【霧瀬ちゃん2X歳誕生日おめでとうSS】
「藤代霧瀬の平凡な一日」
作:G☆SCR 【up dete 2000'03'03】


 藤代霧瀬。
 正義の味方部の顧問、女性、にじゅう……むにゃむにゃ。
 常に白衣を着込んだ見目麗しい知性派の女性。だがその本質は部員であるはやな達が苦笑するほど軽い人。まあ、ヒーローものに出てくる科学者なんて明るく軽いかフランケンシュタイン博士並に自分の世界にいっちゃっているかだから、後者でないのは男性諸氏にとって幸せというものだ。
 あのとっても可愛いティンクルセイバー達のスーツも、もちろんこの人の製作である。……はい、そこの人、「あの3人の3サイズとか知ってるんだろうなあ、うらやましいなあ」などと想像しないように。隣の人も、「あんな素材のスーツ、一介の教師の給料で造れるの?」と疑わないで。何でもあり、それが霧瀬ちゃんなのですから。
 もちろんその才能がスーツにとどまるわけがない。己の趣味を極めんと、日々新装備の開発にいそしむ日々。。そのペースたるや、締め切り前日の同人作家をすら凌ぐのだ!
 そんな趣味の産物も、多くはアイディア段階で、出力や美しさの観点から没になってしまう。しかし、もしもそれがわずかでも実現できるレベルに達していたなら……

「というわけで、新装備の試作実験を行うのよ」
 ここは正義の味方部仮部室こと保健室。部員であるはやな、さつき、稜、それにはやなの保護者である葵ちゃんを前に、霧瀬ちゃんはそう高らかに宣言する。……なに? 何で霧瀬ちゃんだけ「ちゃん」づけなのかって? だってつけないと怒るんだもん。
「なにが『というわけで』ですか」
「稜ちゃん、細かいことは気にしないで、ノリよノリ☆」
 相変わらずするどい稜のツッコミもさらりとかわす。ほかの3人は、三者三様の表情で「あはははは〜」と乾いた笑いを浮かべている。これが慣れというものか、実に諦めがいい。
「まあ安心して、今日のはちょっと自信作よ☆」
「前回は『ホバー移動式シューズ』とか言って止まれない代物でした」
 ごきげんの霧瀬ちゃんに、またもや稜の厳しいツッコミ。さらに、
「この前は戦闘用歯みがきセット〜」
「その前は、確か自動追尾型掃除機だったような・・・」
「先生、真面目に作ってる?」
 無邪気な部員達の一言がぐさりと刺さる。気がつくと、霧瀬ちゃんは保健室使用時の記入ノートに「の」の字を書きまくっていじけてます。
「ふんだふんだ、どーせ私の発明品なんてわけのわからない非実用品ばかりですよぅ・・」
ここで稜が「その通りです」なんていってしまった日には、霧瀬ちゃんは向こう一週間授業をボイコットする。絶対する。……そこで「教師がボイコットなんておかしい」と思ったあなた、甘い、霧瀬ちゃんはやる人です……そう思った葵と、本当に悪いことをしてしまったと思ったさつきは、急いで霧瀬ちゃんに機嫌を直してもらう。
「せ、先生、私でよかったら実験、協力しますから・・」
「も、もちろん協力しますよ、ね、はやな?」
「ん?・・(もぐもぐ・・)うんっ!」
 葵の言葉に、おやつのマロンショコラを食べ終えたはやなは元気にうなづく。それを待ってましたとばかり、霧瀬ちゃんがパッと立ち直る。
「よぅし、そうと決まれば早速実験開始!」
 これもお約束というやつなのだろう。「しょうがないなー」という顔をするはやな達の向こうで、こちらは表情を変えないまま稜がポツリとつぶやく。
「結局こうなるですね」

 モデルその1、はやな。
「……センセ?」
 霧瀬ちゃんに詰め寄る葵の眉間には青筋1つ。その背中の向こうにはスーツに着替えたはやなの姿。左手にドリル装備して。
「うーん、やっぱりドリルはロマンよね☆」
「ロマンじゃなぁい! 何、あのごっついのは?」
 左手のドリルは、肘から下をすっぽりと覆うタイプ。装着部は白、ドリル本体はスーツと同じ銀色。……まあ、ぶっちゃけた話、ゲッ○ー2のそれである。
「ああ、はやなちゃん、左手の人差し指の先にボタンあるでしょ? それを押すと回転するわよ」
「説明しなくていいです。はやなもまわさない!」
「えー、結構楽しいよ〜☆」
 ギュイィィンと音をたてて回転するドリルを楽しむはやな。満足そうにウンウンと頷く霧瀬ちゃん。何とも心温まる光景だ。
「だいたい、こんなの使ったら相手が怪我しちゃうじゃないですか!」
 葵の当然すぎる指摘に、ウッと言葉を詰まらせる霧瀬ちゃん。
「……また、考えなしに好みだけで作りましたね?」
「だってー、正義の味方っていえばやっぱりドリルかな〜とか思って〜」
 エヘヘ、と照れ隠しに笑ってみせる霧瀬ちゃん。かたや葵は眩暈でも覚えたのか、こめかみを押さえて頭を押さえる。はやなはその間も「ギュイィィン」とうなり声をあげるドリルで無邪気に遊んでいた。……ちなみに、さつきは呆然と、稜は相変わらず淡々と状況を眺めてるだけ。
「とにかく、こんなのは没です!」
 もう待っていられないという感じで、はやなからドリルを奪い取る葵。「「えー」」という二人のハモリ声も完全に無視し、さっさと不燃物のごみ箱に放りこむ。
「もー、葵ちゃんたら科学の発展に非協力的なんだから・・」
 もう少しドリル持ったはやなで遊びたかったのだろう、霧瀬ちゃんはちょっと残念そう。だが、
「こんな発展はやなにはいらないです!」
 はやなの事になると本気で怒る葵の様子に、本能的に危険を感じたらしい。霧瀬ちゃんは気持ちを切り替え、奥からまた何か出そうとしている。
「さて、次は……」
「でっかいハンマーだと思うです」
 ギクッ。
 稜の何気ない一言に、そのまま硬直する霧瀬ちゃん。
「あたったです」
「い、いやねー稜ちゃん、そんなはずないでしょ〜」
 霧瀬ちゃん、ジト汗浮かべて何かを必死に隠しながらでは説得力無いです。

 モデルその2、さつき。
「さあ、次の実験に移るわよ!」
「ハンマー」
 稜のツッコミにももうめげることなく、というか耳を日曜日にし、何とか話を進めようとする霧瀬ちゃん。端から見るといとあわれ。
「先生ー、今度はどんなのですか?」
 葵持参のミルフィーユを食べ終え、ニコニコしながら尋ねるはやな。ちなみにさっきのは3時のおやつで、これは3時15分のおやつだそうだ。
「ふふふ、今度のは自信作よ」
 じゃあさっきのドリルは何なんですか、と突っ込みたくなるのをこらえ、つとめて冷静に意見を述べる葵。霧瀬ちゃんよりよっぽど大人である。
「さっちゃんにも余計な武器とか持たせる気じゃないでしょうね」
「おんなじ事はしないのが霧瀬ちゃんよ☆ さっちゃんには新しいスーツを考えてみたの」
「えー、いーなー」と素直にうらやましがるはやなをよそに、葵の心配の種は大きくなるばかり。
(スーツって……まさか怪獣の着ぐるみで火を噴くとか……い、いくらなんでもそこまでは……いや、この人ならやりかねない、やると決めたらできるに違いないわ……)
 一人思考の深海に沈んでいってしまう。いくら霧瀬ちゃんでも…………や、やらないと思うぞ。
「あ、あの……」
 更衣室……という名のカーテンの向こうから、さつきの声。いつもながらの内気で恥ずかしげな声だが、今日は恥ずかしさ当社比168%増しという雰囲気である。
「どうしたの?」
「ほ……本当にこれでいいんですか?」
 この言葉だけで、
「どうせまたろくでもないアイディアです」
という稜の言葉が半ば以上当たっていたことを感じ取る葵。もちろん霧瀬ちゃんはそんな葵の様子など気付くこともなく、
「もちろんよ☆ そう見えても防御力は以前のと変わらないの♪」
とのたまう。
「先生……何したんですか?」
 さすがのはやなでさえ心配する声をよそに、
「さあさあ、さっちゃん、早く出てきて〜」
 せかす霧瀬ちゃんの声に押されたのか、カーテンがめくれ、おずおずと出てくるさつき。

(間)

「うーん、やっぱりよく似合ってるわ☆」
 そりゃもう、文句のつけようのないくらい似合っている。青を基調にした色調。やや短めのスカートからはすらっと伸びた足が見えている。前面ははエプロン風にフリルのついた白。首もとのリボンがワンポイント☆ 全体的にメイド風に仕上がったその服は、恥ずかしがるさつきのしぐさもあいまってそりゃもうむっちゃくちゃ可愛い。……と、いうか。
「先生……?」
 あっけにとられていた葵が、絞り出すような声で聞かずもがなの質問をする。
「これって……確か……」
「そう、某ファミレスの制服をスーツにデザインしてみたの☆」
「さっちゃん、可愛いー♪」
 はやなは疑問を持つこともなく、歓声を上げて目をきらきらさせている。
「そ、そうですか? なんだか、私では似合わない気がして……」
 顔を俯けて恥ずかしがるさつき。そういう表情がまた可愛い☆
「そんなことないよ☆ ねえ、稜ちゃん」
「似合ってるです」
 2人の誉め言葉に、さつきの顔はもう真っ赤。葵もはやなの意見に賛同しながら、「でも、」と、満足げな霧瀬ちゃんに尋ねてみる。
「確かにすごく似合ってますけど……なんでこのスーツに替えたんですか?」
「んー☆ この前お昼食べに行ったら、ウェイトレスの女の子がとにかく可愛かったから☆」
 あまりにおとぼけな……いや、霧瀬ちゃん自身は大真面目なのだろうが……その答えに、葵もただ笑うよりほかになし。
「あ、あはは、あはははは・・」

もちろん、このスーツも却下。版権に引っかかる、一部の読者が鼻血を出してしまうなどの理由もあるが、なにより
「こんなスカート丈で戦ったり飛び回ったりできるはずないでしょ!!」
だからである。……残念。

 モデルその3、稜。
「今度はちゃんとしたものですよね!」
 葵ちゃんはちょっとキレ気味の口調。まあ、この展開でまだのほほんとしているはやなとさつきが人ができすぎていると言うべきか。
「当然よ。この霧瀬ちゃんに抜かりはないわ!」
 どこからこの自信が生まれるのかはわからないが、ともかくこの人を止められる人はいない。
「稜ちゃんは、プリンの着ぐるみだったりしません?」
とこれは、食欲に目を輝かせながら言うはやな。……プリンだったら絶対スプーン持って追いかけるつもりだろう。さつきはといえば、すでにその光景を思い浮かべたのだろう、どうしようとおろおろしはじめている。
「ま、まさか……いくらなんでも……」
 恐る恐る、葵ちゃんが霧瀬ちゃんの顔をのぞきこむと、
「うーん、それも面白いかも☆」
と、霧瀬ちゃんもまんざらでもない様子。
(こ、このままじゃ、稜ちゃんがはやなに食べられちゃう!)
 ……葵ちゃん、相当疲れてきてるね……
「でもね、今回は違うのよ。ちゃんと対世界征服部用の強化パーツなの」
 その言葉に「え〜っ」と残念がるはやなと、ホッとする2人。……強化パーツという単語で不安に陥るべきなのだが、どうやらプリンで頭がいっぱいだったらしい。
「・・つけたです」
 いつもの稜の声。そして開かれたカーテンの向こうには。

 無論、ソルセイバーのスーツ着用。いつもと違うところは、黒髪に映える赤のカチューシャ。その真中には、角。
 ……えー、ここまで読んできた懸命なる読者の皆様はもうお気づきのことかと思いますが、一応解説しますと、角といっても鬼とか怪獣のではなく、金属製のアンテナのような形状です。
「これで稜ちゃんの機動力は3倍よ!」
 あまりの出来事に……ではなく、何のことだかわからず反応できない3人に力説する霧瀬ちゃん。そんな光景を眺めながら、稜ちゃんは一人つぶやいていた。
「……いいかも、です」

 却下になったのは言うまでもないですよね?

「今日はなんだか疲れたね〜」
 帰り道。今日も予想通り何の成果も上がらず、家路につく正義の味方部の4人。
「疲れたというか……はぁ……」
 その中でも葵は特に疲れた顔。まあ、はやなの心配もいっしょにしているのだから当然かもしれない。
「で、でも、先生も私達のことを考えて、いろいろと作ってくださってるのですから・・」
「霧瀬ちゃんだから仕方ないです」
 なんのかんのと言いつつも、楽しそうな4人。
「でも、いくら何でも、明日はありませんよね、実験?」

そのころ。
「ふふふ、今度はこの高出力レーザーパチンコを試そうかしら☆」
甘いですよ、さっちゃん。(終)



【作者より】
 霧瀬ちゃん誕生日おめでとう(はぁと)
 霧瀬ちゃん&そのファンの皆様へ、SSのプレゼントです。
読者「あんまり霧瀬ちゃんが活躍していないような気が……」
私 「目の錯覚です」

 しかし、どこでこんなに長くなったのでしょう(笑) 当初は、すごく軽い話にするつもりだったのですが……やはりあれか、さっちゃんにピ○キャロ中杉通り店の制服を着せようとしたあたりからか(笑) このSS、それぞれの発明品を装備した3人の姿を想像しながら読んでいただければ、内容に関わらず楽しんでいただけるかと思います(笑)
 よかったらご意見ご感想お聞かせくださいー。
 では、また。