「他愛ない日々」 act.2
作:G☆SCR【up dete 2001'08'23】



 trrrrr...
「はい、不破ですけど」
「あ、久遠センパイですか?」
「はやな? 珍しいね、電話なんて。どうしたの?」
「えと、ですね……」

 1限目終了後の休み時間というのは、使い勝手のいいものではない。
 パンや弁当を買いに行くにはまだ早く、遊ぶにはちと短い。
 できることといえば、近くの友人と昨日のドラマについてしゃべっているか、席で適当に時間を潰すかぐらいなもの。
 武居和馬は後者で、窓際の席で剣豪小説なぞ読んでいたのであるが。
「あの、武居、くん?」
 ちょっとおっかなびっくりといった風で声をかけてきたクラスメイトの女の子に、読書を中断して顔を向ける。途端に視線を外し、少し俯いてしまう女の子。
 またか、と心の中でつぶやく和麻。
 学園の用心棒として知られているからか、普段でも怖さを感じてしまうのだろう、自分に声をかけてくる女子は(特定の日を除いて)希だし、かけてもあまり目を合わせようとはしない。
 ある意味当然だなと、割り切っている和麻ではある。
 実際のところは、クラスの女子全員が少なからず彼に好意を抱いており、それぞれが牽制しあっているのと、恥ずかしいので視線をあわせづらいだけなのであるが、まあ堅物の和麻に気づけという方が酷だろう。
「あの、お客さんが来てるよ?」
「客?」
「うん、2年生の子で、ほら、正義の味方部の……」
 ありがとうとその女の子に礼を言い、席を立つ。後ろでその子が頬を染めたり、その友人達が冷やかしとやっかみの言葉をかけているのにはまったく気づかず、廊下に出ると、そこに待っていたのは予想通りの女の子。
「あ、和麻さん!」
 鈴鳴はやなは、いつもの元気な笑顔で和麻を出迎える。
「はやなさん、よく私のクラスがわかりましたね」
「はい、昨日久遠センパイに聞いたんですけど」
 首をちょっと傾け、「ひょっとして来ちゃって迷惑だったかな」顔を見せるはやな。
 安心させるように、自分では優しいと思っている表情で、言葉を続ける。
「それで、なんの用でしょう?」
「あ、はい、これ、ありがとうでした☆」
 そういって差し出されたのは、自分が昨日貸したタオル。
「これのため、ですか?」
「は、はい……ま、まずかったでしょうか?」
「いや、そんなに急ぎでなくてもよかったのに、というだけです」
 そう言ってタオルを受け取る和麻。
「あれ?」
 手に感じる不自然な重さ。なんだろうと畳まれたタオルを開いてみると、中にはリボンのついた紙袋。
「あ、それはお礼のクッキーです。 今朝焼いたんですよ☆」
「いや、お礼をもらうようなことでは……」
「私が、お礼したいんです♪」
 そう言われて受け取らないのは礼に欠けるというもの。
「わかりました。ありがとうございます」
「こちらこそです。それじゃ、和麻さん」
 ペコリと一礼して、跳ねるように廊下を駈けていく。風紀委員が見ていたら指導ものだが、何故か許せてしまう雰囲気が、彼女にはある。
(だからこそ、「銀」と「姫」とを渡したのでしょうね、あの2人は)
 その姿を見送って席に戻る。鞄にタオルと袋をしまおうとして、ふと思いついたように、タオルに包まれたまま、袋のリボンをほどく。
 お店で売っているものと比べると一回り小振りなクッキーを、口に放り込む。
(甘い……)
 それは、砂糖をたっぷりと使った、かなり甘めのバタークッキー。
(これは……次の休み時間には、歯を磨かないといけないですね)
 そんなことを思いながら、袋を丁寧にしまい直す和麻だった。

 その頃、彼のクラスメイト達は。
「ねえ、さっきの娘、いったい何なの?」
「ちょっと可愛い子だったよね……まさか……」
「なんで我らがはやなちゃんが武居に会いに来たりしたんだ!?」
「しかも何かプレゼントしていたぞ……まさか!!」
 まあ、極星が2人。
 しかも一方は学園の用心棒としても知られ、女子生徒による人気投票ではトップ10入り確実な「紅刃」。
 もう一方はファンクラブも存在する正義の味方部「ティンクルセイバー」。
 この2人が、しかもはやなの方から訪ねてきてプレゼントを渡した(とまわりには見えた)となれば、話題にならない方がおかしくない。
 不安と疑問と嫉妬の視線に、見事なくらい気づかない和麻。
 ある意味達人である。

 一方、同じ頃。
「はやな、一体どこいってたの?」
「ん〜、内緒☆」
「またケーキでも買いに行ってたんでしょ〜」
 しょうがないなあ、という表情の葵。
「はい、1時間目のお弁当。ちゃんとかんで食べなさいよ」
 そう言って出されたおにぎりと、おかず入りのタッパを前に、う〜んと真剣に悩み、後ろ髪引かれる思いで、おにぎりだけを手にとる。
「いまはこれだけでいいかな? もう時間ないし〜」
「え?」
 もぐっちょもぐっちょとおにぎりを味わっているはやなを、葵は未確認物体でも発見したかのような目で眺めている。
「毎休み時間にお弁当を瞬速で食べるはやなが……今日は午後から台風かしら」
「うにゅ? 葵ちゃん、何か言った?」
「言ってないよ〜。ほら、ご飯粒ついてる」
 葵ちゃんにほっぺたのご飯粒をとってもらいながら、はやなは心の中でゴメンと手を合わせた。
(だってぇ〜、クッキーを作ってたら、つまみ食いでちょっとお腹いっぱいなんて、恥ずかしくて言えないよね)



【あとがき】
 ……えー、書きたいことはだいたいact.1のあとがきで書いちゃったような(笑)

 次はこれのact.3か、意地で書ければあきちゃんの誕生日に記念SSです。その前に別なSSを書けという話もありますが(笑)