アクアポリン(aquaporin、AQP)

2008.5.25

「水の穴」の発見は、セレンディピティ

 体内機能を考えるうえで、細胞には水を通す穴(水チャネル・water channel)があるのではないかと考えられはじめたのが、約100年前のこと。
 細胞は、二重の脂質でできた細胞膜で覆われており、大切なものが外に出てしまわないように、また不要なものが入らないようにガードされている。そのため、水分も、脂質でできた膜の間を、ぶつかりながら無理矢理通り抜ける(受動拡散)のが基本だと考えられていた。しかし、それでは、大量の水分を通す必要のある臓器では間に合わないため、「水」を通す管のようなものがあるのではないかと推測されていたのである。

 その「水」を通す穴が発見されたのは、1992年のこと。2003年、発見者のデューク大学 ピーター・アグレ博士(Dr.Peter Agre)がノーベル化学賞を受賞した。
 アグレ博士の専門は、実は、赤血球の膜にあるタンパク質。
 実験中に発見した、見たことのないタンパク質を「水を通す穴」ではないかと考えた博士は、それを証明するため、水を通さない細胞膜を持つカエルの卵を使って、実験した。結果、未知のタンパク質を加えた卵だけが、水に付けると大きく膨らみ、外の水を細胞の中へ通したのである。
 このことから、このタンパク質が、水を通す穴になるもので、後にアクアポリン(アクアポリン1)=水の穴、と名付けられた。
 アクアポリンは、発見の際に多く見られるセレンディピティ(Serendipity)によるものだった。
 発見後も様々な共同研究による成果があったそうだが、約10年後にノーベル賞を受賞したということで、いかに大きな発見だったかということがわかる。
 

水以外を通さないクアポリン1 

 アクアポリンは、アミノ酸300個ほどでできているタンパク質の中では小さいもの。
 アクアポリン1を、極低温電子顕微鏡を使って、初めて見ることに成功したのは、京都大学 生物物理学の藤吉好則教授である。
 通常、電子顕微鏡の真空状態の中では、水分は蒸発し、電子線によりタンパク質は破壊されてしまう。そこで、教授は、金属板に、水に溶かしたアクアポリンをのせて、そのまま-190度以下の液体窒素で瞬間冷凍し、顕微鏡内は、液体ヘリウムで約-270度にして、冷やし固めることで細胞を頑丈にした。
 アクアポリン1には、細胞の中心を砂時計のような、中央が細くなっている形をした穴が通っていて、一番細い部分は水分子1個(2.8オングストローム)がやっと通れる3オングストローム(=1000万分の3mm)になっている。
 このことから、アクアポリン1は、水の分子以外は通さないこと、また、1秒間に数十億個という早さで水分子を通していることもわかった。水分子を素早く大量に通すことができるのは、プラスに荷電している穴の中央部分(一番細い部分)に、マイナスを帯びた酸素がひきつけられることによって、1個ずつ穴を通過するという、すばらしいしくみになっているからなのだそうだ。

人間の持つアクアポリンは、現在、発見されている13種類

 最初に発見されたアクアポリン1の後、東京医科歯科大学の佐々木成教授により、腎臓の細胞膜からアクアポリン2が発見された。  
 その後、0〜12までの13種類のアクアポリンが人間の体にあることがわかった。
 13種類の基本構造は同じだが、存在場所により調整機能が少しずつ違うのだそうだ。
 アクアポリン0は、眼のレンズ細胞にある。
 そのほとんどは細胞膜に存在しており、腎臓では6種類以上のアクアポリンが協力して働いている。
 アクアポリン1は水分子しか通さないが、グリセロール、尿素、二酸化炭素などを通すアクアポリンもある。

生命とアクアポリン

 人間以外の動物や、植物、昆虫、大腸菌などもアクアポリンを持っている。このことから、アクアポリンは生命が生まれた最初の頃にできたものと考えられている。
 水を求めて動くことのできない植物には、30種類ものアクアポリンを持っているものもあり、開花のしくみは、アクアポリンで運ばれる水分で細胞が膨らむことによるものなのだそうだ。
 オジギソウの葉が閉じるのは、葉の付け根にある細胞を刺激することによりアクアポリンから大量に水が流れるためで、乾燥地帯に多いサボテンは、水を多く排出しないように、アクアポリンの数が少なくなっている。 

皮膚のアクアポリン

 人間の皮膚は、外側から、角質層、丸い形をした表皮細胞、真皮細胞の3層になっている。
 角質層には水分が20%ほどだが、表皮と真皮には70%くらい含まれている。
 表皮細胞は、周りを脂質の膜で囲まれているが、たくさんのアクポリンがある。角質層や、直接、血管で水分の運ばれる真皮細胞には存在しない。
 化粧品メーカーが、現在、アクアポリンの研究を進めているそうで、女性には、嬉しい情報である。

アクアポリンの存在場所 

 アクアポリンは、皮膚以外に、脳、目、涙腺、鼻、唾液腺、肝臓、腎臓、腸など、水分の多い所には特に、たくさん存在している。体の水分量は約60%だが、脳の水分は、それより比率の高い約85%である。
 アクアポリンの働きには、水を通すこと以外もあることがわかっているそうだ。

アクアポリンの増減 

 涙は、涙腺細胞でつくられて、涙の管からアクアポリンを通って分泌される。
 涙の分泌量が減って、目に痛みや異常を感じるドライアイの中でも、シェーグレン症候群は、細胞にアクアポリンが無いことにより、眼にゴミが入っても涙の分泌がなされないのだそうだ。
 逆に、事故のダメージや、脳腫瘍などにより、水分が脳に増える状態(脳浮腫)は、アクアポリンが増えることによるもの。
 アクアポリンの遺伝病には白内障があるそうだ。

参考:サイエンスZERO「体を潤す謎の穴アクアポリン」NHK教育 2007年11月10日放送

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