トップと部下

2006.5.7

 アンケートを元にランキングされた「超大型歴史アカデミー ニッポン人が好きな100人の偉人」(5/7放映 日本テレビ)。結果を見ながら、「えっ!? なんで?」と思う順位もあったが、逸話を聞いて、改めてすごいと思う人ばかりで、予告を見ながら思った通り、一人には決められな〜いと思った。
 当然だが、本や逸話でしか知らないし、実際に話をしたこともないのに決められないのだ。たとえばタレントのすべてが好き、と熱中する人の気持ちがよくわからないのだが、話したこともないのに、すべて、ってどういうことなんでしょう。 でも、こういうタイプばかりだとランキングものはできないかもね!?
 余談だが、会った瞬間に人を見抜けると豪語する人がいる。それって、勘違いじゃないの? と思う。どれほどの経験があっても、一人の人間をまるごと見抜くことのできる人はそういないはずだ。経験の少ない人に比べて確率は高いかもしれないが、どんな人間だって、簡単に見抜かれるほど単純じゃァありませんよ。そう思うのである。
 話を戻すが、今回おもしろいなと思ったのは、ランキング21位だった源義経が、人前憚らず、よく泣いたという話。屋島の合戦で、身を挺して義経をかばい死にいく家臣の佐藤継信から「大将が戦中に泣くものではない」と言われながらも泣いてしまう。馬を売った金で、僧侶に手厚く葬ってくれと頼むと、後白河上皇から貰った名馬を売るなんてとんでもないと反対されるが、「馬はまた買えるが、継信はもう戻ってこない」と言い、これを聞いた部下たちが、義経のためなら命を落としても惜しくはないと思ったという話は、感動ものだった。
 5位、松下幸之助氏の、迎えの車の不注意で大事な会議に遅れた時、運転手ではなく、どんな理由だろうと自分の責任だと言って、減給一ヶ月を自分に課したという話も、すごいな。
 偉人伝には、それらしい話が後につくられたものもあるようで、穿った見方をするとパフォーマンスだったりもするんだろうけど、納得できればそれでいいのである。いつだったか、ナイチンゲールがもともと人より頑丈で、男性さえも倒れる過酷な状態でも、睡眠もとらずガンガン働いていたという話があるのを聞いて、「へぇ〜」と思ったが、そうでなければ、多くの人も救われなかったのだから、イメージうんぬんよりも、それでこそナイチンゲールなのだと思った。
 ランキングの中には出てきていないが、「項羽と劉邦」(司馬遼太郎著/新潮社)の好きなシーンの一つ、「鴻門の会」で劉邦の命を助けようとする男たちが好きである。もちろん会ったことはない(笑)。
 あらすじを説明すると、おだてにのりやすい劉邦は、上将である項羽を出迎えるどころか、函谷関を兵で固め、入関を拒否してしまう。項羽の参謀、笵増(はんぞう)は、人を引きつける魅力のある劉邦を放っておくのは危険だと考えて、この機に命を取ってしまえと項羽に進言。項羽は怒りはしたものの、家柄もなく、学もなく、臆病で戦下手の劉邦を見下してもいた。
 鴻門に本営を据えた項羽に対して、劉邦は生きた心地もなく、いつも通り、身一つで逃げ出そうかと考えていた時、ふと以前、頼りにしていた張良(ちょうりょう)がいたことを思い出す。劉邦には、必要でなくなるとあっさり忘れてしまうという無邪気さがあった。
 張良はある事情から、項羽のおじの項伯を匿っていた。ともに名家に生まれながらも、似たような境遇だったこともあり、2人は侠心でつながっていた。張良から、項羽が攻撃をしかけてくるという情報を聞いた劉邦は、咄嗟に、項伯と張良の間に強引に割り込み、項伯と義兄弟の契りを結んでしまう。
 命乞いを頼まれた項伯は一人で、項羽に話に行く。
 翌日、笵増に言われた通り、項羽は会ってすぐに劉邦を斬ろうとしたが、自尊心をかなぐり捨て声を震わせて哀訴する劉邦を見て、考えを変えて酒宴を催すことにする。なおも笵増は、合図を送ったら剣士に命を取らせろと項羽に言う。しかし、項羽の独特な美学ともいえる感情は、哀れな劉邦の姿に、もはやどうでもよくなっており、合図を送られても無視する。
 笵増は、最後の手段として、言い含めておいた項羽のいとこで剣舞の妙手である項荘に、剣の舞いで劉邦の命を狙わせる。それを察した項伯は自らも舞い手として加わり、白刃から劉邦をまもる。
 しかし、長くは持たないと見てとった張良は、外で待っている樊かい(はんかい)を呼びにいく。命を共にしようと思い、付き従ってきた樊かいは、劉邦の忠誠心がなぜわからないのかと、とどろくような声で項羽に訥々と語る。陰気にうずくまっている劉邦たちに飽きてきていた項羽は、義と侠のために命を差し出すことのできる樊かいのような男が好きで、会うことができて嬉しいと大層喜んだ。
 劉邦は、この混乱に乗じて立ち上がった。
 誰もが厠に行ったのだと思ったが、実は、皆を置いて、そのまま遁走してしまうのである。
 この話をすると、「トップが死んでしまっては、部下たちが困るから逃げるべきだ」という人もいる。そうかもしれないが、私には信じられない。
 人に慕われて祭り上げられるのも、いい部下を持つのも、天が味方するのも、トップの器量かもしれないが、納得がいかない。友達にはいいかもしれないが、部下になると振り回されて、不安だな〜と思うのである。劉邦だけには票を投じないと思う。

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