「LAUNDRY DAYS」
作:G☆SCR 【up dete 2001'4'24】



【注意】
「どうも、あきだよ。
 このSSは、田舎工房さんが発行した同人誌『AS』のボクと橙也クンのイラストからイメージして作ったんだって。
 だから、まだ見てない人は『AS』も見てくれると嬉しいな♪
 あきからのお願いだよ☆」



 桜の花も散り、いよいよ過ごしやすくなってきた、とある日曜の午後。

 買い物帰り、いつもとは違う道を通る橙也。
 運命論者なら「彼がその道を通るのは必然であった」とでも宣うのだろうか。
 ともかく、その道すがら、彼は出会ったのである。

 廃品収集所か何かだろうか。
 うず高く積まれた電化製品や廃棄物の山。
 その山の8合目あたりに、1人の女の子の姿。
 背格好からすると中学生か、白のジャンバーが汚れるのも気にかけず何かを掘り出そうと懸命になっている。
 と、いうか。
 橙也はその女の子を知っていた。よ〜く、知っていた。
「あき、センパイ?」

 地面の方からの聞き覚えのある声に、あきは体勢をゆっくりといれかえながら顔をそちらに向ける。
「あれ、橙也クン? どしたの、こんなところで?」
 それはこっちが聞きたいですよ、と思いつつ、とりあえず質問に答える。
「フリマの帰りですよ。駅向こうの通りでやってましたから」
 そう言って紙袋を片手で持ち上げ、軽く揺らしてみせる。
「ふーん、橙也クンってそういうの好きなんだ、今度一緒にいこう♪」
「ああ、いいですよ……って、そうじゃなくて。先輩こそ、そんなところで何してるんです?」
「ん? ボクはね、宝探し」
 そう言って軽く胸を張る。
「宝、探し?」
「うん! ちょっと待っててね、掘り出したらそっちに行くから」
 橙也の疑問などお構いなしに、あきは発掘作業を続ける。鼻歌でも歌い出しそうなくらいに嬉々としている彼女を見ては、橙也もそれ以上は追求できず黙って見届けることとした。
(手伝うって言っても聞かないだろうし)
 だが、高さは4,5メートルになろうかという不安定な場所。いくらあきとはいえいつバランスを崩すかわかったものではない。ただ見ている側としては寿命の縮む思いだ。
「センパイ、気をつけてくださいよ」
「うん? 大丈夫、お店の人に許可はもらってるから」
 そういう心配をしているわけではないのだが。
「いや、そうじゃなくて……」
「ちょっと待ってて、もうすぐだから〜」
 橙也の心配をよそに、あきは山の中の何かに両手をかけ、力を込める。心配と不安をたたえた眼差しが見守る中、
「よし、とれたっ!」
 立ち上がった彼女が両手で掲げたのは、何やら装飾がほどこされているらしい、丈夫そうな木製の箱。
 それが何かよりも、無事作業が終わったことにホッとして、降りてくるあきに声をかける。
「センパイ、嬉しいのはわかりますけど、足下注意してくださいよ」
「わかってるよ、心配しないの♪」
 だが浮かれているときはどうしても注意力散漫になるもの。リズムをつけて降りてくるあきの右足の、ちょうど踏み込んだ場所にあったラジカセはあっさりと崩れ、体勢が前につんのめってしまう。
「え? え、え?!」
「あきセンパイッ!」

 間一髪。
 地面にダイブするはずだったあきの身体を、橙也がしっかりと受け止めていた。そのまま2人とも無言のまま、橙也はあきを静かにおろす。
「あ、ありがと……橙也クン」
 まだ心臓が悲鳴を上げている。そんな中でもこれを離さなかったのはたいしたものかなあ、と妙な関心をしながら、橙也の顔を下から覗き込む。
「センパイ」
 いつもより低くとがった声。表情を確認するまでもなく怒っているのがわかる。
「ご、ごめん……」
「ごめん、じゃないですよ。俺がいなかったらどうなってたと思うんですか」
 地面と正面衝突してたかなあ、などと軽口を叩ける雰囲気ではない。本気で心配してくれていた彼にすれば、あの瞬間の恐怖はあき以上だったかもしれない。
「……ごめんなさい……」
 シュンとして顔をうつぶせる姿を見て、さすがに言い過ぎたかと思い、「もう怒ってないですよ」の意味を込めて右手で頭を撫で……ようとして恥ずかしくなり、結局何もせぬまま照れたように顔を明後日に向ける。
「ま、まあ、無事だったからいいです」
「心配してくれてたんだね」
「当たり前です。……もう、無茶はしないでください」
 これで終わりと言葉を切ると、合わせるようにあきが顔を上げ、その微笑みを橙也に向ける。
「うん、わかった」
 その言葉に疑いの表情をあからさまに浮かべる。
「あ〜、全っ然信じてないでしょ〜」
(信じろってほうが無理でしょ)
 ふくれっ面のあきに苦笑いしながら、橙也はズボンのポケットからハンカチを取り出す。
「はい、これ」
「?」
「いや、せめて顔だけでも拭いた方がいいかなあなんて……」
 そう言われて自分の現状にはじめて気づく。箱を持っている両手はもちろん、ジャンバーもズボンもTシャツも砂や油で汚れまくり。
「あ、あはははははは……」
 ごまかしようもないので笑っているが、男の子の前でこの格好はさすがに恥ずかしいのだろう、顔が少し赤みを帯びている。
「どうしようね〜」
「いや、どうしようっていっても」
 悩んでも答えの出ない問題のような気がしたが、何か思いついたのか、あきが目を輝かす。
「橙也クン、それちょっと貸して♪」
「? これ?」
 あきが指さしたのは、橙也の買ってきたフリマの紙袋。
「それって、中身服でしょ? 上から見えたもん」
「でも、サイズ全然合いませんよ」
「あったり前でしょ」
 鈍いなあ、という気持ちを込めて、あきが続ける。
「それに着替えて、その間にコインランドリーで洗濯して乾かせちゃえばいいの。確か近くにあったよ」
 そう言われれば、ここに来る途中にそんなものを見かけた気がする。
「わかった? じゃあ、ちょっと貸してね」
 そう言って紙袋を受け取り、奧の建物に向かうあき。半分感心し半分あきれながら、多少気にして建物とは逆の方角を向いた橙也だが、何故か背後から視線を感じる。振り返れば、両手で紙袋を胸の前で抱えながら、じっとこちらを見るあきの姿。
「どうしたんです、センパイ? 何か問題でもありましたか?」
「ううん、そんなことないんだけど」
 あきはうつむきながら、視線だけを橙也の方に向け、少し恥ずかしそうに言った。
「そっちがいいな」
「?」
 そっちも何も、買ってきたのは1組だけだし、それは全部袋に入っている。いよいよ意味がわからず、首を傾げる橙也にあきがまた一言。
「今、橙也クンが着ている服がいいな〜……なんて」
「はいっ?!」
 ずいぶんとベタな反応だが、こういう場面で驚かない人がまれなのだろう。思考が混乱中の橙也へ、さらにあきの言葉が続く。
「そっちの方、着てみたいな〜」
「あ、あのね、センパイ……」
「そっちがいいな〜」
「あの……」
「いいな〜」

 ついさっき買ったばかりのズボンに履き替え、橙也は建物の外であきの着替えが終わるのを待っている。売っていた人も自分とほぼ同じ体格だったからサイズは心配してない。上はさっきのシャツのままだが、全体のコーディネイトとしてもなかなかバランスがとれているし、いい買い物だったと思う。
「おまたせ〜」
 その声の方を向き……橙也の顔が瞬間でゆでだこのように真っ赤になった。あきが着ているのは橙也の着ていたオーバーロールのズボン、それだけ。サイズ的に上半身まで十分隠しているが、肩丸出しの姿は目のやり場に困ってしまう。
「セ、センパイ?」
 できるだけ視線をはずしながらの橙也の言葉はややうわずっている。確信犯なのか、あきはニコッと笑い
「ねえ、似合ってる?」
とクルッと回ってみせる。
「に、似合ってるっていうかなんていうか……袋に入っていたシャツはどうしたんですか?」
「んー、ちょっと色がいまいちだったから」
 そういう問題かとツッコミ入れるところなのだが、すでに橙也の思考能力は飽和状態。
「それより、早く洗濯しに行こう♪」
「!! セ、センパイは残っててください! 俺がさっさと行って来ます!」
 言うが早いかあきから袋を奪い取り、駆けだしていく。ポツンと1人残されたあきは自分の服装を見かえし、顔をほんのりと赤らめて小さく呟いた。
「ちょっと、恥ずかしかったかな」

「はい、キレイになってますよ」
 コインランドリーから帰還し、着替えの入った袋を手渡す。あきはその中からジャンバーだけを取り出し、そのまま羽織ってしまう。
「よし、それじゃ帰ろっか☆」
「……センパイ、何してるんです?」
 行動を全く理解しきれてない橙也に、さも当然のようにあきがこう告げる。
「んーとね、このズボン気に入ったから、このままもらって帰ろうかな〜って」
「あ、あのですね……」
「ダメ?」
 女の子の必殺武器、上目遣い。男の子KO率60%以上を誇る無敵技である。
「…………」
「ダメぇ?」
「……いいです」
 あきらめたように深く息をつく橙也。
「ありがと! やっぱり橙也クンは優しいね♪」

「そういえば、何持ってきたんです?」
 帰り道、橙也が思いだしたように尋ねる。ドタバタしていたせいで、そもそもの原因となった者のことをすっかり忘れていたのだ。
「ちょっと待って。えーと……ほら、これ」
 あきが取り出したのは、天使のレリーフの入った両手で抱えるくらいの箱。
「これって……オルゴール?」
「ご名答!」
 あきがふたを開くと、箱の中にはコンパクトディスクのような鉄の盤と機械仕掛けの装置が見える。
「なんか、普通のオルゴールとはずいぶん違いますね」
「これはね、中の円盤を入れ替えて、違う曲をかけられるタイプなんだよ」
 あきの指が少し円盤をずらして、木組みの隙間から取り出せることを見せてくれる。
「なるほど。……でも、あんな危険な真似までして取り出さないでください」
 あの場面を思い出したのか、橙也の口調は少しきつめ。
「うん。でも〜、天使さんが綺麗だったから」
「それでもです」
 念を押す橙也に、あきは降参と両手を挙げる。
「まったく、天使に誘われて怪我したら笑えないですよ」
「そうでもないよ」
 間髪入れずに答えたあきに思わず顔を覗き込む橙也だが、あきは嬉しそうに微笑んだままだ。
(だって、あそこで橙也クンに会えたのだって、きっと天使さんのおかげだから)
「?」
「ねえ、橙也クン」
 急に顔を上げたあきの、その距離の近さに思わず一歩下がってドギマギする橙也。
「これ、今は動かないけど。修理したら一緒に聴いてくれる?」
「ええ、いいですよ」
「それじゃ」
 あきが小指を伸ばした右手を橙也の方に差し出す。
「約束」
「あ。ああ、はい」
 少し照れながら、橙也がその小指に自分の小指を絡めていく。
「♪ゆーびきりげんまん、うっそついたらはりせんぼんのーます……」(終)



【作者より】
 うっわー、実にご無沙汰してしまいました。
 「次は花見」とか言っていたのは何だったのでしょうね。

 というわけで、久々のSSはもちろんあき×橙也です。
 今回は作品は、冒頭のあきちゃんの台詞の通り、『AS』のゆっきぃさんのイラストに触発され、とにかく「あきちゃんに橙也クンの服着せるんだぃ!」という欲望のままに作ってしまいました(笑) なんだかピントがぼけてしまった感じもしますが、楽しんでいただければ幸いです。
 感想などありましたら、掲示板もしくはメールでいただけると嬉しいです。
では。