この8月に山根英治が帰国し、大阪、名古屋、そして東京で久しぶりのライブを行いました。ここではライブの抜粋をお届けします。

8月10日、東京六本木PIT-INN。70年代初頭からジャズ、フュージョンのステージを行うライブハウスの老舗で、EIJIのライブは行われました。

ライブの主な構成は、1.EIJIによるカット実演、2.彼が教えてきた日本スタッフの作品の解説、3.EIJIの公開インタビュー。

連日の大阪、名古屋でのライブとティーチインを盛況で終え、ハッキリ言ってEIJIとスタッフらはかなり疲れていました。限られた時間の中でドライカットを理解してもらえるように、20人近いモデルを用意され、前日から各スタイリストの「仕込み」が行われました。

11:30
開場前から観客が並び、開演時間までには立ち見客まで会場は満杯に。

12:35
ライブハウスらしいビートのきいたサウンドから一転、心おだやかな水音が聞こえてきたところで、ロックミュージシャンのようなEIJIとモデルが登場。EIJIは無言のままいきなりカットに入りました。
いつもライブ前は落ち着かない様子のEIJIですが、髪の毛をカットし出すと、集中することで精神状態が安定してきます。摘んでは切る、そのくり返しにより、モデルの髪が生き物のように動き、美しいラインがしだいに現われてきます。カットしてもボリューム感を失うことなく。
ときにおだやか、ときに激しいサウンドをバックに、動く彼の手とはさみに観客は息をのみ集中しました。

13:20
ライブの時間の関係で、ニューヨークの店では2時間近くかけるカットを、この日は40分で終了。

「今日は言いたいことを言わしてもらいます。失礼だと思われる人もいるかもしれない。だとしたら、勘弁してください。ただ、言っておかないといけないことがあるような気がするんです」
カットを終えたEIJIが観客をいきなりけん制。


13:30
東京でのライブでは、ニューヨークから彼の片腕の広瀬雅も駆け付けてくれました。

EIJIが、広瀬のモデル作品を紹介、広瀬自身がコメントを加えます。続いて、EIJIが5年前から日本で指導しているスタイリストの成田、塩屋、小林(以上ジュネス)、柴、杉本、HIROSHI、松尾(以上ABISH)、大田(BAKER)、中里(フリー)らがモデルとともに登場し、EIJIが作品を紹介し、解説を加えました。
どの作品も流れるようなラインの優雅さと、髪の豊かなボリュームがわかり、ドライカットの特長を観客にアピールしていました。
EIJI「最近日本ではシャギーばやりですけど、髪を削げばボリュームがなくなる、とくに日本人の場合、外人より髪の毛が少ないから。ドライカットでは、削ぐのではなく、はさみでミリ単位でカットしながらラインをつなげる。下から積み上げたラインがつながって、ボリュームがあり、自然な動きの中でもそのラインが崩れない作品ができあがるわけです。実際に触ってみてください」

14:10
ここで休憩時間が入りました。観客はステージ上に集まり、モデルの髪を触ってドライカットを確認し、それをカットしたそれぞれのスタイリストに質問していました。

  

14:20
ステージ再開。EIJIへのインタビュー。インタビュアーはジャーナリストの岡高志。

 「ドライカットは時間がかかるね。原宿あたりの美容師は20分で切っちゃうけど、そういうのどう思います?」
EIJI「それでお客様が満足できるのならそれでいいんじゃないですか。僕らは髪の毛の1本1本を見ながらカットしてラインを作るから1時間半〜2時間かかりますけど」
 「経営ということを考えると、非効率といえないかな。経営コンサルタントが見たら、なにやってるんだと言われるかも知れない」
EIJI「僕らのサロンには、いままでどこのサロンでも満足できなかった人が来ることが多いんですよ。それも世界中からね。だから僕らはお客様が納得できる技術を提供するだけなんですよ。そうするための結果としてドライカットとなっているわけです。
ニューヨークでは日本と同じように20分程度切って、10$、30$、40$とっているところもあります。その中で僕のサロンでは100〜200$とります。もちろんそれだけの満足をしてもらってね。たとえばお客様が望んでいることがわからないときは、切らないで30分も40分も話をしていることもある。お客様の望んでいることを理解してはじめてカットするわけ。日本では美容師もお客様も何も言わないことが多いでしょ。あれはいけないな」
岡 「たしかに日本ではお客が何も言わないで納得しちゃうことが多いね。カリスマ美容師に切ってもらって、こんなもんかな、という感じで」
EIJI「ニューヨークでは「右が数ミリ長い」とかお客様が言いますからね」
 「ドライにこだわるのはなぜですか」
EIJI「僕は技術者自身が納得できるのであればウエットでもかまわないと思いますよ。こだわっているといことではなく、僕らにとってドライは、僕ら自身が納得できる技術、つまりお客様に満足してもらえる技術だからドライを選択しているだけなんです。
僕も最初はウエットで1日に20人も30人も切っていた。経済的には満足できたけど、切りながら「なんでこんなことしているだろう」って、幸せじゃなかった。美容師として幸福じゃなかった」
 「ドライカットに出会って変わった、と」
EIJI「そう。僕はいつも髪の毛のことばかり考えている。どうすればいいラインができるか、満足してもらえるか、そればかり考えて仕事しているんです」
 「ラインというのはどうやってイメージするのですか。なにか型があるとか」
EIJI「いつも僕の頭の中にあります。イメージとして」
 「ミケランジェロが彫刻するとき岩を見て、『この岩に中に作品が埋まっている。自分はそれを掘り起こすだけだ』と言ったらしいけど、それと似ているような」
EIJI「いや、ミケランジェロは天才だけど、僕ら凡人は毎日努力するだけ
。それがないとラインは見えてきませんよ。僕は本当に毎日練習してますよ、こんな美容師いないんじゃないかと思うぐらい。あと、僕がラッキーだっのは、師事した先生たちが先進的な考えの人たちだったことでしょうね」
 「福岡の増江先生やNYのジョン・サハグさんですね。ところで日本の美容師は勉強不足?」
EIJI「そうはいいませんけど、自分を未熟、下手だと気付いていない美容師は多いかも。でも、考えてほしいんですよ、自分が客であった場合、カットしてほしいの美容師は自分自身であるか。そうでなかったら自分の足下から見つめなおして練習してほしい」
 「今回、大阪、名古屋とドライカットを見てきたけど、美容師ならはまるね。ちょと、ヤバイかも」
EIJI「確かに。いまのままでいい、という人は見ないほうがいい」

14:50
さきほどの20人のモデルとスタイリストたちが再登場。EIJIが作品の一つ一つにアレンジを加えたあと、最後のトークへ。
EIJI「さっきも言ったように、僕らはお客様を満足させるため、同時に僕ら自身も満足するためにドライカットをやっています。何時間も一人の髪を切っている僕らは、みんなから見れば異端児かもしれない。でも、できあがった作品をみてくれれば、なぜドライカットを選んでいるか理解してもらえると思います。
僕はいまでもうまくなりたい。僕のサロンのスタッフはいろんな国からきているけど、みんな同じように思っていて、僕の仕事を見て、そして僕といっしょに練習してます。そういう気持ちを持ち続けていないとNYでは見捨てられるからです。本当にうまくなれば、人種に関係なく実力のあるスタイリストには客がつくし、雑誌やショーの仕事がくるからです。
5年前から日本に帰って全国で講習をはじめて、ご覧のとおり日本のスタッフもすごくうまくなってる。彼等は練習しているからですよ。中には僕でも驚くぐらいうまい人も出てきています。
今日、はじめてドライカットを見た人がいるかもしれない。僕はドライが良くてウエットが悪いなんて言うつもりはない。ただ、みんなにいま自分がベストなのか、ということだけはいつも考えてほしい。常に技術者としての自分と対峙(たいじ)する、向き合う勇気を持ち続けてほしいということ。もし、自分はベストではないという答えが自分で出せたら、もう一度スタートをきる勇気を持ってほしいんですよ。それに気付くか、気付かないかで、皆さんの美容師としての生き方が変わってくるはずです。これだけは言っておきます。かつての僕もそうだったし、この日本のスタッフたちもみんなと同じだったんです。
僕がいないあいだ、松田企画事務所と講師達が、みんなの手助けをしてくれるはずです。今日はほんとうにありがとう。また会いたいと思います」

15:20
THE BANDの「I shall be released」の曲が流れる中、ライブが終了した。

今回は、東京の他、大阪、名古屋ではより感動的なライブが展開されました。ライブを支援してくれた全国のスタイリストたちに感謝の意を表します。
感謝:岡高志さん、小山さんはじめヘアサロン・ロコのスタッフ、馬場さん、小田垣さん、田沢さん、伴さんはじめバーンズヘアのスタッフ、ジュネススタッフ、ABISHスタッフ、パパラッチのスタッフ、小松美容室スタッフ、前田さん、原田さん、丸山さん、ハリウッド美容専門学校、仙台の佐藤さん御夫婦、亮くん、AKIRA、他多くの有志のみなさん、本当にありがとう。

松田企画事務所:松田、会沢、岡田、中村