「A little more...」
作:G☆SCR 【up dete 2001'1'31】

ちょっと、早く来すぎちゃったかな?
でも、少しでも早く、見てもらいたかったから。

あ、来た来た☆
橙也クンって大きいから、遠くからでもよくわかるんだよね。
「センパイ、お待たせ……」
橙也クンったら息きらせながら声なくすなんて器用なことしてるわね。
でも、それでこそこれを着てきた甲斐があるっていうもの☆
「どう、橙也クン?」
「え、ええ……」
お正月らしく着物でおめかし、特上の笑顔つき。
これで何とも思われなかったら、平手打ちして帰っちゃうところだったけど。
「もー、何か言ってくれてもいいじゃない!」
「あ……に、似合ってます、すごく」
「ありがと。ボクなんかにはあわないかなって、心配したんだけど」
「そんなことないです、すごく……綺麗です」
も、もう、なんてこと言うのよ! 恥ずかしくなっちゃうじゃない。
でも……ありがとうね。
「? あきセンパイ、どうかしました?」
「なーんでもないよ、さあ、早くお参りに行こう!」

パンパンと、2回手を合わせてお辞儀。
願い事は……口にしたら叶わなくなるって言うから、もちろん内緒!
もういいかなって横を見たら、橙也クン、まだ熱心にお願いしてたの。
なんだかすごく真剣で……声かけられなかったから、私ももう一度お願いしちゃった。

「ねえ、何をお願いしてたの?」
「何でもいいじゃないですか」
「でも、ずいぶん熱心にお願いしてたよね〜」
「み、見てたんですか?」
「だって、顔あげたらまだ手をあわせてるんだもん」
「あ……すみませんでした」
「あやまらなくっていいよ。で、何お願いしてたの?」
「それは……なんだっていいじゃないですか」
ぷいっと顔を背ける。もー、橙也クンって、時々子供っぽいんだから……
でも、そこがかわいいところなんだけど。
「いいじゃない、教えてよ☆」
「じゃあ、あきセンパイの願い事も教えてくれますか?」
「えっ、え〜っと……」
「そうですよねー、人の願い事きくんだから、自分の方が先に言うのが当然ですよね〜」
なによそのにやにやした顔は?
もー、立場が替わったら強気に出て〜。
「ボ、ボクの願い事はねぇ……」
「願い事は?」
「……内緒♪」
そう言ってくるっと背中を向けて歩き出す。
後ろで橙也クンが文句言ってるけど、聞いてあげない。
だって、言えるわけないじゃない、本人にむかって……

「中吉か……あきセンパイはどうでした?」
「ちょっと待って、今探してるから」
68番68番……ん、あったあった。
引き出しに入っているおみくじの一番上を引いて、橙也クンに見られないようにこっそり開ける。
書いてあったのは……大吉☆
「どうでした?」
「大吉っ☆ いいでしょー」
ふふっ、本気で悔しがってる。
さて、おみくじの中身は……
健康運、無病息災。
金運、万事良好。
恋愛運……
「? どうしたんです?」
「な、なんでもないよっ」
顔を見られないようにして、おみくじを枝に結びはじめる。
「あれ? 普通大吉の場合、枝には結ばないんじゃ?」
「そ、そうだっけ? ボ、ボクの家の方では結ぶんだよ!」
首を傾げる橙也クンを無視して、おみくじを結わえ終える。
もう、これもみんなおみくじが悪いんだからね!
恋愛運、満願成就なんて……恥ずかしくて持っていられないじゃない!

初詣も終わって、2人で公園へ。
神社が混んでいたから、人の少ない静かなところに行こうってことになったんだけど……
ホントに人気がなくて、なんだかちょっと緊張しちゃうな。
「しっかし、本当に人いませんね〜」
「お正月なんて普通こんなものだよ」
橙也クンは、小さい頃から飛び回っていたようなタイプだからあんまり思わなかったかもしれないけど。
「それよりあきセンパイ、疲れてませんか?」
心配そうに足元を見てくれる橙也クン。
優しいんだよね、背も歩幅も全然違うのに、いつもボクにあわせてくれて。
「大丈夫、これくらいで疲れるほどヤワじゃないよ」
「でもほら、履き慣れないもの履いてますから」
そ、それは確かだけど!
そういう心配のされ方って、なんか悔しいなぁ。
「大丈夫だよ、ほらっ」
って、あれ?
「あきセンパイッ!」
調子に乗って片足立ちしようとしたら、ずるっと滑って、バランス崩して。
橙也クンの叫び声が聞こえて……
気づいたらボクは、橙也クンの腕の中に収まっていた。
「まったく、心配させないでくださいよ……」
もうちょっとで、顔から地面に飛び込むところ。
「ありがと、橙也く……?!」
お礼を言おうと思って顔を向けたら、思ったよりすぐ近くに橙也クンの顔。
な、なんだか恥ずかしいよぅ。
「セ、センパイ、立てます?」
「う、うん、なんとか……」
腕に支えられたまま、立ち上がったけど。
橙也クンが放してくれないから、ボクはまだすっぽり抱えられたまま。
「あ、あの、橙也クン?」
返事なしで、じっとボクのこと、真剣に見つめてる。
ずるいなあ……そんな顔されたら、逃げられないよ。
「橙也クン……」
顔を気持ち上に向けて、そっと目をつむる。
「あ、あきセンパイ……」
「もう……」
思わずくすっと笑って、橙也クンの額をちょんと小突く。
「こんな時にまで、センパイはないでしょ」
「あ……す、すいません」
またあやまったりして。まあ、そこが橙也クンらしいんだけど。
そしてボクはまた、そっと目を閉じる。
心臓がどきどきして……
橙也クンの顔が、だんだん近づいてきて……
あと少しで……


ジリリリリリリリッ!!

けたたましいベルの音に、パッと目が覚める。
慌てて目覚ましを止め、そのままの姿勢で固まってしまった。

ゆ、夢?
さっきまでのは、全部夢?
でも、今日は1月2日だから、今のは初夢だから、
今年初めての夢があれってことは……

思い出して、顔が真っ赤になっていくのがよーくわかった。
自分で恥ずかしくなって、また布団に潜り込んだの。
「あと少しだけ、目覚ましが遅かったら……」
お、遅かったら……やっぱり……
あーん、ますます頬が火照ってきちゃうよぅ〜。

結局、落ち着くまで時間かかっちゃって、
待ち合わせにはぎりぎりの時間。
もうみんな、待ってるだろうなあ〜。

あ、やっぱり。
うう、みんなでお参りしようって言い出したのはボクなのに、最後なんて情けない。
神社の鳥居の下で待っててくれたのは、九郎クンと、冴、それに……
「? あきセンパイ、どうかしたんですか?」
あーん、また顔が熱くなってきちゃうよ。
冴や九郎クンも心配そうにしてる。ほら、落ち着いて落ち着いて……
「顔、赤いですよ。熱でもあるんじゃ……」
そう言って、橙也クンは腰をかがめて、ボクの顔を覗き込んできた。
そう、橙也クンの顔が近くにあって……
「き……」
「?」
「きゃああああああっっっ!!」
思わず大声を出して、そのまま逃げ出しちゃった。
なんだか、思いっきりひっぱたいちゃったような感触が手のひらにあるんだけど……き、気のせいよね!
え〜ん、なんでこうなっちゃうのよ!
あんな初夢見せるから……で、でも、いい初夢だったと思うし……
もう、神様の意地悪!



【作者より】
 どうも、G☆SCRです。
 定番の夢オチ(笑) 今回はあきちゃんの一人称で書いてみたのですが、前よりはうまくいったかな、と自分で思っています。というか、こんなの三人称で書いてると恥ずかしいですし(笑)
 感想などありましたら掲示板やメールでよろしくお願いします〜。では。