ミトコンドリアDNAは母系

2007.11.3

 ある種の動物は、母親だけで子育てをするそうだ。
 何日も獲物がつかまらず、母親もフラフラになりながら、それでも子供たちのために獲物をしとめるシーンは、見ていて感動である。
 たまに、父親(だった)オスに遭遇する。エサを持ってくるのではなく、逆にエサがあるのを見つけて横取りしようとすることもある。母親の必死の行動を見て感動した後では怒りすら覚えるが、もちろん人間の尺度では測れない。
 ある光景が浮かんだ。「少しも子育てに参加してくれなかったのよ」と奥さんに言われて、夫がシュンとしている姿。人間も動物。この男の人は、子育てをしないタイプの動物なのかもしれないと。

 人類最初の母(イブ)が、アフリカにいたというのは有名な話である。
 サイエンスZERO「日本人の起源に迫る」(NHK教育テレビ 2007年11月3日放送)でミトコンドリアの遺伝子(DNA)の特集を見た。ミトコンドリアのDNAは、通常DNAというときの核のDNAとは違い、母親だけのDNAが伝わるそうだ。受精した瞬間に父方のDNAは消えてしまうのだ。
 兄弟でも顔が違うのは、父と母からもらう核のDNAの組み合わせが異なるためだが、ミトコンドリアDNAは外見などには表れないらしい。
 エネルギーをつくりだすために細胞の中で働くミトコンドリアは、約16500の塩基配列で成り立ち、その配列でいくつかのタイプに分けることができるそうだ。ミトコンドリアDNAで分類すると、日本人は16人(16タイプの遺伝子)の母親から枝分かれした。16タイプをさかのぼると、アフリカにいたという最初の女性にたどりつく。
 約20万年前にアフリカに誕生したその女性(新人)から、人類(ミトコンドリアDNA)の広がりをたどると、約7〜6万年前にアフリカの東(紅海の沿岸)を出て新たに生まれたのがタイプNとM。NからはRが生まれる。海岸沿いを通って、約5万年前にMとRが東南アジアへ向かい、オーストラリアに到達。海岸沿いに移動したのは、貝を食糧としていたからではないかとされている。
 東南アジアではBやFが生まれる。東アジアではDが生まれ、そこから北に向かった中に日本に初めてやってきた女性がいたのではないかといわれている。
 インド周辺で生まれたRからは、中近東あたりでUが生まれ、4万年前くらいにはヨーロッパ周辺に広がっていく。Rはまた、中東からシベリアへ行き、バイカル湖周辺でAというタイプが生まれ、地球が寒くなった約2万年前くらいに南下してサハリンから日本に入ってきたのではないかといわれている。また、日本へは南から上ってきたタイプもいるとされている。
 約2万年前、当時、陸続きだったベーリング海峡を渡った人たちは、1万数千年前にアメリカ大陸の南端や内陸部へと広がっていく。
 約6000年前に台湾から南下して航海に乗り出した人たちは、バナナやタロイモ、椰子の実などを持って、フィリピン、パプアニューギニアへ。約3000年前に、ハワイ、ポリネシア、ニュージーランド、そしてイースター島へとたどりついたと推測されるのだそうだ。
 アフリカから出た人数は150〜2000人とされ、回数は1〜数回だったといわれている。

 違うタイプのミトコンドリアDNAが生まれるのは数百世代に一度くらいで、日本人は16タイプの母から生まれたとされているが、世界的に見ると約80くらいに分類されるらしい。
 ミトコンドリアDNAは長寿や運動能力などに関係しているという研究(健康長寿ゲノム探索コア研究チーム)もされており、日本にも多いDというタイプが長寿DNAではないかとされているそうだ。

 ミトコンドリアと核というと、すぐに思い出すのが「パラサイト・イブ」(瀬名秀明著 角川書店)である。小説とはいえ、ミトコンドリアの思いには頷けるものがあり、最後はかわいそうになった。受精のときになぜ父方のDNAが消えてしまうのかわからないが、妄想をふくらませて母系ミトコンドリアの策略かもしれないと考えると、架空の話(「パラサイト・イブ」)なのに、ミトコンドリア良かったなぁと思う。
 母は強し、あるいは子供にとって母親は特別な存在といわれて、父親は少し淋しい気分を味わう。特に、あまり子供と関わらなかった父親はそれが顕著になるようだ。
 しかし、子育てに参加していると胸をはる父親も残念ながら、子育てで疲れていても乳児の夜泣きに必ず目を覚ます母親の比ではないように思う。
 だから、これからは、子育てに参加してくれない夫の悪口を子供に語り、父権を奪いさり、ますます父親をひねくれさせるより、ひそかに、私(母)のミトコンドリアDNAだけが遺伝されているのだと考えているほうが、よほど胸がスッとする、かもしれない。

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