私のFENリスニング具体的体験シリーズ(29)

「私の英語遍歴

一つお願いがあります。
この連載をお読み下さる方は
是非、何らかのコメントを下さい

16.FENとZEN(3)

翻って考えて見ると、FENなど本来、
私に聞けるものではない。
FENは他国人の母語だからで、
われわれの日本語もそう易々と
他国の人を寄せつけないように、
英米人の英語も私たち日本人を
そう易々と寄せつけない。

母語は本来そのコミュニティー内で
使われる言葉であって、
その一員として生まれてはじめて
身につくもので、コミュニティー以外の者が
近付こうとしてもそう簡単にはいかないものだ。
テレビにラジオ、映画などのマス・メディアも
基本的に母国人を対象にした母語世界のものであり、
外国人の私に分かるはずのないものだが、
そうとも知らずにやってきた。

理屈で考えればそう易々とできるはずのないものを、
知らぬが仏でやってきたともいえる。
実際、今だからこそ私もこのような
醒めたいい方をしているが、最初は、
読む力がつけば聞けるものと勘違いし、
フランス語でなく、英語である限り、
聞けると錯覚していたようである。
しかし、そう勘違いしたから、ここまで
やってこられたので、他人の母語など
聞けるわけがないと頭で判断していたら、
やろうとすらしなかったかも知れない。

聞くと読むでは意味処理の速さが違う
と前述したが、もっと大きな違いがある。
聞くときは独り相撲で
だれも協力してくれないが、
読むときは協力者がいる。
単語がそうだ。聞く場合は
徹頭徹尾自分一人の耳で、
文の中から単語を切り分けなければならないが、
読む場合は、だれかがすでにそれを切り分け、
その両側に空間を作って単語を浮き彫りに
してくれているから楽々と単語を目で追える。
しかし、聞く場合はそのようにはうまく運ばない。
自分の耳で単語を切り分けられるまでに
10年の半分の5年以上がかかった。
この単語の音を聞くコツが本当に難しい。

そのコツを掴むため、私はFENを日に3時間聞いた。
では、どうしてこの3時間を捻出したのだろうか。
私は、過去のいろいろな経験からリスニングの
習得ほど割に合わないものはない、
いくら時間をかけてもなかなか上達しない、
そう考えてきたから、一日の大切なホットな時間を
これに割く気は毛頭なかった。だから、
同じ割くなら、ないも同然の時間を割こう、
それならうまくいかなくて元々、
仮にうまくいけば儲けものと軽く考えた。
「ながら族」の始まりである。

そこで、朝、目を覚ましてから、夜、眠るまで
毎日やる日常行為といっしょにFENを聞くことにした。
朝6時、目覚め直後にベッドの中で
昨夜録音したウォークマンを30分聞き、
起き上がってからは、着替え、洗面、朝食の最中に聞き、
最寄りの駅までの通勤徒歩13分間も聞いたから、
7時30分の電車に乗り込むまでに約1時間半
聞いたことになる。
新橋駅に着くと、赤坂の会社までの30分、
ウォークマンを聞きながら徒歩通勤する。
夕方、6時にタイマーをセットしてあるから、
7時に退社したとして1時間分はもう録音されている。
生放送は8時までトーク番組が続いているので、
帰途それを聞きながら録音をする。
最寄駅から家までまた聞き、
就寝時に1時間ほど聞くので、
優に一日3時間は聞くことになる。

これは私が巧まずして捻出した時間であり、
お陰で習慣化した。
このような聞き方だから、精神統一して
一心不乱に聞くような姿勢は元々ない。
自然体のリスニングである。
本書では漢字を統一する意味から「聞く」と
しているが、実際には「聴く」こともあれば
「聞く」こともある。つまり、
リスニングの時もあればヒアリングの時もある。
要はわれわれの日常の日本語世界と同じく
一生懸命耳を傾けそばだてることもあれば、
勝手に聞こえてくるのを耳にするだけの時もある。

私はこのいろいろな環境の下でリスニングをして、
注意の大きさを知った。
歩く時は前方に注意しなければならないから
FENにばかり気を取られているわけにはいかないし、
顔を剃る時も注意しなければ皮膚を切るから
FENは少し疎かになる。
それだけ意識のキャパシティーが少なくなる
わけだから、FENが聞きずらくなるのは自然だ。
朝方の静かなベッドの中で聞いている時が
最高の100感度とすると、
新橋駅の雑踏・騒音で歩きながら
聞いている時は最低の10感度だろう。
しかし、そんな雑踏・騒音の中でも
10が聞けることに意義を見出した。
こんな状態で練習するからこそ
聴覚が発達するのだと思う。
最悪の条件下で、だれの助けも借りずに
やらざるをえないFENリスニングは
理屈で考えれば到底できない。
しかし、頭で考えても仕方がない。
FENを聞きたければそんな環境下でも
やる他はない。それは禅の修行に似ている。


以下シリーズ(30)に続く
   以上につき、コメントくださる方