琵琶を知る


琵琶歌と琵琶伝の違い

 
 伝統的な琵琶弾き語りは、文語で作詞され、それを琵琶を伴奏に歌うもので琵琶歌といわれます。日本伝統音楽のなかでは、「語りもの」として分類されていますが、実際には旋律豊かな歌唱音楽である「歌もの」という印象がつよく感じられます。

 琵琶歌は曲の独立性が高く、物語として一曲一曲が完結しているのが特徴です。ただ、叙情表現は得意ですが複雑な物語を叙述することは大変苦手です。なぜなら、旋律ゆたかな曲は演奏に時間がかるために言葉数に制限があるからです。従って、余り知られていない物語、登場人物の多い物語、ストーリーの複雑な物語などは、琵琶歌で表現することがとても難しいといえます。

 さらには現代人には馴染みのうすくなった文語表現という制約が、琵琶歌への敷居を高いものにしているかもしれません。
 こうした欠点を補いながら、より豊かな内容表現を可能とする新しい形が琵琶伝で、琵琶演奏家・中村鶴城が創案しました。

 琵琶伝は一段、二段という段で構成され、各段のスジが密接に関連しあっていますので、全段を通しで聴いて初めて物語が分かるようになっています。

 琵琶伝は、わかりやすい現代語の語りをベースに、従来の文語体の琵琶歌を織りまぜながら語られます。叙述を得意とする現代語の語りがストーリーの展開をみちびき、一方、叙情を得意とする琵琶歌がそれに彩りをそえます。そして琵琶という表現豊かな伴奏楽器が、情景描写や心理表現を巧みに盛りたてます。

 現代語の語り、文語の琵琶歌、琵琶という楽器。この三つの表現方法が、それぞれの特徴を活かし合い、補い合いながら物語をつむいでゆく、それが琵琶伝という「音楽語り」です。

「琵琶伝誕生」