アポトーシス

2011.2.11

 人間の体をつくっている細胞は約60兆個。
 いずれかの細胞に異常事態が発生して修復不可能になると、管理、調節された積極的で機能的な消去が行なわれるようにあらかじめプログラミングがされている。
 多細胞生物の細胞が自らが死んでいくように見える、この現象は、ギリシャ語の「apo(離れて)」「ptosis(下降、落ちる)」、つまり、「木の葉が散る」という意味の「アポトーシスApoptosis」と名付けられた。1972年、スコットランドのJ.F.Kerrrたち、3人の病理学者によるもの。
 DNAの損傷や、異常なたんぱく質が発生するとシグナルが送られて「カスパーゼCaspase」(システインプロテアーゼの一種)が中心となって異物を排除するなど、体内の一部のたんぱく質は自死指令を細胞に伝える。これも広義のアポトーシスとみなされている。

 アポトーシスに対して、細胞の内外の環境悪化、火傷や毒などで与えられた外傷により、細胞膜の浸透圧調節機能が失われ、細胞が破裂して内容物が流失して起こる、消極的な細胞の事故死は「ネクローシスnecrosis(壊死)」と呼ばれる。
 炎症は、白血球などにより異物や死滅した細胞が処理されて、組織の修復をしている過程であり、ネクローシスはほとんどの場合、炎症を誘導する。また、ほとんどの場合は、正常な細胞を傷害するものである。
 役目を終えた白血球は自らもアポトーシスを起こし、マクロファージなどに食べられて消去される。アポトーシスの場合は、細胞を完璧に処理してしまうので、一部を除いて炎症などは起こさない。
 消去され消滅した細胞は、多くの場合、また新しく再生されるが、ごく一部を除く心筋細胞や中枢神経の細胞は新しくつくられることがない。そのため、心筋梗塞などで細胞が壊死してしまうと、その細胞は新しく生まれ変わることがないのである。しかし、再生医療の進歩によって補われるようになっている。

 細胞の自然の寿命死を、アポトーシスと区別して「アポビオーシスapobiosis」ともいう(東京理科大学薬学部教授 田沼靖一氏 提唱による)。アポビオーシスもアポトーシスと同じように、DNAが断片化されて処理が行なわれるが、関わる酵素や処理の方法が違うのだそうだ。
 細胞が何らかのダメージを受けて修復不可能になると、シグナルが発信され、それにより活性化した1種類の酵素が細胞骨格を切断し、もう1種類の活性化した酵素は細胞核に侵入して、DNAを規則的に細かく切断していく。
 切断されたDNAは細胞膜でつくられた小さな袋に取り込まれ、「アポトーシス小胞」と呼ばれる粒状になり、それをマクロファージが処理する。
 これがアポトーシスである。
 切断されたDNAが細胞から外に出てしまうと自己免疫疾患を引きおこすため、この作業は非常に厳格に行なわれる。
 たとえばウイルス感染した細胞のアポトーシスが上手くいかなかった場合は、壊れた細胞の成分が他の組織に悪影響を及ぼすことになる。
 細胞が修復不可能になる原因には、活性酸素、発ガン物質、紫外線、放射線、ウイルス、薬剤などによるダメージがある。
 有害な免疫細胞にもアポトーシスが起こる。脳の神経細胞はストレスでも細胞死が起こる。

 人間の細胞は、アポトーシスなどによって、毎日、3000億個以上、約200gの細胞が死んでいる代わりに、増殖と分化で新しい細胞が生まれている。年齢などにより変わってくるが、皮膚の細胞は28日、赤血球は約120日、肝臓の細胞は1年弱、骨は3ヵ月〜約3年で新しくなり、それ以外の再生されるほとんどの細胞は約半年あまりで生まれ変わっている。

 実は、健康な人の体の中でもガン細胞は毎日生まれているが、アポトーシスによって取り除かれている。
「大腸菌」などアポトーシスが組み込まれていないものは、周辺環境の悪化や、他の生物に食べられてしまわない限り、無限に細胞が分裂して生き続ける。
 有性生殖という種の繁栄方法が生まれたと同時に、「アポトーシス」は遺伝子に組み込まれた。有性生殖は親から遺伝子を譲り受けるため、不都合な細胞が他の細胞に悪影響を与えないように、自らプログラムを起動させて自己を犠牲にして消去する行為を選んだのである。つまり、有性生殖は「不老不死」を手放して、不都合な細胞がコピーされ続けて、結果的に「種」を絶やしてしまうリスクをなくしたのである。
 アポトーシスが抑制や促進されて正常に働かなくなることによって起こる病気には、ガン、白血病、潰瘍性大腸炎、心不全、関節リウマチ、自己免疫疾患、劇症肝炎、アルツハイマー病、パーキンソン病などがある。

 アポトーシスは「死」ではなく、成長のためにも起こっている働く。おたまじゃくしがカエルになるときに尻尾がなくなること、あるいは、つながっている細胞の一部が死ぬことで胎児の指は形成されていく、など。
 何かを手放して進化し、成長する。なにかと似ているような・・・。

バックナンバー

サイトマップ

mail

法令に基づく場合などを除いて、個人情報をご本人の同意を得ることなく第三者に提供したり、開示したりすることは致しません。

copyright(c) SOMETHING ELSE Co.,Ltd. 2012 all right reserved  since2006



ページtopへ