「やっほ〜、元気?」
 保健室に入ってきたのは、紅蓮姫、不和久遠。
「不和センパイ、どうしたんですか?」
「日曜日にも部活に精を出す可愛い後輩達に、差し入れでもと思ってね、ほら」
 そう言う久遠の右手には、ドーナツの詰め合わせ。久遠は正義の味方部のOBではないのだが、まあ、そんなことを気にする人はいないだろう。
「わ〜い、ありがとです☆」
 無邪気に喜ぶはやな。後ろではさつきと葵、そして輝沙紅茶の準備を始めている。……ティーパックどころか、ハーブティーを含め何種類もの紅茶葉とロイヤルコペンハーゲンのティーセットが完備されている保健室というのは問題があるようなないような。
「でも、朝から部活なんて珍しいね」
「ほら〜、メンバーも増えたことだし、たまには気合いを入れて練習してみようかな〜なんて」
 顧問らしくちょっと偉そうに語る霧瀬だが、
「なんだ、私はてっきり、当直で暇だからみんな呼び出したのかと」
 真実をつかれ、ばつ悪そうに舌を出す。そんな霧瀬の様子に苦笑しつつ、水刃が輝沙から受け取った紅茶を口に運ぶ。その横では葵にたしなめられながら、はやなが3つ目のドーナツを頬張っている。
「まあ、いいじゃないですか、たまにはこんな日も」
 そう言って久遠にティーカップを渡すさつき。アップルティー系の香りが保健室に広がっていく。

 正義の味方部の、何気ない日曜。そう、このままならそうなるはずだった。

「でも、なんで久遠ちゃんはここにいるです?」
 何か考え込んでいたのか、今まで一言も話さなかった稜が、まだ悩んだ表情のまま言葉を向ける。
「そうよ〜、せっかくの日曜日、彼氏をほっぽってこんなところにいていいのかしら?」
 先ほどのお返しとばかり霧瀬が茶化すと、久遠は顔を真っ赤にしてしどろもどろ。
「な、だから、ほら、日曜日だからっていつも一緒ってわけじゃ……」
「あはは、照れてる照れてる☆」
 久遠をおもちゃに遊んでいる霧瀬に苦笑しながらも、それぞれが興味のまなざしを向けてしまうあたりは年頃の女の子達なのだろう。
「も、もう! 今日は向こうに用事があるの! 大学生だって暇じゃないんだから」
「でも、」
 黙々とドーナツを食べ終え、稜が言葉を続ける。
「今日は律兄、デートって言ってたです」


TSショートストーリー
「律兄、浮気?」
作:G☆SCR 【up dete 2000'12'03】


「ここね……」
 4500円のフリーパスチケット(学生)を握りしめ、久遠は一人呟く。あの後、凍り付いた場をよそに稜から律の行き先を聞き出し、とるものもとりあえずこの遊園地へと直行したのである。
 ……あ、訂正。とるものはとってました。愛刀2本。……どうやって持ち込んだのかは気になるところだが、とにかくやる気はしっかりと伝わってくる。
ちなみに服装は紅蓮姫定番のおへそ出しスーツ。抜群のスタイルとフェイスが男どもの目を引きつけないはずもなく、事実、すでに数人の男が声をかけようとして、その全身から発する闘気にびびり、体を震わせて明後日の方向へ走り去っていくという何ともほほえましい光景が繰り広げられている。
「ふふふ……律〜、必ず見つけてあげるからね……」
 この中のどこかにいるであろう恋人へ向け宣戦布告し、アトラクションへと駆けていく久遠。遊園地のためにはできるだけ早く見つかってほしいところであるが……

〜ジェットコースター〜

「いないか……」
 周囲をキョロキョロと見回し、コースターが上を通るたびに鷹のような眼差しでそれを追う。……ひょっとして乗っている人の顔、全部見分けているのだろうか。
「必ず最初にこれに乗るからな……もう乗ったあとかな?」

〜フリーフォール〜

「ここでもないか……」
 悔しそうに唇を噛む。先ほど乗り込んだときに上からも見回していたようだが、そう簡単に見つかるものではないらしい。……ていうか、フリーフォール乗って捜し物するのは、この人とTVチャンピオンの遊園地王くらいなものだろう。
〜スプラッシュマウンテン〜

「ここもはずれ……もう乗ったあとかな?」

 いや、この季節に好きこのんでこれに乗る人もそういないと思うのですけど……

〜ゲームセンター〜

「ここでもないか……いつもなら3つ乗ったあと、一休みとかいってここに来るのに……」

 言うまでもなく、これは「律と久遠のラブラブデート順路」、さらに言えば「久遠ちゃんの好きな順番」なのである。まあ、ここに来るたびだいたいこの順番なのだし、律も好きなのだろうから間違ってはいないのだろうけど。
 久遠の表情には焦りの色。ぎゅっと握りしめる拳に力が入る。
(このまま追いかけていっても捕まえられない……なら!)
「逆から行こう!」
 その声に周りの人が驚いたことも気にかけず、久遠は2人のデートの最終目的地に向かって走り出した。

「どこかにいるかな……」
 観覧車に乗り込み、目を皿にして園内を見渡す。いずれはここに律も来る(と思っている)以上、こうして探しながら待っていればよい。……最後は観覧車なんて、やっぱり女の子ですね。
(っ!!)
 見つけた。絶対に見間違うはずのない顔。
「よし……」
 あと一瞬間があったなら、久遠は観覧車から飛び出していただろう。その彼女の視線の先で律は膝を曲げ、両手に持ったダブルのアイスの片方をちょうど久遠の死角、ベンチがあるはずの場所へと差し出した。そして、それを受け取る手。
「あ……」
 動きの凍った久遠に気づくはずもなく、ベンチに腰掛けたのだろう、律の姿も彼女からは見えなくなった。
 観覧車はゆっくりと、頂点から下がり始めている。

(律が……浮気するはずがない)
 ベンチにはもう律の姿はなかった。探そうともせず、ベンチに座りうつむく姿は久遠らしくなかった。
「じゃあ、さっきのは……」
 普通なら見間違えとか、うり二つの別人だとかいう考えに逃げるところだが、久遠の発想はそれらを遙かに飛び越えていた。
(浮気じゃないんだ……本気なんだ!)
 そう考えて前向きになれてしまうのが、さすが久遠ちゃんというかなんというか。そもそも、「律は浮気しない」のに「自分以外に本気の相手がいる」のが矛盾していることに……気づいてくれないだろうなあ。
「ふっふっふっ……それなら……」
 さっきまでの沈んだ様子はどこへやら、その表情は生気に満ちあふれている。
「……念のため聞いておきたいのだが、『それなら』どうするんだ?」
「当然! 律を賭けて全力で闘うだけ!」
「相手が怪我するからやめた方がいいし、何より俺は賞品じゃない」
「もちろん、闘うといっても戦闘じゃなく……って、律?!」
 すっかり自分の世界に入っていた久遠の横に、いつの間にか律が立っていた。
「って、ど、どうしてここに?」
「恋人の姿が見えたから来た」
 当たり前のような律の言葉に、久遠は顔を真っ赤にしてうろたえる。
「な、何言ってるのよ!」
「本当のことだ」
「だ、だって、律は今日はここにデートに……」
 久遠の言葉を遮ったのは、無垢なる少女の声。
「おにいちゃん、どうしたの?」

「本当にお世話になりました」
 律に頭を下げる女性の横で、少女……かおるは、にこにこと笑顔を浮かべている。
 律の話では、今目の前にいる女性は九行の家の方に舞を習いに来ている方で、かおるちゃんはその子供。今日はお母さんと遊園地に行く約束をしていたのだけれど、お母さんに急に仕事が入って行けなくなってしまい、泣き出してしまったかおるちゃんに「お兄ちゃんとじゃ、駄目かい?」と声をかけた、ということだ。
「かおるちゃん、気をつけて帰るんだよ」
 「うん!」と元気よく返事し、お母さんに手を引かれて帰るかおる。しかし、何かを思いだしたのか。律のところにとって返し、
「おにいちゃん、おにいちゃん」
 と、律を手招きする。
「どうしたの?」
 彼女の目線に合わせ、しゃがみこんだ律。その近づいた頬に

  チュ。

 そして、「おにいちゃん、ありがとね!」と言って、再びお母さんのところへ駆けていく。
 何度もこちらに手を振りながら帰る親子の姿が見えなくなったあと、
「さすが九行律さん、もてますね〜☆」
 そういって久遠が肘でつつく。しかし律は全くうろたえることなく、
「久遠ちゃん」
 自分の恋人へと向き直る。
「な、なに?」
「……やきもち?」
 律の言葉に、顔を真っ赤に染め上げる久遠。
「な、何言ってるのよ! そんなは……」

  チュ。

「おあいこ」
 律の言葉が聞こえているのか、久遠は言葉を遮ったものの感触を確かめるように唇に指を当て、着ているスーツ以上に顔を赤くしている。
「な、な……」

  ガササァ!

 2人だけの世界は、突然の物音にかき消された。
 入り口の近く、ベンチの脇の茂みから折り重なって出てきたのは、はやな、葵、稜、霧瀬の面々。その後ろには、ばつが悪そうに口に手を当てているさつき、輝沙、水刃の3人もいる。
「みんな来てたのか」
「あ、あははは……」
「見ていてこっちが恥ずかしいです」
「んー、いいわねー、恋人同士って☆」
 笑ってごまかそうとする霧瀬だが、それですむはずもなく。
「……み〜ん〜な〜?」
 久遠の声は、明らかに「やる気」だ。
「ど、どうやら私達、おじゃまみたいですし……」
「そ、そろそろ帰りましょうか?」
 立ち上がり、おそるおそるその場を立ち去ろうとする正義の味方部の面々。
「みんな〜、せっかく来たんだからゆっくりしていきなさい? 歓迎するわよ」
 そんな優しげな言葉と裏腹に、両手に愛用の木刀持って近づいてくる久遠は紅蓮姫モード全開である。「みんな、逃げるわよっ!」
「待てぇ〜〜!!」
 霧瀬のかけ声と同時に駆けだした全員を、全力で追いかけていく久遠。
「やれやれ……」
 一人残された律は、ゆっくりとベンチに腰掛けた。
 恋人が戻ってくるのを待つために。



【作者より】
 律さん、10日遅れですが誕生日おめでとうございます。

 TS界一のラブラブカップルの話を書いてみようと思ったのですが……「とりあえずデートといったら遊園地だよね!」という程度の発想ではやはりこの2人のラブラブは書ききれなかったような(^^;)
でも、とりあえず幸せそうな2人が書けたので満足です☆

 律兄とデートした女の子は、Piaキャロ2のあの子です(笑) 当然、お母さんはあの人です。いやあ、オリジナルで考えるより楽だったし、イメージ湧きやすかったので。SSにはこういうお遊びもありかなあと。

 さあ、次はクリスマスです。当然、私イチ押しのあのカップルの話の予定です。がんばります。