●「両岸の猿声」
「両岸の猿声、啼いてやまざるに…」
李白の詩に、そんなフレーズがあったのをふと思い出した。
スカウ川(ボルネオ)を舟で航行中に出会った猿の群れから、記憶の中にあったそんな言葉が突然引き出されたのだと思うが、両岸のジャングルは、三国志時代の蜀の国をイメージしても不思議ではない、そんな雰囲気を持っていた。
ボルネオに行ったのは数年前のことであり、すでに記憶も薄れつつあるが、それでも写真に撮ったサンダカンを流れる早朝の川面の風景や、ムルの洞窟で見た神秘的な世界、小型機の窓から見たコタキナバル山のシルエットなどは、今も鮮明に覚えている。
ボルネオと言えば、熱帯雨林。誰もがそのように連想するが、上空から見ると、木が凄い勢いで伐採され、海辺にはヨットハーバーがある高級リゾート施設が増えてきているのである。
木材を切り出した空き地は、油椰子のプランテーションに変わり、そこで作られた洗剤が「地球に優しい」というキャッチフレーズの「エコロジー製品」として人気を集め、そのお金でまた高級リゾート施設が増える。
このサイクルになぜか違和感を感じる。
ワイドショーで言うような「正論」では解決しないと思うが、せめて自分と周辺の人たちだけでも「本当に大切なものは何か」ということを機会あるごとに話しながら意識改革をしていかなければならない─ということを痛切に感じた旅だった。
今、自然界では環境破壊による、オスのメス化現象が目立っており、人間の精子の数も減少しているらしい。
地震、豪雨、豪雪、私たちを取り巻く環境のメカニズムは、映画「デイ・アフター・トゥモロー」ほどではないが、狂いが生じていることは確かで、意識を変える以外に打つ手はないのである。
ボルネオの旅は、そんなことを思わせるものだった。
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