り・ぱるす ≪後編≫

by詠月(SELENADE)







――――― RE-PULSE ―――――



「はあ、はあ」

夜の街中を留美は走っていた。

追われていた

なんでこんなことに……全部あいつがいけなんだから!

イブ前日
留美は明日のパーティの飾り付けの手伝いに広瀬の家に行った。
その帰り道でのことだった……

一人夜道を歩いているとき、留美は自分に近づいてくる足音を聞いた。
どこまでも留美を追ってくる足音。
その足音の主を浩平と思い込んだのも無理も無いことだった。

浩平ならば容赦はしない。
留美は近づく足音に向かって体当たりした。
だが相手は浩平では無かった……
謝る留美
しかしその男は初めから留美目当てに近づいたゴロツキだったのだ。
仲間を呼んだゴロツキは『おとしまえ』だのなんだのと言い張って強引に留美に迫った。
すんでのところで逃げ出したものの、諦めの悪いゴロツキ達は車で追いかけてきたのだ。



留美は高台の公園に続く石段を駆け上がる、車が入れないことを考えてのことだ。
その後は何とかなる、と留美は考えていた。

「待ちやがれー!!」

甘かった……連中は車を降りて追い掛けてくる
走り通しの留美には、きつい。

もう、こうなったら公園を抜けて学校裏まで逃げるしかないかな……
竹刀があれば、あんな奴等に負けやしないのに……

さすがに休日の行動までは浩平に感づかれまいと、留美は竹刀を持ってきていなかった。



公園の入口まで後少しというところで、留美のペースは徐々に落ちていく。



「痛ってぇ!」叫び声、それも留美のすぐ後ろで……傍までゴロツキ達が迫っていたのだ。

「七瀬! 早く来い!」階段の上側から聞き覚えのある声がした。

目前の入口に人影が見える、
そこに立っていたのは留美が世界で一番会いたく無い男……



留美が公園にたどり着くと

「これを使え!」

浩平が留美に木の棒を投げ渡した。
竹刀がわりには丁度いい長さの……木刀と言っても良いほど頑丈そうなものだった。

試しに振って確かめる。

ヒュッ

「よーし、これなら」


浩平は連中が簡単に上がってこれないよう、石を投げつけ時間を稼ぐ、
その間、留美は息を整える。


「来たぞ! 七瀬、全部で五人だ!」浩平が引く

「このがきゃー!!」
「ぶっころす!」

ものすごい形相でごろつき達が公園に飛び込んできた。

外灯の真下にいる浩平に向かって連中が迫る。


ドコッ!


「ぎひぃ」その声を残して一人が倒れた。

背後からの留美の攻撃、このさい武士道なんか気にしてられない。

かつて剣道に青春を賭けていた七瀬、
ブランクは有ったもののその動きは鋭く、敵を間合い外から叩き潰していく。

浩平の援護もあってゴロツキ共は一人また一人と留美の剣の餌食となってゆく、
……あっけないほど簡単に……



「最後はあんたね………」

残るは、なんくせをつけ留美を執拗に追いかけた、あのクズ只一人。

「ひ……」

留美の強さをまざまざと見せ付けられ、既に戦意など失せている。

「うわぁぁぁぁぁぁ!!!!」

逃げようとする男の前に浩平が立ちはだかった。


バッシャーン!


豪快な水飛沫と共に戦いは終わった

男は浩平によって噴水に叩き落とされたのだ。



半殺しになったゴロツキ共は捨て台詞を吐く余裕も無く逃げていった。





「いてて……」
「私に任せとけばよかったのに」
「助けてやったのに、それはないだろ〜七瀬」

ようやく打ち解けそうな雰囲気の二人………

ぽつりぽつりと話す浩平、今度ばかりは留美も真剣に耳を傾ける。


みさおとの悲しい別れ、瑞佳との出会いと盟約
それによって生じた永遠の世界………
留美との甘い思い出、教室での破局
そして盟約の履行………


留美には信じがたい話だった、
が、なにかが心の中で引っかかる………

胸の鼓動が早くなるのを留美は感じた。

「な、信じてくれよ、七瀬………」

認めたい、でも否定したい、その迷いが留美にあらぬことを口走らせる。

「そんな荒唐無稽な話、信じろって言うの? 私に………」

「もう、おまえしかいないんだ、オレには………たのむ………」

「私が子供っぽい夢ばかり見ているから……そんな話考えたの?」

「し、信じてくれよお!!」

「おとぎ話みたいに、お姫様のピンチを救う王子様になりたかったの?
そうやって私を陥れるためにさっきの連中を差し向けた………
私にとってはそっちの方が信じられるわ」

浩平はぎゅっと拳を握り締め、下を俯いた。
僅かに肩が震えている………


「………七瀬……そんなにオレのことが信じられないのかよ!
だったら………もっと信じられなくしてやるよ!! あん時みたいにな!!」

留美におそいかかる浩平、
だが木刀を持った留美の敵ではない。

打たれまくる浩平………

留美は何度も浩平をなだめようとした。
しかし、近づく留美に浩平は容赦なく襲い掛かろうとする。
その狂える気迫に留美は剣で応じるしかなかった………

俊敏さを失った浩平には留美の剣を避けることなど疾うに出来ない。
それでも浩平はうめきながら………何度も立ちあがり留美に向かっていく。
まるで留美に打ちのめされることを望んでいるかのように…………


バシッ!!


留美の強烈な一撃が浩平の右脇腹に決まり、
浩平はとうとう立ち上がれなくなった………





ようやく浩平の荒い息が収まり……

「消えるとおもったんだがなあ、ははは………
痛ててっ、おかげで、ボコボコだあ………これなら、嫌ってくれた方がましだぜ………
おめーが、本当にオレを嫌えば、心底憎めば、オレはこの世界にはいられねーんだからなあ………
やっぱり、おめーはどっかでオレを必要としてるっつーのか………へへっ………」

薄ら笑いを浮かべていた浩平の顔が歪む…………痛みに…………心の痛みに…………

「…………なのに、なんでだよ……ななせえ………はぁうっ……………
なんで…………思い出してくれねーんだよおおおおおお!!」

浩平の絞り出すような悲しい叫び………

それに呼応するように留美に胸の高まりが襲う………
あの夢と同じ狂おしいほどの胸の高まりが………


カラン


留美の手から木刀が滑り落ちた。

「おり………は……ら? 折原!?」

「う……ぁ? 七瀬………分かるのか、オレの事?」

「あたし………あ…………うっ、うあぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」

留美の瞳から涙が零れる……
彼女の心に浩平の記憶が甦った瞬間だった。

膝をつき、傷だらけの浩平をそっと抱きしめる留美………

「あっ、はぅっ、どうして私………忘れてたのかなあ、折原のこと………
許して………お願い………私を許して………」

「オレがおまえを信じきれなかったんだ……
悪いのはオレだよ……ゴメンな……七瀬………」

「解いてくれたんだね……私の呪いを……ありがとう、折原……私の王子様………」

「違うって……そいつはオレの呪いなんだ、
七瀬が解いてくれたんだ……七瀬が望まない限り………オレは戻ってこれないんだから」

「ううん………やっぱり折原は私の王子様だよ………」



渡された木刀で体を支え立ち上がろうとする浩平。

「ほらあ折原、危ないって」

一人では立ち上がれそうにない浩平に手を貸す留美、
屈んだ時、浩平の傍に書かれた赤いチョークの印が留美の目に入った。
よく見ると地面の所々に印が書いてある。

「これって……ダンスのステップ………」

それは、明日のイブに留美とダンスをするために浩平が書いたものだった。

「いやなあ、おまえとダンスでもすれば思い出してくれるかなって………」

「折原……(赤面)………でもさ、どうやってここに私を連れてくるつもりだったの?
記憶ないんじゃ折原の言うことなんか私聞くわけないよ?」
「ふっふっふっ、それはだなあ」

浩平はニヤリと笑って杖代わりにしていた木刀を留美の前に突き出す。

「あっきれたあ〜〜!! 私とやるつもりだったのぉ」

「だって、そうでもしなきゃ七瀬に近づけないだろ? それに、これでも俺の方が不利だぞ」

「はぁ〜〜〜 、君に殺されるなら本望だとか言えないの、そう言ってくれたら私メロメロになるのにぃ」

「いや、実際、今、殺られてわかったんだが」

「殺ってないっ!」

「七瀬の一太刀をもろに食らって、それが言えたら、そいつはおそらく自殺志願者かバカのどちらかだな」

「なんですってぇ!」



なんのかんの言い合いながらも再会を喜び合う二人。
しかし………

「この街を離れるって……どうして!? 」

「そう熱くなるなよ、七瀬」

「理由は? 聞かせてよ!」

「ここに戻ってきてから、何度も知り合いと街中で出会ったよ………由起子さん、長森、住井………
すれ違う度……振り向くオレが見るのは……そいつらの背中………」

「おりはら………」

「決して振り向いてくれないんだよ……これからも……辛いよ……正直………」

「…………」

「心配するな、電話で連絡取り合って、週末にでもどっかで落ち合うようにすれば……」

「ヤダよう! 私もう折原と別れたくない……離れたら私……また折原の事忘れちゃうよう………」

「そんときゃ、また七瀬に殴られに来るよ………」

「ばかぁ!! ……さっき言ったばかりじゃないかあ!
私に殴られたがるのは……自殺志願者かバカだって………」

「多分……バカなんだろうな、オレは………」

「……わかったわよ、じゃあ私も連れてってよ」

「学校どうするんだよ? それに受験も」

「捨てるわよ……全部……」

「おい! 」

「あんたがバカなら私もバカになってやるわよ!」

留美の決意は固かった。

「……付いてくよ………私、何処までも折原に付いてくよ!」

「本気なのか? 七瀬」

「こんな恥ずかしい台詞、冗談で言えるわけ無いじゃない!
それとも、もっと恥ずかしい台詞を私の口から言わせたいの………」

夜の公園にいつもの静けさが戻った。
傷だらけの男と顔を真っ赤にした女の子がうつむき合い……沈黙している。



「七瀬………明日の終業式ぐらい出席しろよ」

「え!? じゃあ………」

「明日の夜、ここでダンスをしようぜ、それでこの街ともおさらばだ」

「……うん! キムチラーメンなんか食べてきたら許さないわよ、折原!」





翌日、最後に友達に会うため留美は学校に顔を出した。

教室までの足取りはいつになく重かった。

弱ったなあ、真希になんて言おう……
でも、ほんとのこと言っても信じてくれないだろうし……
許してくれるかな……真希…………別れも告げずに消える私を………
真希、ごめんね……でも私はこの愛に生きるの………

なんだか学校中が妙に騒がしかった……自分が感傷にふけっているせいかな、と留美は思った……

違った……

「あ! 長森! 七瀬さんが来たよー!」

「七瀬さ〜ん」泣きじゃくって留美にすがり付く長森……

驚いてる暇もなく留美の周りにクラスメート達が集まってきた。

「え? えっ?」事態を飲み込めない留美。

その人だかりの外側で、広瀬が留美に向かって手を合わせて謝っていた。

「ごめ〜ん、七瀬、みんなが五月蝿くって、つい……ね」

浩平の所在を留美が知っていると広瀬が口を滑らせたばっかりに招いた事態だった。

そう……騒がしかったのは、浩平の不在に気づいたクラスメート達のパニックの為………

そして………





オレは公園に向かっていた……七瀬と落ち合うために……

まずいな、遅くなっちまった……
殴られるのはいいとしても、
よもや帰っちゃいないだろうなあ……

なんてこと考えてるうち階段を上りきってしまった。

七瀬は公園で待っていてくれた。
ちょうど一年前と同じ格好、戻ってきてから一度も見ることがなかった、前の学校の制服で………

「驚いたな………七瀬のことだから、てっきりドレスでも着てくるんじゃないかと思ってたよ」
「あの日に戻りたかったんだ……だめ……かな?」
「いや……最高の演出だ」

高台の公園は満天の星空、
その下で踊る二人……

「このダンスが終わったら……もう帰れなくなるのね……私達………」
「ああ……嫌……か?」
「ううん、折原がいれば……それでいいの……でも………」
「でも?」
「今だって恐いんだ、また私が折原のこと忘れてしまったらって………」
「なんだ、そんなこと」
「折原、約束して……もし、今度私が折原を忘れて……記憶が戻らなかったら………」
「おいおい、そりゃ大変だな…オレ七瀬に袋叩きにされちまうのかな……今度こそ命が危ないな」
「ううん……その時は……その時は、わたしを………殺しても……側にいさせて………」

オレはダンスを止めた……そして、ぎゅっと七瀬を抱きしめた。

「そんなこと……そんなこと、冗談でも言うんじゃねえ!」
「でも、でもぉ………」

涙に濡れる七瀬の瞳を見れば……その言葉が冗談であるはずがない。

せつなさが互いの唇を引き合わせる………

その衝動に抗う術を二人は持っていない………



オレは七瀬にリボンのかかった小さな箱を渡した。

「七瀬、受け取ってくれ、バイトの日浅いんで大した物じゃないけど……」
「折原ぁ……ありがと………私のプレゼントも受けっとってくれる。」
「ああ、もちろん」


パシャン、パシャン


突然二人にスポットライトが当たる。


パン、パパン、パパパン


夜の公園にけたたましいクラッカーの音が響き渡る。

「なんだ、なんなんだ!?」

ライトの眩しさに慣れたオレの目に入ってきたもの……
それは公園の階段上に勢揃いした担任の髭以下50名に及ぶクラスの連中だった。
それだけじゃない、みさき先輩、深山さん、繭それに詩子までいる。
ライトの後ろで一生懸命手を振っているのは…………澪か。

  住井:「いや―――すっばらしいよ浩平君! そのクサイ演技!」
     (鼻メガネに三角帽、服は上下とも紅白の縦縞という格好は……サンタクロース……の訳がない)
  深山:「そんなことないって、うまいよ、ね、みさき」(8ミリビデオを構えながら)
 みさき:「ふうふうふぁふぁふぇんふぁへ、ふぉふぇひかふぁふぁんふぁいふぇほ…」
  深山:「チキン頬張りながらしゃべんないでよ!………お願いだからさ………」
 みさき:「97点だね、声しかわかんないけど、すんごくぐっときたよ。やっぱり脚本が良いとちがうね」

  広瀬:「見てらんないよお、こっちが恥ずかしくってさ。でもほんと、七瀬こういうの好きだね〜〜」

    繭:「みゅ〜〜、みゅ〜〜」(二人の所に行きたがっているのだが、瑞佳に後ろから抱きすくめられてる)
  長森:「だめだよ繭、今、みゅ〜のお姉ちゃんは、大切なとこなんだから……ね」(ほんの少し寂しげ……)

    澪:『すてきなの』(ライトでの影絵がその文字を二人の足元に映し出している)

    茜:「以外でしたね……」
  詩子:「いいなあ〜〜、私もこういうのやりた〜い」
    茜:「詩子……」
  詩子:「何? 茜、私には無理だって言うのぉ?」
    茜:「いいえ、その逆です」
  詩子:「ほえ?」
    茜:「いつか私たちにもこういう時が来ますから……必ず………」


「な・な・せぇ? どういうこっちゃ、コレ?」
にっこり笑いながら留美が言う、
「私から折原へのプレゼントよ」
「あう?」
「だからぁ、私の愛が折原の呪いを解いたんだよ」
「いや………そうでなくて………」
「とにかく、これで駆け落ちせずに済むじゃん」

その言葉に女子達から一斉に悲鳴とも喚声ともとれる黄色い声があがった。

   住井:「友達甲斐の無い奴だなあ、こんなに祝福してやっている俺達を捨てる気だったのかあ!?
       一年近くみんなで君の帰りを心待ちにしていたのに……それを……」(嘘泣)
   浩平:「何言ってやがる! 昨日まで俺の事なんか綺麗さっぱり忘れてたくせに!!」
   住井:「ひどい! ひどすぎるう!!うあーん!! 先生!!僕たちの想いは踏みにじられましたあ!!」
     髭:「折原……んあー……どうやら、教育的指導が必要だな……」
   住井:「殿! ご決断を」
     髭:「うむ……ゆけい! ものども!!」
   住井:「天誅じゃー!」
男子一同:「「「……「「「 ウォ―――――――!! 」」」……」」」
コスプレした一団:
        「「「「「ぬう〜〜ん、許さん! 折原浩平! 我らがななぴーを渡してなるものかあ!!」」」」」


男達が階段を駆け下り、オレに向かって突進してくる。

あまりに突然な展開にオレは……呆け……そんな暇なんかあるわきゃない!!
迫り来る敵の群れを前に思わずオレはこう叫んでいた。


「ななせえええええっ!! おーのー! ちっきしょう、やりやがったなあ!」(即死デス)





「おい南! おまえオレになんの恨みがあって、こんなことを………」
「すまん、浩平……お上の意向には逆らえんのだ」
「だったら手加減しろ!」
「何を言うんだ………折原、
滅多に無いこんなチャンスをみすみす見逃すほど俺はお人好しじゃない
……頼む折原……一度でいい……一度でいいから俺に殴られてくれぇぇぇ!」
「いやじゃぁぁぁぁぁ!!」



ぽかっ

「やあ、折原君、こんな所で会うとは奇遇だね」
「氷上! お前の挨拶はいつからゲンコツになったんだ!? しかも背後から……
大体何で、ここにお前がいる?」
「細かいことは気にしない」
「お前オレの苦労、知ってるんだろーが! オレと同類だったら、なんで味方になってくれねえんだよ!」
「(小声で)………うらやましいからさ、キミが」
「何だって? 聞こえねーよ!」
「いっくよー」
「おい、待てっ」

ごすっ

「待てっちゅうとんじゃ! 裏切り者ぉぉぉぉ!!」



「こらっ!、住井いぃ、極め技は止めろ! オレは怪我してるんだぞ!
っ痛ぇ――――――――!!」
(↑七瀬にやられて出来た青あざに絞めが入った)



「髭えぇ! おまえ教育者だろ! あおってどうする! この不良教師があああああああああっ!!」

「無駄だよ浩平、ふふ、今の髭に何を言ってもね」と、したり顔の住井、鼻メガネ姿で笑う顔は変に不気味だ。
「う、酒くせえ……そうか、おまえら、酔っぱらってるな!!」
「この寒空の下で、おまえが来るのを待っていたんだぞ、酒でもなきゃやってらんねーよ!」
「髭を真っ先に落としたんだな……?」
「そのとーり!!」
「……さすが住井、オレの終生のライバルにふさわしい!」
「お褒めいただいて光栄の至りぃ……」
「隙有イィ!!」


ドゴ!


鮮やかな回し蹴りだった。

「ぐ…こうへ…い……見事……おまえに斬られて本望だよ……」
「斬っとらん! ったく、寝てろ、ヨッパライ!」

精一杯格好付けて倒れたつもりでも、
傍から見れば地面に転がる食い○れ人形にしか見えない哀れな住井であった。
(いや、知っててやっているのかもしれないが………)





留美は階段の中ほどに腰掛けて浩平の奮戦を眺めていた。


ぴと


「ひゃっ!?」留美の頬になにか熱いものが触れた。

後ろを振り向くと、缶コーヒーを両手に持った広瀬がそこにいた。
「なーんだ、真希かぁ」
留美にコーヒーを渡す広瀬。
「わ、あったかーい、ありがとね」
広瀬は留美の横に腰掛け……
「七瀬……」と沈んだ声でぽつりと言った。
「どうしたの? 真希」
「どうしたのじゃないわよ、何よこの有り様、ぶち壊しじゃない!」
「え? ああ……うーん、予定外だけど、ま、いいんじゃないかなあ〜、お姫様気分も満喫できたし」
「無責任だねぇ、こんなもの見るため手伝ったわけじゃないよ、
まったく……三日も掛けたうちのパーティをふいにしといてさ」

そんな広瀬の愚痴も留美の耳には届かないようだった……何故なら………

「お!? がんばれ〜! おりはらぁ〜!!」

目の前では東○戦隊物コスプレ五人衆が浩平の前で大見得を切っている所だったのだ。

「真希、五人掛りってのはちょっとずるいよねぇ?」
「はあ〜〜」広瀬の大きなため息は寒さで白くなっていた。



「ねえ、七瀬」

「ん?」

「いいの、止めなくて?」

「いいのよ、さんざ引っ掻き回されたんだから……
あのお調子者には……丁度良いお灸だわ、それに……」

「それに?」

「あいつ、案外喜んでるみたい……みんなに構ってもらってさ……」





……畜生、なんで涙が止まらねーんだ……痛いから……じゃない……


……そうか……嬉しいから……か………



みんなからの手荒い祝福……それは、オレが戻ってきた証………


七瀬の……みんなの……そして自分の……心の鼓動が確かに感じられるこの世界に………


そう、輝く季節に………



END
1999/05/28UP

 住井:男子側総責任者、企画、セットアップ、日本酒調達、パーティグッズ調達
    『折原浩平に天誅を!の会』会長(尚当日10:23結成)
    それ以外にも色々な肩書きを持つ
    (例えば御毒味役と称して料理を片っ端からつまみ食いしたり……)

 広瀬:女子側総責任者、住井の暴走防止(見ての通り失敗)
    教室の飾り付け担当(実はこの後、教室で二次会があるのさ♪ 飾り付けの殆どが家からの持ち出し)
    (ビデオ撮影を任されるも七瀬の芝居に耐え切れず深山に撮影を交代してもらう)

 深山:七瀬セリフ指導およびダンス指導、演劇部との折衝(大道具、小道具類の借り入れ)

みさき:シナリオ作成、演出(もっと濃厚なラブシーンを予定したが七瀬に却下された)

   澪:七瀬演技指導、照明『暗いとこわいの』(………だそうです)

   繭:ハンバーガー調達(全部てりやき………)

   茜:ケーキ制作班のリーダー
    (とてもおいしく、みんなから大好評、にもかかわらず当人は出来に満足していない………何故だ)

 長森:心中複雑……
    「でも、泣かないよ……浩平が帰ってきてくれたんだもん……それだけでいいんだもん………」

 詩子:野次馬(笑)
    「そんなことないよ、私ものすごく役に立ったんだから」
    (ふうん、じゃあ聞かせていただきましょうか)
    「あのね、茜のケーキのお砂糖の量加減したのは私なんだよ」
    (おお!それは確かに素晴らしい貢献だ!!)

シュン:どさくさまぎれ「違う、運命が僕らを引き寄せたんだ」

   髭:飲まされてへべれけ、以後住井の傀儡(正気に戻った時が楽しみだ)

 中崎:スポンサー、シャンパン調達、
    趣味のコスプレから今回は特撮物をチョイス(もちろんリーダー)
    当然住井の衣装もこいつからのレンタル品

 南森:スポンサーその2、七面鳥、ツリー、パーティグッズ調達、
    打倒折原を合い言葉にライバル中崎と手を組む(が、コスプレまでさせられるとは思ってなかった)

   南:丁稚マン1号(2号は沢口君………て、同じじゃ!)







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