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Discography

Hill of Thieves / Cara Dillon

26/January/2009

Hill of Thieves 01. The Hill Of Thieves **
02. Johnny, Lovely Johnny *
03. The Parting Glass *
04. Spencer The Rover *
05. False, False *
06. Jimmy Mó Mhíle Stór *
07. She Moved Through The Fair *
08. P Stands For Paddy * / Lament For Johnny **
09. The Verdant Braes of Skreen *
10. The Lass Of Glenshee *
11. Fil, Fil, A Run Ó *
* Trad. arranged by Cara Dillon and Sam Lakeman
** written by Cara Dillon and Sam Lakeman
Label : CHARCOAL RECORDS, Number : CHARCD002
Recorded and produced by Sam Lakeman
解説
ソロとしての通算4作目となるアルバム。
タイトルの "Hill of Thieves" とは、カーラの生まれ故郷である
北アイルランド・ダンギブン村の東部に位置する山岳地帯で、
アイルランド語の名称 "Benbradagh" を英語に訳したもの。
過去のアルバムに収録されている伝承曲に "The River Roe"
(ロー川)の名がよく登場するが、この "Benbradagh" も同じく
豊かな自然に囲まれたダンギブン村のシンボルといえる存在。

本作品に収録の全11曲はオープニングを飾るタイトル曲を除き、
残り全てが伝承曲で彩られている。北アイルランドのデリーや
ドニゴールに起源を持つ伝承曲が多く、そのほとんどはカーラが
幼少の頃より慣れ親しんできた曲であるという。
レコーディングは英国サマセット州にある自宅スタジオを使い、
2007年の後半頃からコツコツと進められてきた。
録音の開始が2006年11月の出産から僅か1年後ということで、
幼い子供達を寝かしつけた後の少ない時間を見つけながら
楽曲のアレンジなども続けてきたという。

さて、本作の特徴としてはまず演奏のシンプルさが挙げられる。
これは、オーケストラの導入まで行われた前作と比べるなら
まさしく対極とも言えそうだが、ドラムとエレクトリックギターが
使用されていない点などに着目すると、デビュー作よりも
さらにシンプルな構成で録音されたことになる。
そんな作風となったのも、出産時の経験が大きく影響したと
カーラはインタビューで語っている。

2006年の11月、英国ツアー中のカーラはコンサート終了後に
突然産気づき、直ちに病院へと搬送されることとなった。
3ヶ月もの早産であったが、双子の赤ちゃん達の経過も良好、
保育器の中ですくすくと元気に成長していった。
しかしながら、カーラは母親となったことで世界観が一変し、
その後の音楽活動や私生活に対する不安が、予想を超える
大きさと速度でその身に降りかかってきていた。
そんなハードな時期を過ごす中、彼女を精神的に支えたのが
子供時代に聴き親しんだアーティストの音楽であったという。

「看護のために病院で数ヶ月を過ごし、それから子供達と共に
  帰宅を許された後も、ほとんど眠る時間がないような日々が
  しばらくは続きました。その時期、病院や自宅で過ごす際に
  よく聴くようになっていたのがプランクシティやボシー・バンド、
  ドロレス・ケーンといった、10代の頃から好きだった人達の曲。
  どれもシンプルな曲なのに、なんて心に響いてくるんだろうと
  あらためて実感させられました。」

「育児中も自然とそういった昔の曲を口ずさむようになってきて、
  子供達を寝かせる時にも子守歌にしていました。
  夫のサムがそんな私を見て、今の私が自然と歌いたくなる曲を
  レコーディングしてみようか、と言ってくれたんです。
  それがきっかけで、子供達にお乳をやり、オムツを替えたりの
  育児をしながら作り始めたのがこのアルバムです。
  どの曲も、私たちが演奏し歌ったものに余分な手を加えず、
  ありのままの状態で収録しています。
  そしてこの作品は、私のルーツ・アルバムとも言えます。」


こうして2008年の秋、ソロ4作目のアルバムは完成を見た。
本作に収録されている伝承曲のいくつかは、以前よりカーラが
レコーディングを切望していた曲であったそうだ。しかしながら、
ヒットが見込める楽曲の制作を期待しての事であったのだろう、
かつて在籍したレコード会社からはその許可は出なかった。
出産を契機に自立を決意し、独自のレコード・レーベルを創設、
やっと選曲と楽曲アレンジの自由を手に入れたのが現在である。

「レコード会社からのプレッシャーを気にすることなく、自分達の
  思うとおりに作ることができた、初めてのアルバムです。
  このアルバムが英国インディー・チャートの7位になった時には、
  なんだかとても複雑な気持ちになってしまいました・・・。
  だってこれは、今まで私達の周囲にいたレコード業界の人々が
  私達にずっと期待していた事だったんですもの。」


懸念されていたコンサート活動も、保育士を帯同させることで
可能な限り子供達を連れながら精力的にこなしている。
父と母となったカーラとサムの、新たな音楽の旅がスタートした。
各曲の解説・訳詞
※ 以下、「」内はインタビュー等でのカーラのコメントです。

01. The Hill Of Thieves

(訳詞)
カーラの故郷、ダンギブン村への思いを綴ったオリジナル曲。
自然に恵まれたダンギブン村のシンボルとなっている山や谷、
河などの名称が歌詞中にも数多く登場する。
また、アイルランド人としての彼女の思いも込められた作品。
「子供時代から私の一部となっているような多くの伝承曲の数々が
  融合した、そんな感じの曲です。故郷の古い友人達に聴かせても、
  まるで伝承曲そのものだね、という反応が返ってきました。」


02. Johnny, Lovely Johnny

(訳詞)
北アイルランド、デリー州の伝承曲。
「まさにアイルランドの曲のハートの部分とも言うべき、移民による
  人々の心の喪失感が表現された曲です。」


03. The Parting Glass

(訳詞)
アイルランドとスコットランドで別れの際に歌われ続けている伝承曲。
メロディだけなら1600年代の昔から存在していたという。
サムのピアノ伴奏による美しいバラードにアレンジされており、
本作中でも人気の高いナンバーとなっている。

04. Spencer The Rover

(訳詞)
本作までアルバムには収録されていなかったが、ソロ・デビュー直後の
コンサートではエンディングによく披露されていた伝承曲。
その当時に行動を共にしていたサムの弟、セス・レイクマンが参加し
コーラスおよび軽快なギター伴奏を聴かせてくれている。
「いくつか別のアレンジも試してみたんですが、どれもしっくりこなくて。
  それでセスに来てもらい、かつてと同じアレンジで録音しました。」


05. False, False

(訳詞)
この曲もソロ・デビュー当時はコンサートの定番だった伝承曲。
乙女の切ない恋心を詠った美しいバラードで、特に海外のファンの間で
アルバム収録を望む声が高かった。1960年代の後半、ある旅の老女が
歌っていた曲が起源であると記録されている。

06. Jimmy Mó Mhíle Stór

(訳詞)
移民としてアイルランドを旅立ってしまった恋人の帰りを待ち続ける、
ある女性のはかなく切ない心情を綴った古い伝承曲。
ギター、マンドリン、フルート、パイプという4つの楽器だけを使った
シンプルな伴奏に、カーラの歌声がうまく乗っている。中盤からの
ハーモニーも心地よい。

07. She Moved Through The Fair

(訳詞)
多くのシンガーによって歌われている有名な伝承曲。ジミー・ペイジも
ヤードバーズ時代、 "White Summer" というインストゥルメンタル曲に
アレンジして発表している。カーラはこの曲を前作発表後のツアーでは
オープニングに披露していた。アルバム収録が待ち望まれていた曲。

08. P Stands For Paddy / Lament For Johnny

(訳詞)
カーラが学生時代、地元の友人達と結成したオイガというグループの
定番であった伝承曲。そのライブ・アルバムにも収録されている。
彼女自身のお気に入りの曲のようで、ここ数年はコンサートでも必ず
披露されるようになった。本作のヴァージョンでは、後半から続いて
"Lament For Johnny" という曲が付け加えられている。曲というより、
セッション形式でレコーディングしていたところ勢いで演奏が続いたと
言ったほうが正しいかもしれない。カーラもこれに合わせるような形で
スキャット風の歌唱を聴かせており、意外と良い感じになっている。
曲名の P は Paddy の頭文字で、直訳すると「Pさんはパディのことを
意味する(指している)」という感じ。

09. The Verdant Braes of Skreen

(訳詞)
Skreen とはアイルランドの地名で、2ヶ所ほど該当する土地があると
言われているが定かではない。Braes は斜面や小渓谷なのだそうで、
「スクリーン村の緑あふれる丘にて」というような舞台を想定しながら
聴くとイメージが湧いてくる。この伝承曲も、サムのピアノ伴奏による
優雅なバラード調にアレンジされている。

10. The Lass Of Glenshee

(訳詞)
1800年頃に作曲されたというスコットランドの伝承曲。
Glenshee もスコットランド内の土地名ということなので、邦題としては
「グレンシーの乙女」というところ。ある城主が、村で羊の世話をする
美しい娘を見初め求婚するというストーリー。(ハッピー・エンド)
ギターやブズーキ等の弦楽器を中心とした伴奏で、アレンジも秀逸。
「夫のサムは、私がまさか伴奏が付かないだろうと思うような曲にも
  すぐに対応してくれます。彼にとっては初めて耳にする曲であっても、
  私の歌に合わせてピアノのメロディを付けてくれるんです。」


11. Fil, Fil, A Run Ó

(訳詞)
1800年頃、ドニゴール地方に住むある女性が作ったとされる伝承曲。
曲名を英語に翻訳すると、"Return, Return, My Love" となるそうだ。
作曲者の2人の息子がカソリックの司祭になるため、アイルランドから
ヨーロッパに向け旅立つ。しかし船が難破するという不幸にみまわれ、
2人はそれぞれ別の道を歩む運命となる。長い年月を経た後、2人は
共に故郷に戻って来るが、1人は異なる教会の聖職者となっていた。
結果的に教義に反する行いをしてしまった愛する息子を嘆く、母親の
心情を表したという哀歌。歌詞は全てゲーリック(アイルランド語)。

カーラもかつては学校でゲーリック語の授業を受けたということだが、
正確な発音など、会話となると現在ではあまり自信がないそうだ。
それでも今回、本作の締め括りに、ゲーリック語で書かれたこの曲を
無伴奏の伝統的な歌唱スタイルで披露してくれている。
「ずっと好きだった曲です。メロディがすごく素敵で、故郷に住む人達も
  よく歌っていたものです。この曲の、ゲーリック語の歌詞が意味する
  内容について詳しいわけではありませんでした。ですからサムに、
  この曲をレコーディングしても大丈夫かなあ、と尋ねてみたところ、
  音楽であることが大事なんじゃないか、自信を持て!と言われました。
  幸い、ゲーリック語に堪能なシンガーからの批判は出てないですし、
  他にも歌って!というリクエストをメールでもらってます。(笑)」