KIRIN「FIRE・HEART」

品名:コーヒー
価格:120円
内容量:190g
製造者:キリンビバレッジ株式会社

試飲日:2003.02.21
試飲状況:HOT


2月、というのは、私の頭の中ではまだまだ冬の真っ只中であるのだが、暦の上では、もう春なのだそうだ。
確かに、まだまだ寒さの厳しい日こそあるものの、空気は真冬の張り詰めたような厳しさから、少し緩んできているようにも思える。また、陽射しはずいぶんと暖かなものになり、風の当たらない陽だまりなぞにいると、春が直ぐそこにまで来ているかのようなうららかさを覚えるのである。
そんな春の訪れを間近に控えた二月であるから、当然缶コーヒーの世界でも、春夏に向けての商品が発表される頃であろう。
しかしそんな世上に抗って、今回は去年の秋冬製品、KIRINの「FIRE・HEART」である。

この「FIRE・HEART」、缶にはFIREシリーズ伝統の掘り込みによる炎のマークとともに、なにやら大理石調の模様がプリントされている。プリントされている、と書いたが、どうもただのプリントではないようで、手に持つと、つるつるとしたスチール缶のそれではなく、ざらついた手触りがする。尤も、質感そのものは、やはりスチール缶なのだが。
さらに、缶には「戻り香焙煎」とあり、「ディードリッヒ焙煎機によりコーヒー豆のうまさを引き出した」とある。
ディードリッヒ焙煎機。なんだか名前だけ聞くと、グーテンベルク印刷機並みに人類の進歩に寄与しそうな、凄そうな物の感もあるが、一体どんなシロモノなのかは浅学にして私の知るところではない。KIRINのホームページを見てみると、どうも複数回の焙煎を重ねる手法らしい。ひょっとするとその道に通じた好事家の方々には常識なのかもしれないが、こうした情報の公開は喜ばしいことである。無論、限られた缶のスペースに細かい情報を書き連ねるのはエレガントではないし、敢えて「わかる人にはわかる」態度を取っておくのも、世のスキモノどものスノッブな自尊心を満たすには良いのかもしれない。実際、ほとんどの人にとっては、そんな事はどうでもいい事であるのだし。
が、それがどう良いのか、なぜ効果的なのかという情報を何も出さず、ただ「だから凄いんです」とだけ言われても、それは「絶対儲かります」と言うだけの投資情報や「何某党のナントカです」と連呼するだけの選挙カーのようなものではないだろうか。
せめて、わざわざ情報を求めてホームページにアクセスしてきた人には、何らかのインフォメーションを用意しておいて頂きたいものである。したがって、このKIRINビバレッジの方針には、素直に感謝したい。
まあ、缶コーヒーは投資したとてたかだか120円だし、税金の無駄遣いではないだけマシかもしれないが。

で、120円の投機、もとい投資をしてみる。砂糖に頼らない、としている割には、香りはかなり甘い感じだ。原材料表示を見ると、記載は「牛乳、コーヒー、砂糖(以下略)」の順で、甘い香りは牛乳由来、ということが分かる。事実、水色はほぼミルクコーヒーと言って良い色である。
尤も、ではマイルド志向なのかというとそうでもない。飲んでみると意外としっかりしたコーヒー感が効いている。FIREシリーズは(ロング缶のやつは飲んだことが無いので知らないが)全体にしっかりとしたコーヒー感がブランド・アイデンティティーになっているようで、それはこの「FIRE・HEART」でも共通、ということだろう。
では、シリーズ中でこの「FIRE・HEART」の特徴は何か、ということになれば、缶にも記されているように、それは香りである。
といって、缶を空けた瞬間から豊かなコーヒーの香りが立ち上ってくる、という種類のものではない。既述のように、缶を開けて最初に感じる香りは、ミルク分由来の甘い香りである。
寧ろ「FIRE・HEART」の特徴は、口にして、最初にコーヒー感を感じたその後に、口中にふわっと広がる感じの香りである。ただ、「ふわっと」というよりは、もっと力強い、あるいは押し付けがましい感じであり、ちょっとスパークリングワインのそれのようでもある。確かにこれまでの缶コーヒーには無い独特のものだ。
正直、飲む前には、缶に「戻り香焙煎」とされ、「飲んだ後にふわっと香る」と書かれているものの、さしたる期待はしていなかったのだが、この表現もあながち誇張ではなかったといえる。
ところでその香り自体だが、若い果実感のある、フレッシュでスパイシーな、ヴィンテージというよりはヌーヴォーのような印象だ。したがって、人によっては、もう少し落ち着いたものを好む、ということになるのかもしれない。
概して日本人は若いものが好き、とは様々な分野で言われることだ。若いものには、それはそれで良さがあるのは確かである。が一方で、熟成を重ねたものの方が、角の取れた、穏やかな、つまりは誰にでも勧められるバランスの良いものになっているのが一般である。
この「FIRE・HEART」も、確かにこれまでの缶コーヒーには無い独特のテイストで、またそれ自体決して好ましくないものではないのだが、しかしそれゆえ、人によって好き嫌いがはっきり別れるのではないかと思われる。

結論:
面白いですよぉ。

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