琵琶の未来を担う人

 はるばる西アジアからわが国まで伝来した琵琶は、長い歴史のなかで実にさまざまな音楽のスタイルを生み出し、人びとの心に訴えかけてきました。その流れは現代でも脈々と続いています。そして、新しい技法をさらに取り入れる可能性を秘めています。そうした琵琶の未来を担う若手の一人が中村鶴城さんであると私は確信しています。それは鶴城さんが完璧な琵琶人と呼ぶにふさわしい人柄と技術を備えているからです。
 平家物語のなかでもとりわけよく知られた部分を題材にした「敦盛」と「壇の浦」を説得力のある演奏でCD化することのできる人は、まだ数多くはありませんが、鶴城さんはこれをやってのけました。それが可能であったのは、鶴城さんが日頃からきわめて繊細な感性を働かせて、歌や弾法(奏法)に磨きをかけてきたからだからではありません。その背後には、楽器の調整ばかりか楽器作りにさえ神経を集中させ情熱を燃してきたという、目に見えない事実があるのです。
 優れた楽器奏者は、自分の分身としての楽器が「うまく口がきけるように」いつでもコンディションを整えてあげなければなりません。琵琶の場合、調弦はもとより、この楽器の特徴となっている「サワリ」の効果が程よく出せるように調整する手仕事が必要なのです。三味線と違って琵琶では、フレットに相当する幅広の柱(ちゅう)がサワリをつけてくれます。弦を強く押す奏法を何日も繰り返すうちに柱の表面は摩耗していきます。それをのみで優しく手当してあげなければならないのです。
 ところが、この技術を身につけている琵琶人は少ないというのが現実です。鶴城さんは、その数少ない一人です。楽器作りの点ではもう十五、六面は琵琶を作ったでしょうか。
 コンディションが整った楽器は、心のおもむくままに「口をきいて」くれます。そして、その音たちは「樂の音」へと変身していくのです。さらに、自らの声をそこに絡ませます。一見かぼそく見える鶴城さんの身体は、演奏に入った瞬間、不思議なくらいデンと大きく見えます。それは、日頃から楽器と対話を重ねてきた当然の結果なのかもしれません。
 文字通り琵琶の未来を背負って立つであろう人、それが中村鶴城さんです。

鶴田錦史

(CD「琵琶 中村鶴城」日本クラウン,1992,ブックレットに収められた推薦文)