EIJI 岡さんはジャーナリストであると同時に「リクエストQJ」の編集長、で長く美容師のインタビュー記事を書いているんですよね。
 14年間、166回になりますね。基本的に「素人でいたほうがおもしろいインタビューができると思っているんだけど、これだけ長いといろいろ技術のことも分かるようになる。EIJIさんは点で切り、サスーンは線で切る、とか。
最初EIJIさんは「なんて無駄なことをしているんだ」と思っていた。でも線で切るということは、頭が丸いことを考えると少し理屈に合わないことがあるような気がするんだけど。だからEIJIさんは点で切ってるのかな、と。
EIJI 僕がドライで点と線で切るのは、要はイメージしたラインを失敗せずに作るためなんですよ。ウエットは「こうすればこうなる」という教え方なんだけど、人は骨格も髪質も毛量もそれぞれだから、「そうならない」ことが多かった。
 でもドライカットは時間がかかるでしょ。僕は原稿を締め切りに合わせて書いているけど、「もう少し時間があればもっといい原稿が書ける」という気がしてくる。これは幻想なんだけど、カットの場合どうなんだろう。サロンではどのくらいかけて切ってるの。
EIJI 僕で1時間半。これは僕が「きれいだなと思える」仕事ができる最低の時間だと思うから。本当は完璧なものをつくるためには8時間はかかります。
さすがに1回ではそれはできないから何回か来てもらうともっとよくなる。
 どのくらいのサイクルでお客様は来るんですか。
EIJI 2,3ヶ月、長い人は6ヶ月。
 私事だけど、1月もたつと横がぼわっとふくれて収拾がつかなくなるんだけど、6ヶ月なんて。
EIJI 僕が切れば3ヶ月は大丈夫。頭の上と横では髪質や流れも違うから同じように切ったら、当然すぐぼわっとなります。上をブラントで切ってテーパーで調整すれば大丈夫。
 ほかの美容師さんも毛質や流れを見ているはずだけど、EIJIさんとは見方が違うのだろうか。ニューヨークのEIJIサロンにはマニュアルはあるの。
EIJI ないですよ。僕はいつもスタッフに「よく見て考えろ」と言ってる。来た客を見て「あの人の髪はこうだからこうだよね」と伝え、切ったあとに「こうしたほうがもっとよくなる」という教え方をしている。その繰り返しですよ。
10年キャリアのある人でもドライカット初心者は1年は必ずアシスタントになってもらう。最低100ドルとるわけだからへたな仕事はさせられない。
 EIJIさんが250ドルとるわけでしょ。日本では考えられないね。
EIJI 日本で教え始めた10年前、「1万円をとるカット」なんて無理、って言われましたよ。でもいま最初に教えた人たちの中には、1万円以上とって予約がうまる人もいる。
 EIJIさんのサロンのスタッフは毎日EIJIさんから教えてもらえるけど、日本の人たちはどうやって勉強してきたんだろう。
EIJI 年2回しか教えることができないけど、彼らは自分たちで研究会を開いて復習を繰り返して半年後に僕に確認するという過程を繰り返してきた人たちなんです。いまではうちのスタッフをくらべても遜色ない技術者ですよ。
今回、モデルさんたちはそれぞれ骨格・髪質・毛量バラバラだけど、ベストのスタイルを提供しています。客の悩みを解くヒントがみつかるはず。
 EIJIさんが教えはじめて10年以上たつ。続けているのはなぜですか。
EIJI 僕は才能がない、努力だけの男。だめな僕がシビアなニューヨークでトップにいる。だからどんな人でもうまくなれるはずだと思ってる。これからもっとすごい人が現れる、そのために教えているんです。
 ほかの美容師にインタビューすると、最近は削ぐ技術ばかりでワンレングス、レイヤーを教えない傾向があると。それではまずいと言ってますね。頭は丸い、だから点で切るというのはすごく合点がいく。3000円から10000円になる技術力、美容の世界を変える。
EIJI 20人切るのを10人にすると、いい仕事ができるし気持ちがいいはず。
だいたいお客の満足を考えるべきだし、岡さんだって文章を書くとき相手のことを考えるでしょ。いい文章で表現したいって。
 自分との闘い。インタビューそのままを書けば仕事になるんだけど、その人の生き様を忠実に表現するときは苦しみますね。人にはみんな変節がある、子供でもね。
EIJI その変節って「何かを探し求めてもがく」時期のことですよね。僕はそういう人に教えて、自分や技術を見いだしていく人に会うことがすごくうれしいんですよね。



トークが終わったあと、「リクエストQJ」で特集されたNYドライカットの補足として、EIJIがモデルの髪をアレンジして、多様性を示した。