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Sweet Liberty / Lyrics

The Gem of the Roe / ジェム・オブ・ザ・ロー

traditional song,

arranged by Cara Dillon and Sam Lakeman

Label : Rough Trade, Number : RTRADECD123
Recorded by Sam Lakeman
オカハン族が治めし国
そこは険しい山々の立ち並ぶ荒涼たる大地、
うねり立つ山頂には暗雲さえ飛びかう
そんな国の谷深く、咲き誇りしは一輪の花
その娘の名はフィンボラ、
彼女こそはロー川の至宝

アイラ島より我らの前に参じたのは
タータンの衣服を纏うひとりの若者、
およそ見慣れぬ光景ながら、これ誠の真実
その胸には星を模した勲章をかかげ、
武具となる弓はその弦を弛めていた
彼はフィンボラに愛を告げに来たのだ
我らがロー川の至宝、フィンボラに

ロー川が至宝、ロー川が育んだ宝玉
彼はフィンボラに求愛したのだ、
我らがロー川の至宝に

彼はスコットランドへと花嫁を連れ帰った
しかし、二人が愛を分かち合えたのは
わずか数年のこととなった
山中にて幾度となくバンシーがすすり泣く・・・
それはフィンボラの死を意味した

ロー川が至宝、ロー川が育んだ宝玉
我らがロー川の至宝である、
フィンボラの死が告げられたのだ

女官達と小川を駆け上るあの姿を、
もう目にすることはないのだ
頬の色はまるで血の気をなくし、
その青き瞳は暗く曇ってしまった
無言の帰還に悲しみだけが去来する
ロー川の至宝、フィンボラの死によって

(補足)

あるハープ奏者が史実をもとに書いたと言われる曲で、 カーラの故郷である北アイルランドのダンギブンでは 古くから地元の人々の間でよく知られているそうです。
歌詞からは悲劇を綴った曲であるような印象を受けますが、 実際のストーリーはアイルランドならではの風土色を 感じさせる、たいへん興味深いものです。
長いですが、ぜひ以下の補足にもお目通しください。

【O'Cahan - オカハン族】

英国の統治下に置かれる以前のアイルランドやスコット ランドでは、部族がそれぞれの領地を治めていました。
オカハン族は、現在の北アイルランド・デリー州の ダンギブンを中心に広範囲を治める強大な部族でした。
15世紀前半まで族長に君臨したダーモット・オカハンは、 ダンギブンの中心を流れるロー川、その谷間に突き出した 巨大な岩上に、彼の居城のひとつを建造したと言われています。

【Finvola - フィンボラ】

部族長ダーモット・オカハンには12人の息子と1人の娘が いましたが、その娘の名がフィンボラです。
心優しく、さらには気品と美貌も兼ね備えた彼女は 「ロー川の至宝」と呼ばれ、人々にも慕われていました。

部族長ダーモットは船による外交も頻繁に行っており、 その際にはよくフィンボラも帯同させました。
ある日、帰路の途中で嵐に遭い船は難破、あやうく 漂流しかけたところを一隻のボートに救われます。
ボートの主は巨漢の男、いわゆるハイランダーで、 一行を最寄りの大きな城へと案内します。
その城は、やはりスコットランドで強大な勢力を 保持するマクドナルド族の居城でしたので、 ダーモットは警戒心を強めます。しかし、その巨漢 の男は静かな口調で彼らの身の安全を約束します。

男の言葉どおり、一行はマクドナルド族の長に 手厚く接待され、数週間を城で過ごしました。
ダーモット一行が無事アイルランドに戻って 間もなく、ひとりの若者の、予期せぬ訪問を受けます。
その若者の名はアンガス、マクドナルド族の 王子でした。彼はフィンボラの滞在中に彼女を 見初め、求婚するために海を渡ってきたのです。 従者はわずかに一人、それは彼にとって決死の 覚悟を示すものでした。

ダーモットはその意を汲んで彼を歓待、ある条件付きで 結婚を承諾します。その条件とは、フィンボラがその 人生を終えた際には必ず故郷に連れ戻る、というもの でした。
アンガスがその条件を受け入れたため、フィンボラは 12人の女官と共に航海の途に就きます。多くの人々が 彼女との別れを惜しみ、頬に涙しました。

【Banshee - バンシー】

バンシーは女の妖精。誰かに死が迫ると、その泣き声で 家族に知らせると言われています。

マクドナルド族を守護するバンシー、グラミー・ローの泣く 声がベンブラダ山で聞かれるようになりました。それは 夜ごと、深夜から明け方まで続いたと言われます。
これをフィンボラの死と察したダーモットは、兵と 歌人らを従え船を出します。かつて訪れたマクドナルド 族の城、その眼前の浜辺で、ダーモットは歌人達と共に フィンボラを哀れむ歌を詠唱します。
故郷の地と家族から離れ、寂しい思いをしている彼女を アイルランドに返してやってほしい・・・。
そんな願いを込めた歌にも、城は沈黙を続けました。

仕方なく墓地の入り口まで歩を進めた彼ら一行の前に、 大剣を携えたハイランダーが立ちはだかります。
押し問答の末、お互い退くに退けぬ両者が斬りかかった まさにその時、
「友よ、剣を収めてくれ!」
叫んだ声の主は、アンガスその人でした。
「全ての非は私にある。
  だがどうか理解してほしい・・・
  彼女を愛するがゆえの過ちであったことを・・・」
そう訴えて泣き崩れるアンガスを見て、ダーモットは 全てを察します。短い間ながらも、二人が確実に愛を分かち 合っていたこと、幸せな日々を過ごしていたことを。
彼は愛する妻の突然の死に直面し、あまりの悲しみから かつての約束を果たせずにいたのです。
ダーモットは悲嘆に暮れるアンガスに深く同情し、その地に しばらく滞在して共に故人を弔ったと言われています。

その後フィンボラは盟約に従い、故郷アイルランドに無言の 帰還を果たしました。ダンギブンの町を見下ろす古い寺院。 今も残るその寺院で、フィンボラは安らかに眠っています。 オカハン族の祖先、そして家族らと共に・・・。