伝え方

2007.11.4

 銀行の振込手数料を引いた金額を振り込むのは、昔のような集金システムがなくなったために、その手間賃(人件費)を差し引いているためだという話を聞いたことがある。
 最近、契約しているOA機器の会社が、コピー機のカウンター数を電話で聞くシステムに変えた。そうすれば、その仕事にかける時間と人数を減らすことができて、それ以上に、他の仕事ができるようになる。なるほど、と思った。こちらは、ただ、ボタンを押してでてきた数字を読むだけだ。しかし、担当者と顔を合わせる機会が少なくなることが、経費削減に勝るかどうかはわからない。
 他にも、人件費削減で、機械操作が増えてきており、それがコミュニケーション能力の不足にもつながっているように思う。確かに、人間の感情の食い違いといった面倒くさい問題は避けて通れるが、感情の不要な機械操作は、コミュニケーション能力を補う時間を減らして、それが、様々な弊害をつくりだしているのではないのかと思うのである。

 印刷物も、会話を交わす必要がないインターネットを介しての注文ができるようになった。
 セルフの部分が多くなるほど安価になる。たとえば、完全な原稿で入稿する場合は、内容や文字の校正は追加料金になる場合も多い。
 つまり、人があまり関わることなく、決められた選択肢の中(たとえば材料の大量購入などで単価を落とす)で、簡略化した工程、規定の納品期日に納品することで安価になるのである。あるいは、写真のライブラリーのように、より多くの人に使われることを基本にした写真で、1点の使用料金を抑えることができるようなシステムもある。  

 昔ながらの方法で、打ち合わせをしながら進めていく制作物は、依頼する側のイメージを読み取って表現できるだけの経験と力量が、依頼された側に必要で、そのためには、依頼する側の提示する最小限の材料も大切になる。

 何をいっていいのかさっぱりわからず、相手がいろいろ聞いてくれても答えられずでは、結局、相手のプロの部分を利用することはできないのでもったいないということに気がついた。
 どうせ、考えなくてはいけないのなら、人にまかせずに自分でやってしまったほうが手っ取り早いと考えるのも一つの手だが、相手の力をうまく利用する方が良い場合もある。意思の疎通に面倒くさい思いをするかもしれないが、相乗効果を考えると、そのくらいはなんでもない。ただ、独学でやっているうちに、それが仕事になってしまったという人も、なかにはいる。 
 相手の力量を図ろうとして、最初に何もいわないのは、レストランに入って、プロなんだから、食べたいものを当ててつくれといっているようなもので、漠然としたイメージでも持っているのなら、最初からいったほうが自分の食べたいものをスムーズに食べることができる。
 和食の料理家に、洋食や中華も同じくらいできるだろうと思うのは勘違いで、オールマイティすぎるのは、逆に突出したものがないといえることも多い。
 
 美容院で、材料は提示せず、「おまかせ」といえば、「それではこんなイメージではどうですか」と提案してくれて、いままでしていた髪型に少しだけ変化をつけてくれる。
 写真を持っていく(自分のなりたいイメージに近い服を着ていくと、大まかなイメージがつかみやすくなると聞いた)。写真と同じようにカットすると、髪質や頭の形の違いからイメージが違うものができあがってしまうこともあるので、経験の長い美容師は、少しアレンジして、イメージに近づけてくれる。
 言葉だけで伝えるのは、なかなか伝わりにくい。そこで、このくらいの長さでいいかとか、このくらいのボリュームでいいかを美容師が確認しながら、イメージをすり合わせていくのである。イメージしていた以上のものができることもあるのでおもしろい。
 制作物をつくるときも、そこがポイントとなる。相手のイメージ(材料)をひきだし、自分で調べたもの、考えたものをプラスして、相手の目的に合ったものにするための大切な発酵期間である。これによって、おいしい発酵食品(制作物)ができるかどうかが決まってくる。

 そういう時間を一切かけたくないために全部まかせるというのも、一つの考え方かもしれない。ただ、おうおうにして無難なものになってしまうことが多い。身近な人と同じ携帯電話を持ち、使い方を覚えなくてもいいようにする人もいる。しかし、自分の目的に合っているものを選ぶことでいろいろな広がりも出てくるはずだ。
「バニラの香りで、辛めで、さっぱりした食べ物」というように、多少矛盾したイメージもなかにはあるかもしれないが、優先順位さえ決めていれば大丈夫のようで、案外、そこから、とんでもなくおもしろいものができることもある。程度問題ではあるが。
 伝えるには、難しい言葉や専門の言葉を使うより、自分の言葉で伝えるのが一番である。知ったかぶりをすると、相手がプロだからこそ矛盾が起きて混乱させる。そのうえ、逆にまったく知らないということを露見させるので逆効果になる。
 逆効果になるのは、悪意でなくても投げやりにとられる態度である。きっと、ここが機械とは違うところ。良くも悪くも、思いを受け止めることができるのが人間だから。

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