう黒b4はNd5、Nxd5、exd5で先手を取れるので怖くないからである。
ここに至って、必要がなければキャスリングしないという考えに変わっていた。黒がクイーンサイドから攻めてくるのは 明らかで、わざわざ戦場に近付くこともないだろうと。
14. Nd5 Nxd5 15. exd5 Na5 16. Nxa5 Qxa5 17. g5 f5
Nd5 Nxd5 exd5は予定通り。Na5に対しては最初は手を抜いてg5かBd3とするつもりだった。次に黒Nc4と来るのが 見えていなかったのである。もちろん黒Nxb3ならaxb3で問題ないのだが、Nc4とされてビショップを渡すのは嫌である。こちらは 一番働いていないピースであるb3のナイトと交換したい。とすればNxa5と取る1手。ナイトの交換の後に予定のg5とした。 狙いの筋はg6でどちらのポーンで取ってもh6とする。単にh6だとg6でブロックされてしまうのでそれを避けるための サクリファイスである。g6にh6ならもちろんBxh6。
黒17手目のf5の受けは読んでいた。 次に黒f4が見えている。どうするか。 gxf6とアンパッサンで取れば黒f4が消える。黒はgxf6とポーンで取ればBh6からRg1があるし、Rxf6とルークで取れば Bg5が見えるからBxf6とビショップで取るだろう。そこでh6、g6、Bg5、Bxg5、Qxg5くらいか。その後が良く分らない。 h6はg6とされて一旦攻めはストップするが、それで悪いとも思えない。 拠点を作ってひとまず満足という考え方である。しかし次が難しい。 g6は攻めきってしまおうという手。黒hxg6なら白もhxg6としておいてから クイーンがh-fileにまわることを考えれば良いし、f4ならgxh7である。h6でブロックするのは構わずBxh6がある。g6で 攻め潰したか?しかし、良く読んでみるとh6、Bxh6の後f4でクイーンの利きを止める手がある。利きが止まるだけでなく ビショップの行き場がない。困ったか。
こうしてアンパッサン、g6、h6を比較検討していたところで秒読みに突入した。 読みきれないが、どれか1手に決めなくてはならない。
18. g6 h6 19. Bxh6! f4 20. Bxg7! Kxg7 21. Bd3 Bg5
結局g6を選んだ。f4でビショップを殺された後のBxg7からBd3が見えたからである。Bd3では直接h6、Kg6、Bd3+とする手も あり、あるいはこの方が簡明だったかもしれない。いずれにしても、ここではビショップを取られたと言っても ポーン2つとの交換だし、駒の効率もキングの安全さもこちらが上。優位に立ったと思った。しかし、 Fritzを信用していたし、こちらの気が付かない受けの手で受けきられてしまうのは良くあることである。 この時点ではまだまだ大変だと思っていた。ただ、「勝った」とは思わなかったが、「もしかしたら」とは思い始めていた。
図の黒の最終手Bg5は変な手だと思った。なんだこれは。今見るとh6を防いだという意図だと言うことが判るが、秒読みの中では 変な手だなとしか思わなかった。対局中はKh6とキングでブロックする1手だと思っていた。g7のつもりだったが、 Rg8の先が読めていなかった。Bg5に対して自慢の1手が出る。
22. h6+! Bxh6 23. Rxh6! Kxh6 24. Qh2+ Kg5 25. g7 Rg8 26. Qh7
h6が当然の継続手で今見ると難しくもなんともないが、実戦では秒読みの中でこの手を発見してはっきり勝ちになったと思った。 この手でQg2とするとBh6とビショップでブロックされて訳が分らなくなる。
ルークをビショップと交換した後、Qh2のチェックに対してどちらに逃げるのか。g7に逃げるのはQh7、Kf6、g7で ポーンの昇格が確定。g5に逃げるのはg7としてルークがg8以外に逃げればg8Q+!としてRxg8にQg2からルークを取る 筋もあるし、本譜同様にQh7もある。結局Fritzはg5と上に逃げ、g7にはRg8とブロックしてきた。これに対してはもちろん Qh7でルーク取り。と同時にこれはQg6+、Kh4、Ke2!で次にRh1+とする手を見ている。
と、30秒の秒読みの中でここまで読んでのh6からのルークとビショップの交換だったから自慢のサクリファイスだったのである。 読み切れないと秒読みに追われてとりあえずの先手でQg2などとしてしまうということが往々にしてあるからである。
さて、図のQh7で受けは無いように見える。あとはFritzがこちらの気が付いていない受けを出すのかどうか。 ここでは完全に勝ちだと思っていたが、「勝ちだと思う」のと「実際に勝つ」のでは大違いである。善戦というのは 結局負けということだし、ここまで来てただの善戦ではつまらない。いよいよ本当に勝てるのか、胸が高ぶる。
26. ... Qb6 27. 0-0-0! e4 28. Bxe4 Qe3+ 29. Kb1 Black resigns 1-0
(図面は冒頭の最終図を参照)
Fritzの答えはQb6の最後の反撃だった。ここでQg8とルークを取るとQg1+でややこしいことになる。続いてBf1には Bh3と遊んでいたビショップに働かれる。
しかし、ここで取っておきのロングキャスリングという手段が残っていた。必要が無ければキャスリングしないつもりだったが、 最後にキングを安全地帯に逃がすために必要になり、自然な形でキャスリング。しかも、このキャスリングは次にQg6+、Kh4、 Rh1+、Bh3、Qg4#のメイトを狙っている一石二鳥の決め手である。これでFritzも万事休す。黒28手目e4は無駄な手数伸ばしで、 このような手が出るということは終了目前のサイン。 最後に1度チェックをかけてFritzは投了した。ここで投了するとは思っていなかったのでFritzの潔さも認めよう。 終わってみれば完勝と言って良い内容だった。
ICCで自己紹介の文章に自分が勝ったことのあるタイトルホルダーの 名前を記述している人を見たことがある。別に彼を非難しているわけではない。その人はWGMに勝ったことがあると いうのだが、失礼ながらレーティングは私よりも下だったのでその時は「?!」と思った。しかし、自分もFritz6に勝って そのようなことが起こりうるのだということを理解することができた。誰でも最高のパフォーマンスをすることが あるし、そのような時には最強の相手にも勝つことがありえるのだと。この喜びと充実感は何物にも代えがたい。 まさに至福の時を味わっていると言って良い。これだからチェスはやめられない。
[Date 4-19-2000] [White kfj] [Black Fritz6 Level=Blitz:10'+30'' CPU=Celeron 366MHz Memory=192MB HashSize=16MB] [Result 1-0]