カフェオレ色のしずく

2006.7.3

 歩き疲れたので、目の前の「喫茶店」に入った。
 清潔ではあるが、入る前に想像した通り、洒落たところの一つもない、昔ながらのインテリア、テーブル、イス。
 失礼ながら、思ったより客が入っていたのでガッカリしたが、2人掛けの席ではなく、1つだけ空いていた4人掛けの席を勧められて、嬉しくなった。商売っ気のない店だなと思いながら、もしコーヒーがまずくなかったら、この店は記憶に留めておこうと思う。
 お店のスタッフは、愛想が特別いいわけではないが、人間と接しているような気分にさせてくれる。骨董屋にあるようなイスの座り心地も悪くない。普通の書体が並んでいるだけのメニュー、テーブルに置かれた水の入った変哲のないコップが、不思議に心地良かった。
 1人で飲食店に入ると、小さなテーブルの席に座らされることが多い。なので、できるだけ混んでいる店は避けてしまう傾向がある。一度、カウンター席を勧められて、今、店から出ることができたらどんなにいいか、と思ったことがある。
「おいしいお酒と、食事ができるお店があるんです」と連れて行かれた店で、「カウンターの方がいいですよね」と言われて、「はい」と言いながらも普通の席に座りたいと、実は思っている。
 しかし、たまたま入った店の、ガラス窓に向かうタイプのカウンター席はあまり嫌ではなかった、というより、案外、心地良かった。
 カウンターのイスは、通常の席より高く、落ち着かないから苦手だったのだということに、その時、気がついた。バーのカウンターで格好良くグラスを傾けるのはあきらめよう。
 子供の頃、家ではコーヒーを飲ませてもらえなかった。
 店でコーヒーを初めて頼んだ時、砂糖とミルクを入れて、ワクワクしながら飲んだことを覚えている。甘いのか苦いのかハッキリしない、その味は、とてもおいしいとは思えなかった。
 今では、夏でもコーヒーを頼む。砂糖もミルクも入れない。
 気になっていることがあった。砂糖やミルクを入れなくなったきっかけがあるはずなのだが、思い出せないことである。
 ソーサーにスプーンでかき混ぜた後のカフェオレ色の滴。
 もしかしたら、そのしずくの跡が気に入らなかったのかもしれないな、と気がついて、「きっかけ」なんて、こんなもの、とおかしくなった。

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