新井くんと松田くんの長い1日。
作:G☆SCR 【up dete 2001'2'14】


2月14日。
男の子にとってとても楽しみな1日である。
……くれる相手がいれば、の話であるが。

朝、昇降口。

「また、今年も来たんだな」
「ああ、バレンタインデーだな」
「まったく、世の中浮かれやがって」
「同感だ。そもそもバレンタインデーは男性が女性に普段の愛情への感謝を込めてプレゼントを贈る日であって、女の子が、しかもチョコを贈るなんていうのはお菓子産業のトリックに引っかかっているだけだぞ」
「負け犬の遠吠えにしかきこえんな」
「うっせぃ!」

新井裕之介と松田七月男。
この2人、見事にバレンタインデーと無関係な日々を送っている。そんな彼らがチョコをもらうとすれば奇跡しかありえなく、そして奇跡というのは起こらないから奇跡なのである。
でも、そんなこと言っていた女の子も助かっちゃうくらいの世の中だから。
「……」
「……疲れてるな、朝から幻覚が見える」
「最近の幻覚はリアルだな」
「うむ、さわることもできる」
「って、これ本物じゃないのか?!」
「ほ、ほんもの?」
「ああ、本物だ!」

普通下駄箱の中に幻覚は見えないと思うが。
今日という日に、下駄箱の中に、いかにもというラッピングの箱。
少しだけ香る、チョコ特有の甘い匂い。

「……罠か」
「罠だな」

…………ひねくれてますな。
「実はどこかにカメラがあって」
「俺達の狂喜乱舞する様をとろうという魂胆か。甘いな」
「とりあえず、慌てず騒がず」
「この場は立ち去ろう!」

もしカメラあったら、今までの会話だけで十分楽しめますけど。
毎年欲しい欲しいと言っている割に、どうして素直に喜べないんでしょうね〜。

放課後、屋上。

「うーむ、匂いといい見た目といい、どう見てもチョコだな」
「いや、わからんぞ。最近のCGの進歩はめざましいからな」

いや、CGはないだろ、CGは。

「俺の読みではおそらく……」
「おそらく?」
「普通のチョコと見せかけて、中身は激辛とかいうオチに違いない!」
「なるほど! 確かに俺達のキャラにあってるかも!」

……まあ、本人達が承知してるんならいいんだけどね。

「じゃあ、まずは2つに割ってみるか」
「いや、待て」
「何を止める、松田?」
「もし、万一! これが俺達を影から見つめている美少女からの愛のこもったプレゼントだったとしたらどうする!」
「はっ!」
「今のその子は俺達を見ているかもしれない!」

そう言われて辺りを見回す。
誰の気配も感じることはできないが……

「だとしたら、どうする?」
「俺達が疑って、2つに割ったりして確認してみろ。彼女はショックで寝込んでしまうかもしれないんだぞ!」
「た、確かに!」

いや、普通そこで納得しますか? まあ、新井くんだしなあ。

「名前もなく、こっそりと下駄箱におかれたチョコレート。それを贈った女の子の気持ちを無にすることができるだろうかいやできない!(反語表現)」
「しかし罠だったとしたら!」
「罠で結構! 笑いたければ笑え! 女の子の気持ちを踏みにじるくらいなら、俺は望んで笑いものになってやろう!」

いや、盛り上がってるところ申し訳ないんですけどね。
やろうとしていることはチョコを食べるだけのような気が……

「松田……俺が間違っていたよ」
「わかってくれたか」
「ああ。チョコもらえない歴16年、いつの間にか俺は人を信じるということを忘れちまってたみたいだ」
「もういうな。今俺達がやるべきことは」
「ああ、わかってるとも」

ラッピングを綺麗にはずし、箱を開け、チョコを両手に持つ。
つばを飲み込んだのは、期待か緊張か。

「いくぞ!」
「おお!」

パクッ

「う……」
「う……」
「「美味いぞぉぉぉ!!」」

あ、本物だったんだ。
これだけ引っ張ってやっぱりビックリカメラっていうオチかと思ってたのに。

「こんなに美味しいチョコを食べたのは生まれて初めてだ!(涙)」
「うう、やはり俺達のことを見てくれている女性もいてくれるってことだな!」
「その人の期待に応えるためにも!」
「これからも世界征服部浅薙隊として!」
「世界制服のために日々戦っていこう!」
「おう!」

屋上でチョコ片手に、、夕日をバックに腕をクロスさせる2人。
うーん、感動のシーンなんだろうか?

同時刻、生徒会室。

「お疲れさまです」
「浅凪か。いや、今日は特に仕事はしていないが」
「違いますよ、チョコのことです」
「……!」
「朝早くから、新井君や松田君、特戦隊の全員の下駄箱に入れるのは、なかなか大変だったでしょう」
「見てたのか?」
「いえ、そうじゃないかなぁと思って聞いてみたのですが」
「人が悪いな。私を引っかけるとは」
「すみません。……みんな、喜んでいましたよ」
「いつも働いてもらっている。このくらいのことはしてやらないとな」
「名前、何故書かなかったんです?」
「そ……そんな恥ずかしいこと……できるはずない……」
「そうすれば、みんなもっと喜びますよ」
「ひ、人のことはいいから。はやくアリエルに行け」
「? 何故私が行くのを知っているのですか?」
「いいから、早く行け」
「はあ……」

いぶかしがりながらでていく九郎を見送って、ポツリ。

「浅凪も……もう少し、自分のことに敏感になるといいのだがな……」



【作者より】
 雅先生の『ばれんたいんすぺさる』に触発され、即興で作ってみました。
 正味2時間、まあそこそこのものにはなったかと。

 『ばれんたいんすぺさる』を読んで困ったこと。
「うーみゅ、今までのイメージとしゃべり方とか結構違うなあ(^^;」
過去のSSのしゃべり方が別人のように似てなかったりしてどーしようかなあと考えたのですが。
結論。
「まあ、SSだし(^^;」
 司木君やあきちゃんにこういう一面もあるということで、読者様には納得してもらうことにしましょう。
感想など掲示板orメールでお聞かせ願えると嬉しいです〜。