「他愛ない日々」 act.1
作:G☆SCR【up dete 2001'08'23】



 夕立は、風情あるものだ。

 暑い夏の夕暮れに、乾きを癒す天の恵み。
 一時の涼感と、一日の残りを働く気力を与えてくれる。

 もう一度言う。
 夕立は、風情あるものだ。

 だがそれも、降られなければの話。
 武居和麻は一人、シャッターの降りた店の前で雨を避けていた。髪や服が濡れることは厭わない男なのだが、ネックは竹刀で担いだ防具袋。剣士の命とも言うべき武具を雨にさらすのは得策ではない。
 雷光が走り、少し遅れて響く音。その間隔から通り雨だと判断したのだろう、あきらめて荷物を濡れない場所におろす。

 雨粒が地面にはじける音が、あたりにこだまする。
 それに混じって、似ているが異質な音。バシャバシャと、水溜まりを駆けてくる足音。
 その近づいてくる音の主を見ようとそちらに顔を向け、和麻は驚いたようにその姿を見つめる。その少女は、買い物の途中で降られたのだろうか、抱えている荷物を濡らさないように少し前屈みの姿勢で、和麻と同じ店の先へ駆け込んできた。
 荷物を確認し、安心したように一つ大きく息をついて、そこで側にいる和麻の存在に気づき、そちらに顔を向けて……やはりビックリしたような表情を見せる。
「ほぇ? 紅刃さん?」
 雨に濡れた、少し赤みがかった栗色の髪をかきあげる少女の名は、鈴鳴はやな。

 少し落ち着いたのか、荷物を抱えたままはやなが笑みを向ける。
「紅刃さんも、雨宿りですか?」
 それ以外に考えようもないのだが、聞かれた方はまだ驚きが残っていたらしい。
「あ、ああ……まあ」
 無理もないかもしれない。目の前にいる少女は、可愛いというだけの女の子ではない。
 正義の味方部ティンクルセイバー。「銀」と「姫」の名を継ぐ者。そして、自分が二度も敗れた相手。和麻という男の性格上、気にしないわけにはいかない。
「そうだ、紅刃さん?」
 そんな心の揺らぎには全く気づかず、はやなが屈託のない声をかける。
「何か?」
「甘いもの、好きですか?」
 あまりにも唐突なはやなの質問に、和麻は頭をひねりながらも生真面目に答える。
「ええ、嫌いではありませんが」
「じゃあ、これ」
 抱えていた紙袋から何かを取り出し、和麻に差し出す。
「あん、まん?」
「この季節、なかなか売ってないんですよ。それにすぐに売り切れちゃいますし」
 そういって、自分もあんまんを手に取り、口に頬張る。
「? あったかくて、おいしいですよ?」
 言葉と表情で訴えるはやなの仕草に誘われるように、和麻もあんまんを口にする。
「……おいしいですね」
 その言葉に、自分のことのように喜ぶはやな。その笑顔に張りつめていた気がゆるみ、そこで和麻はやっと気づいて、湿ったはやなの髪にタオルをのせる。
「あ……」
「使ってないから、大丈夫ですよ」
 和麻の心配りに頭を下げ、タオルを使おうとする。……が、左手に紙袋、右手にあんまん。
 食べるのを一度止めればすむことだが、あんまんのために温かいうちに食べてあげたいはやなにはできない相談。両肩でタオルの裾を挟み、頭を動かして必死に拭こうとするが、むろん効果があろうはずがなく、見ていて微笑ましいだけである。
 そんな様子をクスリと笑い、和麻は両手でタオルを押さえる。
「あまり動かないでくださいね」
 そう言って拭きだした和麻に、はやなは三個目のあんまんを食べ終えて礼を言った。
「ありがとぅ、ございます☆」

「これは、洗ってお返ししますね」
 雨もあがり、紙袋に替わってタオルを抱えて帰り道を急ぐはやな。その姿を見送り、振り向こうとしたその視界の隅で、何かに気づいたように立ち止まり、慌てて引き返してくるはやなの姿をとらえる。
「どうかしましたか?」
「あ、あのですね〜」
 少し恥ずかしそうに、心なしか小声で言葉を続ける。
「あの……お名前、まだ聞いていなくて」
ぽかんとした表情を見せ、自分の間抜けさに苦笑する。
「和麻……武居和麻です」
「和麻さん、ですね。それでは、また♪」
 再び駆けていくその姿が見えなくなってから、和麻もそこを後にする。
 少しばかり軽くなった気持ちで。



【あとがき】
 梅雨も七夕も橙也君の誕生日も飛び越えて!(特に三番目がやばい)
 ようやっとお見せできる新作はなんと新しいシリーズものです(^^;
 しかも和麻くんメインですよそこのお兄さん(笑)

 最近、長めの文章書くとどうもいまいちな出来に終わってしまうので、ちょっと趣向を変えて短めのをちょこちょこと書いてみることにしました。これくらいだと1〜2日くらいでまとまるので、隔週くらいでアップできるように行けたらなあと思っています。……なんで毎週じゃないかって? それじゃ「小さな恋の物語」シリーズとか他のSSとか書けないじゃないですか(笑)

ご意見ご感想ありましたら、こちらの掲示板の方で聞かせてくれると嬉しいです。
みなさんの声がやっぱりSS書く一番の気力です(笑)