Chasing The Rainbow 《1-3》

On The Fox Trot

by詠月(SELENADE)







「なあ、あゆ」

「なに、祐一君?」

祐一君と二人で坂道を下りながらの会話
お買い物だもんね〜♪

「昨日、夜の11時くらいに
 一際でっけえ『うぐぅ』を聞いたんだが……どっちのあゆのだ?」

「うぐぅ、ボク…ごめんなさい……」

なにさ、それぇ〜
雰囲気ぶちこわしだよぉ



「そうか、やっぱりな……」

思わせぶりにうなずく祐一君

こうなると、訊いてみたくなるんだよね



「やっぱりって?」

「で、何食わされた?」

…ええっ! どうして判るの!?

ボクの顔を見て取って笑いだす祐一君

「わはは、図星か〜」



「でも、あゆちゃんお料理、得意なんだねー」

「おう、秋子さんクラスの腕前だ、特に煮物は超えているな」

「へぇ〜、凄いや」

「あくまで普通に作れば…の話なんだけど」

「え、あ、それってさ」

「…察しの通りだ
 あのジャムを通じてキワモノにも目覚めちまってな…」

「…やっぱり」

「最近はほぼ五対五の割合で出してくるからなあ、俺の前に」

「夕ご飯とかに?」

「んにゃ、試食……」

「あいつ、上手いこと仕上げるんだよ
 口に入れるまでさっぱりわからん
 地獄極楽…究極の二択…正直たまらんよ」

「それって、祐一君にだけ?」

「そうだな、本人は俺に満足してもらいたがってるらしいんだが、
 正直癖の強いのは勘弁してほしいなぁ」


う〜ん、祐一君も大変だね〜
でも、あゆちゃんのことだから
大真面目なんだろうな……


あ、商店街が見えてきた
たしか商店街の入り口で真琴ちゃんと合流するんだったね









「いないね」

「まあ…あいつはいつもこんな調子だから」

「待ってようよ、すぐ来るかもしれないからさ」





《十分経過…》

「…遅いね」

「甘く見たな。こんなこと真琴はしょっちゅうさ…」

真琴ちゃんか……

「ねえ、祐一君」

「ん、何だ?」

「ちょっと訊きたかったことがあったんだ」

「真琴ちゃんのことなんだけど」

「お、それはなかなかナイスな企画だ」

「企画じゃないよ〜」

「数多い伝説を残した平成非常識少女、真琴!!」

「大自然が生みだした野生児のなせる技なのか、
 その非常識ぶりには、驚かされることばかり!」



昨日、黙り込んだときのこと訊きたいだけなんだけどなぁ
どうしてこんな話になっちゃったんだろ……

それからは祐一君の独壇場
身振り手振り、つばきが飛んでの大熱演

出会った時に、祐一君に飛び込んできて
突き飛ばされた祐一君があやうく車に轢かれそうになった話

肉まんが大好きになって、
朝昼夕1週間連続で肉まんを食べた話

仔ネコ捕まえようとして高架橋から飛び降りた話とか
(幸いにも落ちたとこがトラックの荷台だったから擦り傷で済んだそうなんだけど、
 それで仔ネコといっしょに隣街まで連れてかれたんだって…凄いよね…)



そこまではいいとして、
この話……

「えぇっ、ウソだあ!!」

「いや、ホントなんだってこれが」

「でも、それものすごく昔の話でしょ」

「んにゃ、俺が高校入ったときのころ」

「じゃあ真琴ちゃん……」

「な、どう考えても、とんでもないだろう」

「一緒にお風呂なんて……そんなぁ……」

「正しくは、あいつが後から入ってきたんだ」

「だれもはいっていないって勘違いしたんだ、真琴ちゃん」

「う〜ん、違うと思うぞ、
 入ってすぐ俺に気づいても驚かなかったからな」

「え、そうなの!?」

「あんなもの見せられたもんだから、湯船から出るに出られず、
 湯あたりしちまった、ほんとひどい目にあった」

「……ね、それはどういう意味?」

「あ、いや」

「ね、どういう意味なの?」

「いろいろなあ…あるんだよっ! 男には……なぁ!」

それ以上、祐一君は話してくれなかった……

う〜ん、歯切れ悪いなあ、
やっぱりウソの話っぽいよ、これだけは。
とりあえずは、話半分で聞いておこうっと。



「祐一」

「どわぁぁぁぁ!!!」

後ろから声と同時に祐一君の叫び声
ふりむくと

「あ、真琴ちゃん」

わあっ、頭に猫さん乗せてるよ〜♪

「こんにちはー」

真琴ちゃんの横に立ってる男の子が
ボク達にぺこりとお辞儀。

この子…だれなんだろう、
見たこと無い男の子だけど……



「驚かせるなよ、真琴!」

「なにが? 別に声張り上げて脅かしたわけじゃないわよ」

「嘘だ、気配消して近づいてきただろうが!」

「そんなことないわよ!」

「鈴の音一つ聞こえないなんて不自然だ!
 いつもあれだけ鳴らしてたってのに」

「ぐっ……」

「驚かすため…ゆっくり近づいてきたんだろ!」

「祐一の方こそわめき散らしてみっともない、
 もうちょっと大人になりなさいよ」

「お前こそ、遅れてくるんじゃねーよ!」

「20分遅れただけ! 怒鳴られる筋合いなんかないわよ」

「まこちゃん…町中であまり大声出さない方が……」

「わかってるわよぅ」

「遅れた罰だ、荷物倍の刑を宣告する」

「えぇ〜〜! 一弥まで巻き込むっていうの!」

「何言ってんだよ、俺が約束したのはお前とだろがよ。
 つーわけで、この刑に服すのは……」

真琴ちゃんを指さす祐一君

「お前だけだっ!」

ちり〜ん

「あぅ〜」

がっくりとうなだれる真琴ちゃん

「だってさ…しょうがないじゃない……
 ぴろの朝ご飯あげなきゃいけないんだから」

「うそつけ、どうせ一弥にまかせっきりだろうが、なあ一弥ぁ〜ははは〜」

男の子の肩をぽんぽん叩く祐一くん

「え、あ……ええとぉ」

一弥君、困ってるみたい

「祐一、あとで憶えてなさいよぅ」

そんな真琴ちゃんの言葉を聞き流して、
一弥君に肩をまわす祐一君……

「なあ、一弥、よりによってなんで、
 こんなあーぱー選んだんだ、お姉さん悲しんでるぞ〜」

「あんたっ!!あたしに喧嘩売ってるのー!!」

「祐一君、やりすぎだよ」

「はははジョーク、ジョーク」





ボクが祐一君を
一弥君が真琴ちゃんを
二人の努力の甲斐もあって
やあっと四人で仲良くお買い物♪


二人と二人、
祐一君と真琴ちゃん
ボクと一弥君、
…ちょっとボクのイメージした
組み合わせと違うんだけどぉ……

そんなボクを察してなのか
一弥くんが小声でボクに

「お互い、変なことしないか
 牽制しあってるんですね、きっと」

なるほどね

でも、一弥くん大人しいよね……
祐一君と大違い…って、
ボクの知ってる祐一君も
ここまで、子供っぽくなかったよね

ボクの祐一君も
そりゃ、ボクと話してるときはおちゃらけてるけど
…う〜ん大人の魅力っていったらおかしいけど、
ふっと見せる、ちょっと寂しそうな顔
陰りっていうのかな……素敵なんだよね〜〜

ちょうど一弥君と祐一君とで足せば
ボクの祐一君になるかな……



なにバカなこと考えてるんだろうね、ボク、はは


……あ、そうだそうだ
真琴ちゃんと祐一君のことに気を取られて
一弥君にあいさつするの忘れてたよ



一弥君の方に向くと…

「ところで、あゆさん……」

あれれ、一弥君の方から声かけてきたよ。


「その方はホントにあゆさんにそっくりなんですか?」

え!?……!!
うぐっ、先に自己紹介しておけばよかった〜

「あ…あのぅ……」

ちらっと祐一君を見る

うぅ…声殺して笑ってるぅ……
ひどいよ……フォローしてくれないなんて

「あっ…バカ…一弥!!」

ぺしっ

「あっ……
 ええと…なに、まこちゃん?」

一弥君に耳打ちする真琴ちゃん

「えぇーーー!!?」

一拍おいて驚く一弥君



……たしかにこんなこと
たびたびあっちゃうとまずいよね
お披露目も……しょうがないのかなぁ









「ふう、はぁっ……鬼!アクマ!」

「それで…一弥、佐祐理さんなんだけど」

「……」

ちらちらと後ろを振り向く一弥君

「おいおい、後ろなんかに気取られるなって」

「でも…」

「お前の荷物は果物なんだからさ、こけたら大変だぞ」

「あ、うん…」

「はふぅ、ひっ……
 人でなしのろくでなしの…くっ…はぁはぁ…甲斐性なし!!」



う〜ん…いいのかなぁ、これで

先頭を歩く祐一君と一弥君、
少し離れてボク
で、ボクからかなり離れて真琴ちゃんが
ふらつきながら付いてきてる。

両手いっぱいの荷物
片手に2袋つずつの合計4袋
その中でも特に右手、布製の買い物袋は
袋の大きさ限界まで荷物が入ってて重たそう…

さすがにぴろちゃんも
頭から降りて真琴ちゃんの横を歩いてる


あ、また荷物おいたよ……

やっぱり重いよね〜、その量じゃさ

「あぅ〜! 
 これがうら若き乙女への仕打ちぃ、信じられないわよぅ!!」

真琴ちゃんが精一杯声張り上げても
祐一君は振り向かない

しょうがないなあ……祐一君も

「祐一君! 真琴ちゃん止まったよ、待っててあげてよ!」



ボクの声でようやく振り向く祐一君。

「あぁっ? なんだよ! 真琴、早くこいって!」

知ってて言ってるよね、ちょっと意地悪だよ〜

「真琴ちゃんもう限界だよ、ここら辺で勘弁してあげなよ」

「あの…僕からもお願いします」

「…しょうがねえなあ……ったく」





「おら、もってやるよ!」

そういうと、祐一君
真琴ちゃんの荷物から
一番重たそうなあの布の袋をとりあげて
手下げ部分をひたいにひっかけ前屈みになって背負う。

「あ、僕も持ちますから」

「頭に引っかけられる荷物はこんだけだ
 お前も両手いっぱいなんだから、
 いいから、あゆと先にいってくれ」

「でも…まだ余裕ありますから」

「これで罰ゲームが終わった訳じゃない、
 そうそう楽にはさせねーって」

「あぅ〜〜…」


結局、ボクと一弥君は
祐一君にせっつかれて先に帰ることになった
まあ祐一君が付いていれば安心だもんね、真琴ちゃんも



お家にもどったときは、もうお昼

荷物を置いてほんのちょっとだけ休憩、
それから一弥君が真琴ちゃん達を迎えにまた出てったんだ。
でも1分もしないうちに真琴ちゃん達もお家に着いた。
(結局一弥君、真琴ちゃんの荷物を持てなかったみたい
 そのかわりに祐一君の荷物の半分を持たされてた。祐一君もきついよね〜)





昼ご飯は秋子さんとあゆちゃんで用意してくれたけど、
へとへとの真琴ちゃんが回復するのを待ってからにした。

昨日のことがあったから、
すこしだけ心配だったけど
昼ご飯はとっても美味しかった。

ホントどうしてあのジャムに
夢中なのか君がわからないよ…あゆちゃん。









進む

戻る

インデックスに戻る


感想メールはこちらに→eigetsu@diana.dti.ne.jp