酒と分解酵素

2006.3.25

さあ、さかずきを満たせ。燃え立つ春の火に、
くよくよ悔いる心の冬服(ふゆぎ)を脱ぎすてよ。
「時」の小鳥は飛ぶ道のりが短いに、
ほら、ごらん、もう飛んでいる、飛んでいる。
「ルバイヤット」第七歌 オーマー・カイヤム/森亮訳(国書刊行会刊)

 花見シーズン。また今年もあらゆるところで宴会が繰り広げられるのだろう。
 酒が強くない私にとって、その様は、呆れるやら、うらやましいやらで複雑な気持ちだ。
「俺の酒が飲めないのか」とばかりに、次々に杯につがれると、正直、勘弁してください、と思ったことが何度かある。上司や同僚、時には取引先と酒を酌み交わすことは仕事ではない、と堂々と言える若い世代が近頃増えているようだが、酒を一緒に飲むことが、親交を深める一番良い方法だと疑いのひとかけらもなかった頃には、「あまり強くないので」と言う言葉を、常に言い訳にするのは憚られた。それ以上に、同性が格好良くグラスをかたむける姿を目の当たりにして、自分の体質を呪ったことの方が大きかったかもしれない。
「飲んでいるうちに強くなる」という先輩や上司のスパルタ式の励ましに、そんなものかと訓練(?)もしてみたが、結局は、格好良くグラスをかたむけるまでには至らずじまい。
 いまでは、酒に強いか弱いかは体質であり、「一気飲み」などによる急性アルコール中毒は生命に関わる危険なものだということも認知されてきたので、さすがに無謀な酒を飲ませる行為は少なくなってきたことと思う。
 ここから酒飲みにとっては夢のない話になると思うが、酒を飲むと胃や小腸で吸収されて血液に溶け込み、肝臓に至る。調べたところ、肝臓でアルコール脱水素酵素(ADH)によりアセトアルデヒドに分解されて、その後、アセトアルデヒド脱水素酵素(ALDH)により酢酸に分解されたものが、血液をめぐって炭酸ガスと水に分解されるそうだ。
 吐き気や頭痛、二日酔いは、この体内にとって有害とされるアセトアルデヒドを分解できなかったためで、もともと体内の分解酵素が少ないか、酵素の働き以上に酒をきこしめたことが原因。この理屈から言うと、「迎え酒」は、相当、体に悪そうだ。ちなみに空腹で飲むと酔いが早いのは、胃が空っぽなのでアルコールの腸吸収が早いため。
 日本人のルーツでいうと、寒冷地に適応した渡来系弥生人の遺伝子を持つ者の方が酒に弱く、日本人の5割程度はこれに属するらしい。米の発酵から偶然酒を発見したというのに、その恩恵をこうむるまでには至らなかったようだ。
 もっと詳しく書くと、アセトアルデヒド脱水素酵素(ALDH)の中でも重要になってくるのが、高濃度になって働くALDH1と低濃度で働くALDH2。片方があればいいというわけではなく、日本人の半数程度はこのALDH2を持っていないとか。両方とも持っていない人に至っては日本人の4〜10%になるそうだ。(この酵素があるかどうかを調べるには、アルコール・パッチテストというものがある)
 まったく持っていなければ、奈良漬けでさえも酔ってしまうので、飲めないこと自体は残念なことかもしれないが、あきらめもつきやすい。
 困るのは、私のように少しは飲めるというタイプだ。幸か不幸か、無理して飲めば飲めないこともないが、それほど飲んでもいないのに二日酔いの症状が出るたび、「ああ、また」と後悔しきり。
 アルコールを分解する酵素には、他にも、ミクロゾームエタノール酸化酵素(MEOS)というものがあり、これは活性化するので、飲む訓練をすれば飲めるようになるのは、このためなのそうだ。しかし、飲むのをやめると元に戻ってしまい、重要なのは、使いすぎると肝臓にかなりのダメージを与えているということである。
 大量飲酒を繰り返してきた人が「年をとって、酒が弱くなった」というのは、酒によるものだけかどうかは別として、肝機能や、分解酵素の機能が低下している状態。
 女性が酒に弱いとされるのは、女性ホルモンが分解酵素の働きを抑制するためで、アルコールを分解する時には、酵素の働きを活性化するビタミンやタンパク質を必要とするそうなので、嫌な言い方をすれば、せっかく摂ったビタミンも使われてしまっているわけだ。
 利尿効果の高い酒は飲んだ後、のどが渇くが、その際、スポーツドリンクを飲むと、アルコール吸収を良くするので酔いやすくなる。(逆使用はしないように。念のため)またビタミン補給とばかりにフルーツジュースなどを飲むと、果糖を肝臓で糖代謝するため、アルコール分解作業中の肝臓にとっては、労力が増すことにもなるそうだ。
 アミノ酸の、ある種類は、飲酒後の分解酵素の活性化を促す効果があるそうだが、たくさん酒を飲もうと思って飲酒前に摂っても、アルコール代謝として使われてしまうので、意味はない。
 夢のない話をするなとしかられそうだが、酒は「百薬の長」、適量なら、体にも精神にも良いのは明らかな事実である。
 私のような酒に弱い体質の場合は、細く長くつきあっていくことが、どうやら合っているようだ。たまに、羽目をはずしながらも。[RYO]

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