ストレスってなに?

2006.12.25

「ストレス」の発見 

 ストレス(英語[stress]・strain(ゆがみ)を生じるもの)の意味は、外的な刺激が及ぼす心身の反応のこと。ストレスの要因(ストレス源)になるものは、ストレッサー(stressor)という。
 医学的にストレスという言葉を初めて使ったのはセリエ博士だが、もともとは、工学・物理学の用語で、物体に力が加わった時に生じる「ひずみ」のことを指す。
 1865年、フランスの生理学者クロード・ベルナール(Claud Bernard)博士は、「様々な刺激を受けても、生体内は恒常的に維持されている」ことを発見する。ベルナール博士は、フランスの細菌学者ルイ・パストゥール(Louis Pasteur)博士[「病気の原因は細菌にある」とする細菌説を支持した]と、「加熱殺菌法」の研究を一緒に行なっていた時期があるそうだ。
 1927年、アメリカの生理学者ウォルター・B・キャノン(W. B. Cannon)博士は、ベルナール博士の説に「ホメオスタシス(同一のhomeo・状態stasis=恒常性)」と名付け、視床下部、交感神経、副腎が大きな役割を演じているとした。
*ホメオスタシス(恒常性)は、体内のバランスを一定に保とうとする働き。
 1936年、カナダのハンス・セリエ(Hans.Selye)博士は、有害刺激を「ストレッサー」、ストレッサーにより生物の身体が変化の必要に応じて対応することを「ストレス」と定義する。
 そして、有害刺激が強すぎると、汎適応症候群general adaptation syndrome(GAS)になるという、ストレス学説を「ネイチャー」誌に提唱する。この学説は、後に、部分的に否定される。
 汎適応症候群には、3つの段階があるとした。
 1.ショックを受ける。(心機能・血圧・血糖値・体温・意識の低下や、骨格筋の弛緩など)。
 脳の視床下部(hypothalamus)→下垂体(pituitary)前葉→副腎(adrenal gland)へと影響を与えて警告する。
*これらの、それぞれの頭文字をとってHPA-axisと呼ばれる。
 副腎皮質刺激ホルモン放出因子(CRH)により、下垂体前葉から副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)の分泌が増加し、副腎皮質から糖質コルチコイド(ホルモン)の分泌が促進される。
*糖質コルチコイドには、抗炎症作用や、筋肉などでエネルギーをつくり出し、肝臓へ働きかけて、糖をつくり出す酵素の合成を活発にする、ホルモン(甲状腺ホルモン、成長ホルモン、性ホルモン、インスリンなど)分泌を増強する働きがある。
 2.ストレッサーに適応できるように体勢を整える。(心機能・血圧・血糖値・体温の上昇、緊張感の上昇、骨格筋の緊張など)
 3.ストレスの状態が長く続くと、生体機能が破綻し、恒常性が失われて、やがて死に至る。  

ストレスのしくみ

 ストレスの究極は、外部の刺激に対して窮地を脱するときに、「闘う」あるいは「逃げる」ことを可能にするために、体の機能を最高まで高める反応である。よく例えられるのは、動物が敵と相対した時の状態。つまり、一番大切な生命が脅かされるかもしれない、異常事態に備えた防衛反応なのである。
  心臓などの循環器系は、エンジンでいえば回転数をめいっぱいにしたアイドリング状態になる。つまり、それが長い期間続くと、やがて破綻を生じる。
 長期間のストレスでは、記憶や集中力を司っている脳の海馬状隆起が収縮して、判断力や記憶力が鈍る。
 自分の感情を表そうとしない人はストレスを起こしやすいといわれる。大脳辺縁系が感じた感情や記憶を、理性の脳といわれる前頭葉が抑制しようとして葛藤が生まれ、中枢神経が不安定になるためである。
 ストレスでは、中枢神経系、自律神経系、内分泌系、免疫系に反応が起こるが、さらに負荷がかかると、内臓の弱い部分に影響が出る。たとえば、胃の炎症や胃潰瘍などである。
 自律神経は、意思とは関係なく内臓など様々な働きを調節するシステムで、交感神経と副交感神経がある。ストレッサーを感じると、行動に備えて、交感神経が優位に働き、心拍数や血圧をあげる。
 内分泌は、体の働きを担うホルモンを分泌する器官。ストレスでは、副腎髄質からアドレナリンノルアドレナリン(ともに副腎髄質ホルモン)が放出される。しかし、分泌に乱れが生じてくると、女性ホルモンは、生理不順、更年期障害などを引き起こす。
 免疫では、異物(風邪のウイルス、食中毒菌、アレルギーを起こすものなど)から体を守る器官。しかし、ストレスで胸腺(Thymus)が萎縮し、免疫細胞の活性も低下するため、ガン細胞の抑制も低下する。*胸腺は、アレルギーなどの原因となるものを認識する免疫細胞(T細胞)の教育機関。
 また動物が増えすぎると、エサが少なくなり、スペースが狭くなり、干渉が起こりやすくなるため、ストレスで、生殖機能の低下、出生率の低下、死亡率の増加などから、個体数が減少するというデータもあるそうだ。

ストレスで抑制される器官

 ストレスの状態では、脳幹の青斑核(せいはんかく・不安や恐怖を感じる箇所)は、ノルアドレナリンを分泌し、脳のそれぞれの部位に刺激を与え、警戒態勢を取らせる。
 アドレナリンもノルアドレナリンと同じように、心拍数の促進、血圧上昇、骨格筋への血流上昇、血中の糖の増加、気管支の平滑筋を弛緩させて呼吸量を増加させ、瞳孔拡大、鳥肌を立てる。
 また、アドレナリンは血小板を刺激するため、血液の凝縮を促進させる。これは、ケガをして出血することに備えるための働きだといわれている。しかし、血小板から出る血小板由来増殖因子(PDGF)は、血管壁の平滑筋を増殖させて血管壁を厚くするため、動脈硬化につながりやすくなる。
 副腎皮質から分泌されたコルチゾール(糖質コルチコイド)は、血管を巡り、生存に直接関係ない器官(消化器官や免疫器官など)の働きを抑制する。
 生命維持とは直接関係ないとみなされた免疫器官の抑制が長く続くと、免疫力のバランスの乱れにつながる。
 コルチゾールの生成には脂質や糖質が必要になるため、体内の代謝機能(分解吸収)を低下させて、エネルギー源を体に蓄積しようとする。反対に、ノルアドレナリンは、肝臓の働きを活発にすることで、脳や筋肉のエネルギー源である糖をつくり出す。
 そのため、ストレスで、一時的に食欲が減退することもあるが、その後は、エネルギーを補給するため過食傾向になることが多いとされている。
 大量につくり出された糖は、通常の生活ですぐに消費することはできない。ストレス状態が続くと、消化器官の働きは抑制され、血流も滞り、消化機能が低下するため、糖が消化されず蓄積することから、様々な疾病の原因となる。
 運動がストレス発散に良いといわれるのは、糖の消費を助け、本来の意味の「逃げる」「闘う」という代償行為になるためである。楽しんで行なうことができれば、ドーパミン、βエンドルフィンなど、気分を高揚させるホルモン分泌の効果も期待できる。
 消耗したエネルギーは、タンパク質、カルシウム、ビタミンB、C、Eなどを含むバランスの良い食事や、睡眠で補うことも大切である。

ストレッサー

 物理的 (温度、湿度、騒音、振動、光、悪臭、部屋の狭さなど)
 化学的 (排気ガス・ホコリなどの有害物質、大気汚染、薬物、アルコール、タバコ、食事など)
 生物学的(細菌、カビ、花粉、ウイルスなど)
 身体的 (食欲・睡眠欲など生理的なもの、発熱、痛み、老化、疲労など)
 心理的 (恐怖、怒り、不安、不満、悲しみ、憎しみ、劣等感など)
 社会的 (人間関係、仕事のノルマ、生活環境、死、転勤、育児、失業、借金など)
 などがある。
 ストレッサーは、物理的なもの、心理的なものの、いくつかが複雑に絡み合っていることが多い。
 1984年に、アメリカの臨床心理学者クレイグ・ブロード(Craig Brod)博士が、「テクノストレス」という言葉を用いて、コンピュータになじめないタイプと、コンピュータにのめり込むタイプの2種類があるとした。現在では、メールやゲームに関するストレスなどが多くなっているようだ。

身体、心理、行動に表れるストレスの症状とされるもの 

 身体的には、高血圧、高血糖、不整脈、頭痛、めまい、眼精疲労、下痢、便秘、腹痛、食欲不振、過食、吐き気、歯ぎしり、不眠、肩こり、腰痛、筋肉痛、頸部痛、倦怠感、しびれ、ノドの異物感、失語症、じんましん、アトピー、ぜん息、生理不順、貧乏揺すり、冷や汗、動悸、息苦しいなどがある。
 心理的には、イライラ、無気力、落ち込む、不安感、焦燥感、集中力の欠如、涙もろくなるなど。
 行動としては、暴力をふるう、うそをつく、さぼる、アルコール・タバコ・買い物・ギャンブル依存など。
 以上は主なものだが、他の症状も、ストレスとまったく関係していないものはないといわれている。体の症状を治しても良くならないときには、気づいていない、あるいは気づこうとしていないストレスなのかもしれない。
 逆に、ストレスと思いこみ、身体的な異常をみのがすこともあるため、注意が必要である。
 また、どこに表れるかは個人差によるもので、症状などによって、度合いを比べることはできない。これはストレスが個人の主観によるものが大きいとされているためである。 

心身症

 ストレスにより、体に表れる何らかの症状を心身症という。
 以下のものが主なものである。
内科系   /気管支ぜん息、過呼吸症候群(過換気症候群)、
       胃潰瘍、十二指腸潰瘍、過敏性腸症候群など
循環器系  /高血圧、低血圧、虚血性心疾患、
       不整脈など
耳鼻咽喉科系/メニエール病、難聴、
       アレルギー性鼻炎など
眼科系   /眼精疲労、視力低下、まぶたの痙攣など
神経内科系 /緊張性頭痛、自律神経失調症(めまい、動悸、
       立ちくらみ、冷え、のぼせなど)など
整形外科系 /関節リウマチ、腰痛など
皮膚科系  /アトピー性皮膚炎、円形脱毛症、多汗症、
       じんましんなど
婦人科系  /生理不順、更年期障害など
泌尿器科系 /夜尿症、頻尿など

 他に、体に異常はないが病気だと思いこむ「心気症」、本人は体に痛みを感じるが症状は表れない「身体化障害」、そして、そううつ病、睡眠障害、摂食障害、不安障害、適応障害、強迫性障害、パニック障害なども、ストレスともいわれている。
 ただ、ストレスは、主観によるものが多く、また、本人が原因に気づいていないこともあり、症状の表れ方も様々なため、明確に決定することは難しいようだ。

PTSD(外傷後ストレス症候群) 

 精神医学的にストレスと認められているものに、「外傷後ストレス症候群(Posttraumatic Stress Disorder=PTSD)」がある。命にかかわるような経験をしたことから、そのことに苦しめられるため、様々な症状が出るもの。自分以外の人の経験でも起こることがある。
 1970年代に、ベトナム戦争が兵士に精神的な後遺症を及ぼしたことが問題になった後、自然災害、事故、犯罪の被害者なども、トラウマ(trauma・心的外傷)から、同じような症状を引き起こすことがわかり、正式に名付けられた。
 脳の海馬が萎縮し、ノルアドレナリンやセロトニン、コルチゾールの異常があるといわれている。

ストレスがないと 

 物理的にストレッサーとなるものを取り払った部屋で過ごす実験をしたところ、体温調節機能が衰え、精神的に不安定な状態になったという実験結果があるそうだ。
 ストレスは、与えられた刺激に対して適応していく過程であり、その適応力こそが、生命維持や様々な能力を向上させているのだともいえるのである。軽い緊張(ストレス)は、成し遂げようとする時のバネになり、また、経験を積むことで、自信が生まれ、克服する精神力も培われていくため、少しずつストレッサーに対する免疫もできてくる。
 現実的にも、ストレッサーのない状態は考えられず、逆に異常である。睡眠中に寝返りを打つのは、体の特定の部分の圧迫に対して適応しようとする、ストレスなのだそうだ。
 目標や夢などは、精神を豊かにする良いストレッサーになるが、ノルマのように感じて過剰に反応すると、人によっては、ストレスを引き起こす。
 ストレッサーは捉え方次第であり、適度なストレッサーには個人差があると認識することも大切なのである。
 

ストレスを、少しだけでも緩和する 

 ストレスのほとんどは、自分の性格や状態(女性は、出産や更年期などホルモンバランスの変化する時期も含まれる)、環境などが要因となるそうだ。しかし、環境や状態は変えられない場合も多く、性格も、すぐには変えられない。
 そこで、ストレスを認識して、受け止め方や行動を変えることを意識することが、自分でできる一番確実で、効果がある方法になるそうだ。ストレッサーとストレスとは、言葉の上で明確に分けられていないこともあるが、認識するという意味でも、分けて考えた方が良いそうである。
 ただし、自分ではどうしようもない場合は、できるだけ早く専門的に見てもらう方が良く、我慢強いタイプの人は、自分で気づいていない、あるいはストレスだと認めていないことも多いようなので、注意が必要である。
 ストレスを和らげるには、まず、良い結論を想像して、もう一度考え直してみる。解決手段をもう一度だけ考えてみる。自分の方法にはこだわらないことを意識する。
 イライラしそうになったら、深呼吸や楽しいことを考える。話し方や食べ方のスピードを少し遅くしてみる。時間を気にせずリラックスできる時間を少しだけでもつくる。お風呂にゆっくりつかる。しかめっつら、腕を組むなど、体に力が入る行動を避ける。自分の間違いを認める。自分の価値を認める。時には人に助けを求めて、話を聞いてもらう。自分の好きなことをする。などが良いそうだ。
 なんといっても簡単なのは、とりあえず、笑い顔をつくってみること。口角が上がる笑い顔をつくることで、脳が「楽しい」と勘違いして、体内でも良い作用が働くそうである。
 しかし、自分の好きなことでも、お酒、食事、買い物、ギャンブルなどは他のストレスにつながるので、注意が必要。 

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