『品格ある日本人』(PHP研究所)を読むときは

2008.2.8

 年をとると涙もろくなる。戦時中の話を語りながら目を潤ませているのを見るだけで、もう涙がこぼれそうになる。これはまずい。立場が逆になる。
 それだけではない。
 報道される様々な話、それどころかフィクションと知りながら、ドラマや映画、そしてアニメにまで。さらに、その話を人に話しながら、まだ涙ぐみそうになっているのに、驚く。以前は、次第にこみ上げてくる涙だったが、年を重ねた今は、さわりのひと言、さりげないワンシーンと、スイッチがあまりにもたくさん散らばりすぎている気がする。
 少し前まで、日本男子たるもの、人前で泣くことは恥とされていた。しかし、そうとはいえない涙も確かにある。
 徐々に男が泣くのも悪くないんじゃない、と思ったのかどうか、最近では、ちょくちょく男も人前で泣くそうだ。なにごとにも、受け入れられることと、受け入れられないことがあると思うのだが。
 しかし、涙を流すことは、特に感動したり、うれしいときの涙にはストレスを発散させる効果がある。涙の規制が比較的少なかった女性も、仕事を持ち、そうもいっていられない状況が増えてきたが、順応性が高いためか、その効用をうまく使っているようだ。たとえば、泣きたいときには泣ける映画を選んで見に行く、というように。
 とすると、ストレスの原因も多くなり、ストレス反応も過敏になっている現代で、男だけに厳しいのは酷、なのだろうか。

『品格ある日本人』ー私たちはどのように行動すれば美しいかー (名越眞之著 PHP研究所 発行)は、著者が学校などで講演したものを中心にまとめたもので、多くの人の要望から本になったことで、さらに感動の輪が広がっている。

「お互いの信頼関係で成り立っている無料の出演だからこそ、高熱でもとりやめるわけにはいかないと言った落語家」「95年前の恩を返すために、危険を承知のうえで、多くの日本人を救ってくれた国」「汚れきった顔、ボロボロの服。ただその両の手にはめた白い手袋に、相手に対する最高の「礼」を込めた日本人」「死を覚悟した家臣と、その行為や姿勢を受けとめて、示した猛将の器」「7人で暗記して届けられた遺書」など。
 凝縮された短い話に次から次へと涙がこぼれそうになる。心の温度が上昇してホッコリした反面、常日頃、目をそむけている自分の醜さや心の狭さに情けなくなり、失ってしまっていたかもしれないものに気づかせてくれたことへの感謝・・・。
 そこで、この本は、通勤電車や喫茶店などで読むのはお勧めしない。心に響いてくるものを、周りを気にすることなく、しっかり受け止められるところで読む方が良い。

 悲しみ、苦しみ、痛み、悔しさ、寂しさ、怒り、そして達成感、喜び、尊敬、信頼など。年をとると、自分の経験に重ね合わせられることが多くなり、同調だけでなく、同化しやすくなるのかもしれない。しかし、涙腺が緩くなるのも、脳による感情や理性のコントロールがソフトになってくるのも、単純にいってしまえば、老化の一つ。
 年をとると丸くなる、というのは真実ではなく、立場やしがらみがなくなることで抑制がなくなり、会社や団体に所属していないことや、これからの人生に対する不安感なども上乗せされて、逆に怒りっぽくなることもあるらしい。
 やはり、感情のコントロールが少しずつ緩くなるのが、原因なのだ。

 小さな子供は、泣いたり、笑ったり、周囲にお構いなしに、めまぐるしく自分の状態を表現する。それが愛らしくもあるが、年をとってそれでは、ただの駄々っ子である。
 しかし、なかには、その感情の露出が、愛らしいと思える人もいる。
 それが、品格なのかもしれない。



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