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綾部經雲齋
(あやべ けいうんさい)
利休の愛した韮山竹工芸の復興に情熱をそそぐ」
profile 竹工芸家・彫書家綾部經雲齋

「愛とは何か」
 実態はつかめないが、私たちは感覚的に、その重みを知っている。ところが、最近のニュースを見ていると、それが軽んじられて起きているとしか思えないような事件が目立つ。
「どうしてそうなってしまったのか…」
 もう一度、原点に還って、「愛とは何か」「命とは」「心はいかにあるべきか」を考えなくてはならない――という思いから、一人の彫書家が一心不乱にノミをふるって仕上げた彫書が、『愛・地球博』の期間中(2005年3/25〜9/25)、JR静岡駅「みどりの窓口」横の特設コーナーを飾り、注目を集めた。
 彫書とは、板に彫ってつくる書のこと。
 今回、静岡駅を飾ったのは、縦165×横100×厚さ4cmの西洋カリンの板に彫った、西郷隆盛の絶筆「敬天愛人」の、「愛」の字である。
 作者は綾部經雲齋(本名:猪俣和夫)さん。
『愛・地球博』の開幕日に序幕式が行なわれ、当日の静岡新聞は「彫書『愛』で万博PR」という見出しで大きく報じ、NHK静岡でも放映された。
 綾部さんの家には、至るところに「心」と書かれた彫書が置かれている。
「いろんな『心』がありますねぇ」
 つい口をついて出てしまった言葉に、綾部さんはニコリと笑って、
「福沢諭吉、山岡鉄舟 坂本龍馬など著名人50人の『心』という字を作品にした。こうして、一字一字を抜き取って作品にしていくと、書いた人の心の中もわかるような気がしてくる…」


 大分県に生まれた綾部さんは、6歳の時に父から竹筆のつくり方を教わり、13歳の時、ナイフで削ってつくった枇杷の木刀に、祖父、元田肇氏(本名:猪俣政衛門)の漢詩を刻んだ。元田肇氏は、第一次山本内閣の逓信大臣、原敬内閣の時には鉄道大臣、昭和3年の普通選挙で選ばれた第1回目の衆議院議長。そして中央大学の前身、イギリス法律専門学校の創始者。中央大学の開設に際しては、日本で最初の法律学者、穂積陳重(ほづみたんちょう)博士と協力して奔走、多大な貢献をしている。
 綾部さんは、中央大学法学部卒業後、東急系の商社に入社。31歳の時、経営をまかされ、8年間、社長を務めた後、好きな道を貫くため、退職して作家活動に入る。
 造詣を深めたのは、商社の仕事で中国に通って文化の真髄に触れたことから。
「子供の頃から書画骨董に触れ、さらに中国で感性に磨きをかけた綾部さんが作家の道に入ったのは、いわば天命ですね」そう言うと、ウンと頷いてから
「だから職人になる気はなかった。職人に期待されているのは作者の思想を顕すことではなく、体に叩き込まれる技術。伝統をそのまま受け継ぎ、技術を次代に繋いでいくだけでは作品は生まれない。私は自分だけにしかできない作品がつくりたかった」
 彫ろうとする木から「ここを彫れ」と呼びかけられても、あえてそれに逆らい、書や木と対話しながら、どっぷりとその場に没頭しているうちに、そこから生まれてくるものが見つかると言う。
 たとえば、彫書『愛』では、西郷隆盛が目の前に現れて、「お前の愛はそんなものか」「いやそれは違うだろう」というように、精神と精神がつながって対話を始めると言うのだ。そして「ああそうか」「そうなのか」と、心の中でつぶやきながらノミを走らせた彫書は、ノミを握ってから完成までに約1カ月半を費やした。
 西郷隆盛の『愛』について、何を感じたのかと尋ねると、
「大きいね。この人は…珍しく立派な人の字だね」そう言ってから、「丸くて、浮き上がってくる。著名人の『愛』という字を多く見てきたけれど、これほど温かい愛は見たことがない…」と。


 綾部さんには、「竹工芸家」という、もう一つの顔がある。先ほども書いたが、書に親しんだのは、父に教わった竹筆づくりから。
 竹筆で書いた書には一種独特の風合いがあって、「自分らしい書の表現をする」という意味においては、とても使い勝手が良いのだと言う。
 竹筆づくりから、本格的な工芸品をつくり始めて35年。竹の割れやすい性質も研究に研究を重ねて克服し、その製法で特許を取得(昭和54年)している。
 函南町(静岡県)に住んでいるのは、素材としての竹を求めた結果で、ここは千利休が秀吉の小田原攻めに同道し、即興で花入れ「園城寺」をつくり献上したことで有名な、韮山竹の産地なのである。一昨年、韮山町の公園に、利休と韮山竹の関係を多くの人に知ってもらうために自費を投じて「千利休竹取之碑」を建立した。静岡新聞やNHK静岡でも放映された。
 綾部さんは、今、韮山竹工芸の復興を願って、竹の持つ芸術性と、「侘び」と「寂び」とが調和したお茶の世界で使える工芸品をつくり続けている。
〜薫風爽涼〜のゴールデンウィークには、裏千家茶道教授の坂本宗啓氏とのコラボレーションで、抹茶碗や棗など、自作の品を使った、初の試み「韮山竹工芸 その魅力の世界と茶の湯展」(東京中野区)を開催する。  
綾部經雲齋
綾部經雲齋作

文/写真 久保雅督(2006.4)





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