Chasing The Rainbow 《2-7》

Cloudy Day

by詠月(SELENADE)










起きたきっかけは
名雪ちゃんとあゆちゃんの声でだった。

もちろんボクを起こしに来たんじゃなくて
廊下での声、二人で祐一君を起こそうと
声を張上げていたみたいだった。

はっきりとボクが目を覚ましたときには
祐一君のぼやき声と階段を駆け下りていくけたたましい音がしていた。

階下はおそらく一秒も争う世界
おじゃましちゃ悪いよね

…むっくり起き上がり
眠い目をこすりながら、
お布団に包まれながら
けろぴーちゃんを抱きしめながら
ボクは昨日のことをぼーっと考えていた。

起きっぱな半分ねぼけてるときって
妙に頭が回るときがあるんだよね、
起きているときじゃ分からなかったことが
すっきりと解けてしまったりもするんだ。



…名雪ちゃん、祐一君の恋人って君なの?…

昨日、名雪ちゃんに訊けなかった質問…
あの質問にこだわったのは何故なのかな…

…よくよく考えたら、
あくまであゆちゃんと名雪ちゃんと祐一君との話であって
これってボクに関係あることじゃないんだよね

どうやらボク
あゆちゃんとボクをごちゃまぜにして
考えていたみたい

…あの大きな木が見せる光景の中のあゆちゃんと祐一君に
ボクとボクの祐一君を重ねてみてたんだ…

どうしてかって、
だってあそこで見せてもらってる光景は
ボクにとっての夢なんだもの、
ずっとこころの底で待ち望んでいた…













「今日はこの前みたいに遅くなりません
 夕方には帰りますから、
 それでは、おねがいしますね」

「うん、いってらっしゃい秋子さん」

秋子さん、今日はお仕事で
ボクはお留守番

ボクに朝ご飯を食べさせてから
急いでボクのお昼ご飯を作って、それからすぐに出勤
って言うと凄く忙しかったように聞こえるけど
秋子さんに限ってはそんなことはなかった。

万事、穏やかにでも、完璧に、
まったく見事な手際。
焦りなんて全然見えないし…
いまさらながら凄いよね、秋子さんて

予定を聞いたボクの方が焦って
ソースとお醤油の瓶を間違えたり
お箸落としちゃったり、
あげくの果て干物の骨が喉に引っかかったりと
失敗しまくっちゃったし…うぐぅ…


あーぁ、ボクって駄目だなぁ
やっぱり朝ご飯、みんなみたいにパンにしようかなぁ
でも、あのジャム薦められたら怖いからなぁ
なぁんていろいろ考えながら居間でぼーっとしていると


カチャカチャ

突然玄関で音がした。

チャイムも無かったから驚いたけど
この音が鍵を開ける音だってことは分かった
だからおそらく

「秋子さん?」

急いでたから
忘れ物でもしたのかな?

やっぱり秋子さんも
あそこまで忙しいとちょっとはミスするのかな…

ちょっと嬉しかったりして


カチ、ガチャ

「おほぉ〜い、帰ったぞぉ〜」

あれ?
祐一君の声だよ、
だって今授業中でしょ、何で?
それより声、しぼり出すような声、まるでおじいさんみたい

居間のドアを開けると
祐一君が玄関に腰を落として向こう側を向いているのが見えた。

心配になって駆け寄ると

「秋子さ〜ん?」

振り向きもしない祐一君

「祐一君、ボクだよ」

「ああ、あゆか…」

ようやく体をボクの方にひねってくれた

顔はちょっと青い…具合悪そう

「早退してきた…」

「どうして?
 …もしかしたら、昨日の豆まきの?」

こくりとうなずく

「…それでも…なんとか乗り切れると踏んだんだが、
 二時間目、体育で…死んだ」













なんとか祐一君を居間まで連れていき
祐一君をソファーに座らせた。

「…ちょっとここで横にならせてくれ」

そのまま横になる祐一君。

「毛布とかいるかな?」

「ん、ああ、すまん」

二階に上がり、祐一君の部屋に直行する

しんと静まりかえる家の中で
ボクのスリッパの音だけがこだまする

その静けさでボクは気がついた

そうか…今ボク、祐一君と二人きりなんだ…



祐一君のお部屋の中ほどには
ダンボールが数箱重ねて置いてあって
雑然としていた。

このダンボールって全部下のお部屋からのだよね
ボクのためにがんばってくれてるし
感謝しなきゃ


ベランダ越しに見える空は
凄く分厚い雲が空一面に垂れ込めてる
たしか天気予報では一日中曇り…
これだと夕焼けになりそうにないね
大きな木の前に行っても駄目みたい

ようし、今日は一日祐一君の世話をしようかな


ベッドの前に行き
掛け布団をめくり、
毛布を思い切り抜き取る

それ!

ドサッ

引っ張りあげた毛布に絡まって
なにかがベッドから落ちちゃった。

毛布の中から転がり出てきたのは…大きな本、

床に落ちた拍子にその本の
ページが開かれた。

それはおねえさんの写真集だった。

黒くてつやつやの長い髪
意思の強そうなきりっとした目
足もすらりと長くて
凄い綺麗なおねえさん
でも…服着てない…下着も付けてない…
つまり…は…だ…か…

うっぐぅーーーーーー!!



誰かに見られたらたいへんー!

持ってた毛布から手を離して
本を拾い上げ、開いたページを勢いよく閉じて
どこかに隠そうと祐一君の部屋の中をあちこち動き回る。

早く隠さなきゃ!

本棚は…だめ、本の背が高すぎて入らない!
引き出しの中は…うぐ、中めちゃくちゃで本なんか入らないや…
ベッドの下は…隙間が無い…
じゃあもういっそのこと元の場所に!
上に掛け布団かけとけば大丈夫…?
…駄目だよ…毛布持ってきたボクが見なかったはずないって
祐一君思うに決まってるよ…

ダンボールにふと目がいく
一番上のダンボール、塞いでたガムテープがはがされてる
そうだ、この中に隠せばいいんだ!

ダンボールの中を開けた
すると…

中は本でいっぱいだった
ボクが手にもっているのと同じような大きさの…

そう、中はぎっしりとエッチな本で埋め尽くされていた…
その迫力に圧倒される

うぐぐぅ…

はぁ…ホントだったんだ、
祐一君ホントにエッチな本を片付けまくってたんだ…



名雪ちゃんの推測を聞いても
あゆちゃんの怒りの言葉を聞いても
ボクには実感がなかった

それだけに驚いちゃった



見つけた本は結局
ダンボールの中に入れることにした…
でも最初の入れ方が悪くてただ入れただけじゃ
ダンボールのフタが閉まらない。
仕方ないからダンボールの本を全部抜き出して
入れなおした…

うぐぅ…
もう見たくないよ…













あゆ「それはたいへんだったね」

時間はもう三時過ぎ
あゆちゃんが学校から戻ってきて、
ボクのお昼ご飯を作ってくれていた。
秋子さんが作ってくれたお昼ご飯は
祐一君にあげちゃったから。

夕方、秋子さんが帰ってくるまで
我慢しなくちゃならないって覚悟してたから
あゆちゃんが作ってくれて大助かりだよ

ボク「うん、お腹空くは、がっかりするわで…」

ボクはお料理を作ってるあゆちゃんの横で
祐一君の部屋でのことを全部話していた。

居間で寝ていた祐一君は
お昼過ぎには動けるようになって
自分の部屋に戻っていった。
だからこの話を聞かれることもない

あゆ「それで、祐一君は気づいたのかな? その本のこと」

ボク「ううん、ボクが毛布を取って戻ってきても
   部屋に戻ってからも何も言われなかったよ」

あゆ「そうだね、今の祐一君には
   そんなこと考える余裕もないよね」

たしかに『今日の片付けは中止』って
一弥君に電話してるときもふらふらしていたしね

そういえば…

ボク「一弥君どうなったのかな?
   あゆちゃん昨日気にしてたじゃない」

あゆ「祐一君がエッチな本をあげちゃったこと?、
一応手は打っておいたよ…」

ボク「手を打った? 一弥君になにか…?」

あゆ「ううん、佐祐理さんに連絡しておいたよ、
一弥くんまだ子供だしね」

さらりと言うあゆちゃん
でもそれはかわいそうな気がするんだけど…

ボク「そ、それでどうなったの?」

あゆ「…喜んでたよ」

深いため息まじりの答え

ボク「はい? 今なんて?」

あゆ「佐祐理さん…喜んでたよ、
   『あははー、あの子もそんな歳になったんですねぇ』って感慨深げに…」

ボク「うわはぁ……」

佐祐理さん…凄いというかなんというか…

あゆ「佐祐理さん、滅多なことじゃ動じないからね、
   秋子さんも動じないけど…もしかしたら秋子さん以上かもしれないね」













結局夕方になっても
雲が晴れることはなかった。
夕焼け空は今日は見えない。

祐一君の世話をあゆちゃんに任せて
ボクは夕ご飯の買い物に外に行ったものの
大きな木の前にはいかなかった。

ここ数日、いろいろ驚くことばかりだったから
そんな日があってもいいよね…



ボクと入れ違いに秋子さんが帰ってきたけど
名雪ちゃんはボクが買い物から戻ってきても帰っていなかった。
部活動で忙しいのかなと思ってたら
今日はお友達のお家で夕ご飯を食べるって電話があったって
あゆちゃんが教えてくれた。

どこのお家に行ったのかあゆちゃんに尋ねると
あゆちゃんは耳打ちするように『佐祐理さんの所』と答えた。
おそらく丁度その場にいた祐一くんに知られたくなかったからなんだろうけど
今日の祐一くんには詮索する気力なんてまるで無くて、
ただだるそうに生あくびを繰り返すばかり。
それを見て取ったあゆちゃんが安心して続ける『舞さんに会うためだと思う』
学校でも最近二人でよく話しているんだって。

夕ご飯は4人…
今までで一番人が少ない夕ご飯だった。
静かだったけど、昨日のようなぎくしゃくした感じじゃないから
おいしく食べられた。

夕ご飯が終わったころには、
祐一君も大分元気になったみたいで
あゆちゃんが貸したノートをコピーしに
コンビニまで出かけていった。













今日はあゆちゃんのお部屋で寝る日

部屋に入るとあゆちゃんが喜んで迎えてくれた
あゆちゃんはボクが泊まりにくるのを楽しみにしていたみたい

そんなあゆちゃんに悪いんだけど…
ボクはあゆちゃんのお部屋に入るなり
自然とあるものを探していた。

この前泊まった日、
ボクはあゆちゃんから天使のお人形を見せられて
衝撃を受けたんだよね

あのお人形は…

部屋の中を見回す

あった!

奥の本棚の上に
天使のお人形はちょこんと置かれて
ボクらに向かって微笑んでいた…

ボクのお人形も…もちろん微笑んでいた…
でも天使の輪を失い、片方の羽が欠け、
泥だらけだになった天使の微笑みは
…とっても痛々しいものだった。

あのお人形…ベランダに置き去りにしたあのお人形を
ボクの祐一君は受け取ってくれたんだろうか…



あゆちゃんがボクの視線の先に気づいた

あゆ「興味ある、このお人形?」

ボク「うん…」

あゆ「あゆちゃんはもう持ってないの?
このお人形?」

喫茶店で名雪ちゃんに話したんだけどな…
どうやらあゆちゃん、名雪ちゃんから話を聞いてはいないみたい

ボク「え…、うん。今は持ってないよ」

あゆ「そうなんだ…じゃあ懐かしいのかな?」

ボク「ううん、最近までずっと探してたんだよ…」

あゆ「探してた? ……ああっ!」

少し不思議そうに首をひねってから
合点がいったように声を上げた。

あゆ「そっか、埋めたんだよね、このお人形…
   えっと、あれは…」

この前はその話まではしてなかったから
あゆちゃんは埋めたこと自体忘れてたのかもしれない

ボク「夜、森で迷子になった時だよ」

あゆ「そうだ! やっとのことで抜け出したら知らない場所に出て」

ボク「まだ迷子なのに祐一君、
   『森の外に出さえすればこっちのもんだ』とかのんきに言ってたよね」

あゆ「そうそう言ってたね!
   で、ボクそこで拾ったガラスの小瓶にお人形を入れて
   タイムカプセルにすること思いついて…」

あゆちゃんの目がきらきらしている

今、ボクらは同じ思い出の中にいる…

ボク「遊歩道の脇の木の根元に埋めたんだよね」

あゆ「残った願いを、未来の自分か、
   それとも他の誰かにプレゼントするためにね」

お願い…そうだったね……
だからボクも探してたんだよね

ボク「そうだね…誰かさんへの贈り物に
   なるはずだったんだよね、もしかしたら…」

でも見つかったところで……
ボクのお願いは叶えようの無いものだったから…

あゆ「結局、ボク、自分で掘り出しちゃったよ、あはは」

ボク「それは…ボクだって同じだよ…」

楽しい話をしなくちゃ…

お人形を前にするとどうしても悲しくなるけど
ボクの方から話を振ることはしたくなかった。













続いてボクらはお互いの
お人形を掘り出した時のことを話始めた。

ボクがお人形を見つけてから
ほんの一週間しか経っていないことを話すと
あゆちゃんはずいぶん驚いていた

あゆ「7年かぁ…
   ボクだったら忘れちゃうよ」

ボク「…ボクだってそうだったよ、
   ようやく思い出したくらいだもの、
   探し初めの頃は何を探しているんだかもわからなかったよ」

あゆ「へぇ〜、凄いね…、
   それで見つけちゃったんだ」

ボク「えへへ…」

あゆ「じゃあ祐一君にもらったときと同じで
   綺麗だったでしょ、ボクのと違って」

ボク「え、ううん、そんなこと無いよ」

あゆ「どうして、だってガラスの小瓶のに入れてずっと…」

そうだよね、あゆちゃんがわかるわけも無いよね

ボクはあゆちゃんに瓶が割れていたことを説明した。
そしてボクのお人形がどんな有様だったのかも…

あゆ「…それは…悲しいね…」

ボク「気にしないでいいよ
   だからそのお人形、あまりにも昔のままだから懐かしくって」

あゆ「このお人形が?」

ボク「そうだよ、もらったときのままで、
   ボクの思い出にでてきたのと同じだよ」

あゆ「うーん、そうでもないよ、
   欠けてるとこだってあるし…」

ボク「そうなの? このお人形さんが?」

あゆ「うん、そりゃ7年もここにあればね、
   色あせなんかもしちゃうしさ」

ボク「そうなんだ…」

あゆ「ちょっとまっててね」

あゆちゃんは立ち上がると
お人形を取ってきてボクに渡してくれた、
両方の羽をよく見てと言いながら

お人形のフェルトでできた羽

言われた通り見てみると、
左右の羽の形がつりあってない…
よく見ると左の羽の端が欠けていた…

まじまじとお人形を眺めているボクに
あゆちゃんが付け加えた

あゆ「…あのガラスの小瓶も、取っておいたんだけど
   つい最近…無くしちゃったんだ…
   思い出ってこうやって少しずつ失われていくのかなぁ」

寂しげなその声…
思い出にしかすがれないボクには
とてつもなく切なく響く…













あゆ「で、あゆちゃんが見つけたお人形は…今は?」

ボク「…無いよ」

あゆ「だって、お願いを叶えてもらう為に探したんでしょ?」

ボク「うん…そうだったんだけど……人にあげちゃった……」

あゆ「お願い、叶えてもらわなかったの?」

うなずくボク
でもそれだけじゃあゆちゃんは納得してくれない


ボク「…その…一番…好きな人にあげたよ…」

ホントはベランダの隅に置いてきただけだけど…

あゆ「…祐一君だね? あゆちゃんの世界の」

ボク「えっあっ…違うよ…」

見透かされたような言葉に
うろたえるボク

いままでの虚ろな気持ちから
色めき立つ気持ちへとボクの気分は一変した

あゆ「とぼけてももう遅いよ〜、
   ちゃんとそこに書いてあるよ」

あゆちゃんが指差したのはボクの顔…

思わずほっぺに手をやると…熱い…
うぅ、ボク顔赤くなっちゃってるよぉ

でもどうしてわかったの?

ボクはあゆちゃんに、理由を尋ねてみた。

あゆ「そりゃ、だって、
   あゆちゃんの祐一君、帰ってきたの最近なんでしょ
   突然、お人形探しはじめたとしたら
   祐一君がきっかけになったとしか思えないよ」

ああ、そっか、そうだよね
当然といえば当然なんだけど…
全然気づかなかったよ…

あゆ「でも、これでわかっちゃった♪
   あゆちゃんも祐一君のこと好きだったんだね」

うぐぅ…
余計なことは言うもんじゃ…
……あれ?

ボク「ね、今あゆちゃん『も』…って言ってなかった?」

その言葉に今度はあゆちゃんの顔が見る見る間に……

これで引き分けだね〜、あゆちゃん













あゆ「あー、顔から火が出たかと思っちゃったよ…」

ボク「あはは、こんどはあゆちゃんの方が
   口が滑っちゃったみたいだね」

あゆ「あーぁ、油断しちゃったよ」

ボク「それで、あゆちゃんは
   どんな理由で掘り出したの、お人形さんを?」

今度はボクが質問する方

あゆちゃん、はさっきのボクみたいに
『えーと』とか『うーんとねぇ』とかはっきりしない

うん、だとしたらこれしかないよね…

ボク「好きな人の為でしょ、そうでしょ」

その好きな人はもちろん判りきってる、
でも、ちょっとばかりここは意地悪にしちゃおうっと

あゆ「そうだよ…祐一君に渡す為だよ」

あっさり認める、あゆちゃん

ほんのすこしだけ表情が崩れる
…他のひとならわからないかもしれないけど
同じボクだから判ったのかもしれない

あゆ「あんなに辛そうな祐一君、
   見たことなかったからね…」

祐一君がそのときどんな辛い目にあっていたのかは
あゆちゃんは教えてはくれなかった。
でも、あゆちゃんの声と表情から
祐一くんの辛さが相当なものだってことが分る。
同時にあゆちゃんの祐一くんに対する深い想いも…

あゆ「うん、だから…どうしても見つけなきゃならなかったんだ
   …お願いの力なら祐一君を救えると思ったから」

その言葉にボクの口が唐突に動く。

ボク「ねえ、あゆちゃんはお願いの力を信じるの?」

あゆ「え? どうしたの突然?」

驚いた声

ボク「だって、このお願いは祐一君が叶えてくれるものだし…
   そうすると叶えようのないお願いだってあるかもしれないよね…」

すごく意地悪い質問かもしれない
でも、ボクにとっては、あのお人形のお願いは…

あゆ「祐一君にもそういわれちゃったよ
   『俺の出来ることに限られるはずだぞ』ってね」

机の上に置かれた人形に視線を向けるあゆちゃん。

あゆ「でもボクは信じてた、お願いの力を、
   それは今でもそうだよ」

ボク「…どうして…?」

あゆ「だってお願いを信じるっていうことは…
   祐一君を信じるっていうことだから…」

ボク「……!!」

あゆ「確かにこのお願いは…祐一君がくれたものだけど
   ボクの祐一君を信じる気持ちでもあるんだよね」

ボク「………」

あゆ「違うかな、あゆちゃんと?」

ボク「ううん…」

あゆ「だからこのお願いは…祐一君が言ってたことより
   もっともっと強いはずなんだ…
   そう信じて、ボクは祐一君にお人形を渡したんだよ」

そうだったね…
あゆちゃんの言うとおりだよ
このお人形の中には…祐一君を信じるボクの気持ちが
確かにこめられていたんだ。

ボクだって祐一君を信じていたんだから…

だから…探していたんだ、来る日も来る日も…





あゆちゃんがお人形を渡したその後のことは訊かなかった。

なにより今の祐一君の姿を見ればわかりきってるし
お人形もあゆちゃんの元に戻ってきている。
きっとお願いは叶ったんだろうね。




…もしかしたら…
最後の最後まで
ボクが祐一君を信じていたら…
ボクのお願いは叶ったのかもしれない…
でも、もう遅い…

…ボクがあゆちゃんと違ってたのは
最後まで祐一くんを信じきることが
出来なかったことなんだ…













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